37 情夜

「ぅん、ん……、っ」

 食べられてしまうのではないかと思うほどに、荒々しく口づけられていた。

 混乱と恐怖と、それから、説明のつかない高揚感に襲われて、アイリスの頭の中はぐちゃぐちゃになった。

 深く絡みつくようにされ、酸素を求めてアイリスは口を開いた。
 すると、口腔内に熱く濡れた舌がねじ込まれてくる。

「や、っ、ん――」

 小さな口中をルイスに舐められて、アイリスはびくりと体を震わせた。
 固い扉に肩が当たる。
 アイリスの粘膜を味わい尽くそうとでも言うように、ルイスはアイリスの後頭部を大きな手でつかんで、くちびるを重ねてくる。

 こすり合わされる熱と、互いの唾液の立てる淫靡な水音に、アイリスの背すじがぞくぞくした。
 両脚から力が抜けて、しゃがみこみそうになるところを、ルイスの片膝が股に入れられて留められる。

「あ、……ッ」

 まだ成熟しきっていない秘部を男の脚で刺激されて、甘い感覚がアイリスの下腹に滲んだ。
 本能的に逃げようとしたが、背中の扉と、腰に回されたルイスの腕に阻まれた。

「いや、……っぁ、ルイス……」

「僕はもう、きみしかいらない」

 漆黒のローブを脱ぎ去りながら、獰猛な光をたたえた瞳でルイスは告げた。

 灰色のシャツと黒のトラウザーズの姿になった彼は、魔術師から一人の男に成り代わったように見えた。

「きみしかいらない。
 セーレの使命も、亡き両親の思いも、兄や弟、妹さえ、すべてをここに置いていく。
 果てのない嘆きからきみを救うことができたとしても、できなかったとしても、アイリスがこれまで起こしてしまったことは消えない。追っ手はかかり続けるだろう。
 そして僕は、きみを絶対に失えない」

「ルイス――、っん」

 ふたたび口づけられた。
 ゆっくりと離れて、琥珀色の瞳に見つめられる。

「アイリス、きみを愛しているよ。
 僕のすべてはきみのものだ」

 ルイスの長い指が、ワンピースの前ボタンに掛かった。
 ひとつひとつ外していくあいだにも、アイリスのまぶたや頬、くちびるに、ルイスは口づけていく。

 彼の伝えてくる想いが切なくて、アイリスの右目から涙が零れた。

 それをくちびるで受け止め、ルイスはささやくように呪文を詠唱する。
 現代では意味をなさない古代語が、唄のように優しくアイリスの肌を撫でていくようだった。

 いつのまにか、本能的な恐怖が溶け消えていた。
 アイリスは無意識のうちに、ルイスにすがるように彼のシャツをつかんでいた。
 身じろぎをすると、ルイスの脚に陰部がこすれて、甘く切ない疼きをアイリスにもたらした。

 ルイスの詠唱とともに、ふたりの足元から黄金の籠が編み上げられていく。
 花の輪郭をなぞるように美しく、しめやかな光の軌跡だった。

 ルイスの結界は、外界を完全に遮断した。
 暖炉の薪が爆ぜる音も、室内の匂いも、夜の寒ささえ、ルイスはアイリスから奪った。

 腰のリボンがほどかれる。
 首すじに口づけられながら、ワンピースが肩から落とされる。

 シルクのシュミーズも、小さな胸を覆っていたコルセットも、太ももに巻かれたガードルや、ウールの長靴下も、ルイスの手によって取り払われた。

 脱がせる手つきはとても優しく、いたわりに満ちていて、けれど、現れた素肌に落としていくキスは情熱的だった。

「ぁ、ん、ん……っ」

 薄い肩を甘く噛みながら、ルイスは片腕でアイリスを抱き寄せる。
 もう片方の手でショーツの腰紐を引き、残っていた最後の布をアイリスから取り去った。

「アイリス――」

 彼のてのひらが細い腰を撫で、腹部を通って、アイリスの片胸を包む。
 やわらかく揉まれて、心地よさが広がった。

「あ……っ、や、だめ……」

「てのひらに吸い付くような肌をしているね。
 白くて、なめらかで、とても綺麗だ」

 ルイスは陶酔するように告げる。

「声も、もっと……僕だけに聞かせて、アイリス」

 指のあいだに、硬くなりかけていた乳首を挟む。
 くにくにと弄られて、アイリスは強い快楽に襲われた。

「っ、あ、ぁ……!」

「可愛い。小鳥みたいに可愛い啼き声だ。
 アイリスの胸の先は、淡いピンク色をしていて可愛いね。
 ほら、でも、こうやって撫でていると、赤く色づいてくる。
 こんな風に健気に立ち上がっているのを見てしまうと、まだ熟していないことはわかっているのに、もぎ取って食べてしまいたくなるよ」

