この日、やっとのことで、ロジェ王国第一王女、フランセット=ロジェの縁談が決まった。
「よかったわねぇフランセット。今年で二十五歳、完ッ全に嫁き遅れたあなたが我が国の最強穀潰しとして君臨する日も近いと哀れんでいたのよ。本当によかったわぁ」
「実の娘を穀潰しとか、サラリと仰らないでくださいますかお母様」
「おめでとう姉様! 母様と同じく、本当にほっとしたよ。僕が将来可愛いお嫁さんを迎えた時に、無愛想でツッコみ能力の異常に高い小姑がいると、その子が可哀想だもの」
「八歳のあんたが今からそんな心配をしていただなんて、姉様は感動して涙が出そうよ」
ロジェ王国の王宮の、謁見の間である。
国王様一家、長女のフランセットを含めた四人は、円になって佇みつつそんな会話を繰り広げていた。
フランセットが望むような方向とはちょっとだけ違った言葉だったが、皆がよかったよかったと祝う中で、ただ一人、超絶大興奮の渦中にいる人物がいた。フランセットの父、ロジェ国王である。
「フランセットでかした、でかしたぞ! 婚約相手はあの、あの超大国、ウィールライト王国の王太子だ! 素晴らしい、素晴らしい! さすが見てくれだけは一級品のフランセットだ、本当に素晴らしい! スーパー弱小国である我がロジェ王国も、これで安泰だ! 安泰どころか、領土拡大、富国強兵、歳入ガッポガポの三連単あるぞ!」
ロジェ王は、娘を完全に自分の野心の道具として見立てているが、それも今更のことなので、フランセットをはじめとする家族らは特にツッコまない。
金色の巻き毛をした、(見た目だけは)愛らしい弟が首を傾げた。
「ねえ、姉様。お相手のウィールライト王国王太子と、個人的にお話ししたことがあるって、ほんと?」
「個人的にというと大げさだけど、話したことはあるわね」
その時のことを思い出して、フランセットは顔をしかめた。
王族同士の結婚は、相手の顔を結婚式に始めてみるというパターンが多いようだが、フランセットのケースは少し違う。
フランセットは、婚約相手である王太子に会ったことがあった。
それは十四年前、フランセットがまだ十一歳だったころの話だ。
『あなたみたいな可愛らしいお方を拝見したのは、生まれてはじめてです』
そういう王太子殿下の方がめちゃくちゃ可愛いです勘弁してください。
すぐさまひれ伏したくなるような美少年が、当の婚約者、超大国ウィールライト王国王太子、メルヴィン=ウィールライトその人だった。