 みだらにささやきながら、指の腹でルイスは乳首を撫で回している。
 甘い快感がアイリスを支配して、どうしてか下腹のあたりが熱を帯びた。
 両脚の奥からなにかがじわりと滲み出て、ルイスのトラウザーズを濡らしてしまったような気がする。

「ルイス……、ルイス」

 ルイスの指に翻弄されながら、アイリスは必死に訴えた。

「体が、変なの。
 どうしよう、わたし、お腹の下のほうが――、っ、あ……っ」

「お母さんやお姉さんたちが、男の客に組み敷かれているのを見たことは?」

 アイリスは、淫靡な感覚に乱されながらも、なんとかうなずいた。

「ある、けど……、でも、あれは、お金をもらうための……」

 仕事場と称されていた寝室の、その奥の部屋がアイリスの居室だった。

 扉の隙間から、体を好き勝手に扱われる母や姉の姿を、何度も見たことはある。

 見るたびに、恐ろしかった。
 母と姉が、その行為に苦痛を感じていることを、アイリスは知っていたからだ。

 だから、娼館を逃げ出した夜に、ならず者たちに襲われそうになったとき、総毛立ったのだ。

「お金をもらって、ごはんを買うための……、ルイスは、ルイスも、そうするの?」

 問いながら、悲しみが押し寄せてきた。

「わたしを好きに扱って、それで、わたしにごはんをくれるの?」

「僕にそのつもりがあったなら、きみと出会った夜にすでにそうしていたよ」

 乳房を愛撫する手はそのままに、腰に回っていた腕がそのまま陰部に伸ばされた。
 膝がそこから抜かれると同時に、愛液をたたえ始めた粘膜を、硬い指の腹で撫でられる。

 途端、これまでとは一線を画すような刺激にアイリスは貫かれた。

「っあ……!」

「何度も伝えただろう?」

 ゆっくりと割れ目を擦りながら、ルイスはアイリスの耳に舌を這わせる。

「きみが大切だよ。誰よりも愛してる。
 こんなにも可愛いきみを、僕が娼婦のように扱うわけがないじゃないか。
 ずっとふれたかったのは本当だ。無垢なきみを穢したいと思ったことだってある。
 けれどアイリス、きみをなによりも愛してる」

 媚肉を押し広げるように動いていた中指が、ずぷ……と膣孔に差し入れられる。

「ひ……っ」

 びくりと反らした背を、ルイスはもう片方の手でなだめるように撫でた。
 指はゆっくりと差し込まれていく。
 きつく閉じた隘路をこじ開けられる異物感に、アイリスは喘いだ。
 つま先は床についているけれど、自分の力で立てていなかった。

「ぁ、あぁ……っ」

「きみの笑顔が、声が、話し方が好きだ。
 緑色の瞳も、小さな耳も、色づいた頬も、くちびるも、抱き寄せたときの甘い香りも、すべてが好きだ。
 好きだよ、アイリス」

 節くれだった指が、ついに根元まで差し込まれた。
 きつく締まる蜜壁を、ルイスは優しく撫でた。

 ぞくぞくした官能が、アイリスの指先にまで伝わる。

「いや、ぁ、ルイス……っ」

 ルイスは、感じやすい耳朶を口に含み、背中に回した手で乳房とその先端を愛撫し続けていた。
 だからアイリスは、生まれて初めて男の指を体内に入れられながらも、快楽に乱されてしまっていた。

 零れ出る愛液が、ルイスの手を濡らしていく。

 いやらしい水音が、黄金の結界の中に響いている。

 ルイスは、指をゆっくりと戻して、それからふたたび埋め込んだ。
 抜き差しを繰り返し、その度に、アイリスの最も感じる箇所をこすっていく。

 異物感はやがて消え、蜜孔を行き来するルイスの指に、アイリスは快感しか覚えなくなっていった。

「ん……、ぁ、あぁ……っ」

「きみの中はとてもやわらかいね、アイリス」

 なまめかしい声でささやきながら、ルイスはアイリスを愛で続ける。

 彼の腕の中で、アイリスは快楽を強制的に流し込まれる。
 抵抗する力や、意志さえルイスに奪われて、なすすべもない。

「やわらかくて温かくて、こんなにも濡らして――。
 この結界の中に、きみの甘い香りが充満しているよ。
 ああアイリス、これ以上僕を狂わせないでくれないか。
 優しくしたいのに、できなくなってしまう」

 ギリギリまで引き抜かれた指が、襞を舐め上げるように最奥に戻ってくる。
 愛液に濡れた親指が、火照った媚肉を探る。

 上部にあった肉粒を彼が擦り上げたとき、背すじが痺れるような強烈な快感にアイリスは貫かれた。

「ぁああッ」

 体を大きく震わせるアイリスを、背中に回した片腕でルイスは抱きすくめた。
 もう片方の手で、思うさまにアイリスを啼かせながら、愛おしげに髪に口づける。

「ひぁ、あ、ぁあ……っ!」

「好きだよアイリス。
 きみはもう僕のものだ」

 指が増やされた。
 みだらな水音がアイリスの鼓膜に絡みつく。
 陰核をこすり立てられ、押しつぶされた。
 アイリスの視界が明滅する。蜜にまみれた陰部を弄ばれ、極限まで快楽を引き出されて、アイリスは初めての絶頂に達した。

「――――ッ」

 陸に上がった魚のように、体がびくびくと跳ねる。

 浅い呼吸を繰り返すくちびるに、ルイスのそれが重なり、貪るように口づけられる。

 体内から指が引き抜かれた。濡れた手がアイリスの尻をつかみ、抱え上げた。
 ルイスの腰をアイリスの両脚で挟むような格好にされ、それから、熱く熟れた女陰に、より熱い塊が押し付けられた。

 アイリスはとっさに腰を引こうとした。

 けれど、それが許されることはなかった。

「い……っ」

 ほとんど暴力的に、ずくりと押し入ってきたそれに、アイリスは喉を引きつらせた。

「ッ、ア、……」

「アイリス――」

 震える息を乱しながら、ルイスはアイリスの頬にくちびるを押し当てる。

 ゆっくりと腰を押し進めて、自身の昂りをアイリスの体内に埋め込んでいく。

 体を引き裂かれるような痛みに、アイリスは涙を零した。

「やぁ、痛い……っ」

 ルイスの指先が、赤く染まったアイリスの乳首を捕らえた。
 アイリスの最も感じるふれ方で愛撫を施していく。
 彼のくちびるはアイリスの耳を食んで、愛おしむように舐めしゃぶった。

 無理やり体をこじ開けられる痛みは減らないが、それでも、彼の与えてくる快感は、アイリスの体を悦ばせた。
 腰に回っていた手の指が、蜜にまみれた陰核にふれたとき、アイリスは高い声を上げた。

「そこ、だめ……っ!」

 二本の指で優しく摘ままれて、包皮を剥き上げられる。
 ひりつくほどに敏感にさせられてしまった淫粒を、ルイスは小刻みに揺さぶっていく。

 脳髄にまで響くような快感に突き上げられて、アイリスはびくびくと体を震わせた。

「ア、あ、あぁあッ……!」

 弄られる陰核の間近で、太く脈打つ性器が膣孔にねじ込まれていく。

 痛みすら快感に塗りつぶされて、蜜襞をきつくこすり上げられる感触が、これまで感じたことのない愉悦をアイリスにもたらした。

 耳朶を甘噛みされ、乳房を揉み立てられて先端を刺激される。
 愛液があふれて、二人の下肢を濡らしていく。

「あ、ん、ぁあ……っ!」

「っ、アイリス」

 ぐっと腰を押し込んで、ルイスは自身の欲望のすべてをアイリスの体内に埋めた。

 子宮の底を硬い先端に押し上げられて、アイリスは、怯えるとともに痺れるような快感を味わった。

 必死に息をしているくちびるを、ルイスのそれで塞がれる。

「ぅんん……っ」

「アイリス――、アイリス」

 彼の激しい恋情が絡みついてくるようなキスだった。
 ルイスが腰を揺らして、アイリスをまた啼かせた。

「あ、だめ、だめ……」

「好きだよ、アイリス。
 きみが好きだ。きみの中は、たまらない」

 腰を固く抱きしめて、腰を突き上げる。

「やぁ……っ!」

「頭がおかしくなってしまいそうだ」

 呻くように言って、ルイスは律動を繰り返した。
 落ちかかるまで引き抜いて、それからまた根元までねじ込んでくる。

 その途中でアイリスの感じる箇所を的確にこすり上げてくるものだから、アイリスの快感は何倍にも膨れ上がった。
 突き当たりを抉るようにされると、視界がチカチカするほど気持ちよかった。

 二人の繋ぎ目から、グチュ、グチュッと、淫らな水音がひっきりなしに零れ落ちる。

 たくましい両腕に抱きすくめられ、彼の欲望に体を余すところなく貪られて、アイリスの全身は、激しい快感に溶けてしまいそうになっていた。
 下腹部のあたりに熱が凝り、それが膨れ上がっていくように感じた。

「ひぁ、あ、ぁああ……っ!
 ルイス、ルイス……っ」

 膨れ上がった熱が腹の底からせり上がってきて、怯えたアイリスはルイスにしがみ付いた。
 その体を受け止めるように抱き込んで、ルイスは、極限にまで達した情動をアイリスに叩きつける。

 直後にアイリスは絶頂に達し、熱く濡れた淫壁で、ルイスをぎゅうっと締め付けた。
 すぐ耳元で、ルイスが息を飲んだ。

「っ、――」

 体内で、彼が大きく脈打った。

 胸の奥にかき抱かれながら、アイリスはルイスの精を体の奥で受け止めた。