(どうしよう……どうしよう)
二十五年間生きてきて、恋人ができたことは一度もない。真面目なフランセットは流行りの恋愛小説を読むより歴史書や法律書を読むことの方が多かった。
熱い舌と、綺麗な形をした指で、色づいて立ち上がったそこを愛でられている。体の芯が溶けてしまうような快感と、心が焼き切れてしまいそうな羞恥が襲ってきて、フランセットはどうしていいのか分からなくなった。
――夫に任せればいいのよ。そのうち気持ちよくなってくるから。
フランセットの友人――実は海辺で会った従姉妹のアレットである――は訳知り顔でそう言っていた。
――最初の方はそんなに気持ちよくなかったけど、夫に勘づかれたら厄介なことになるから演技してたわ。夜まで神経遣って大変だったわよ。既婚者って本当に大変。フランセットはいいわね、独り身で。
余計なセリフまで思い出してしまったが、とにかくアレットは、最初は演技をしていたと言っていた。
(演技って、いったって)
胸の先を弾かれて、フランセットの背がしなる。
「あ、あ……っ」
もう片方を甘く噛まれた。立ち上がったそこにやわらかく歯先が沈んで、その強い感覚に、喘ぎ声が零れる。強すぎる愉悦から逃れたくて、かかとがシーツを滑った。
それをメルヴィンが小さく笑うから、フランセットは頬がさらに熱くなる。
(演技なんて、する余裕ないわ……!)
さっきからお腹の下の方が熱く疼いていた。このあたりの部分で行うことが、いわゆる閨事だということは理解している。けれど、理解と実践はまったく別物だということを、フランセットは今、思い知っていた。
じゅう、ときつく吸い上げられる。同時にもう片方を指の腹で擦り上げられて、頭の中が白く染まった。そのままなにかに持っていかれそうになる。
「あぁ……っ!」
「感じやすいね」
甘い声が、耳朶に響く。いつの間にかメルヴィンが顔を上げて、フランセットの耳を舐め上げていた。
「あ、でん、か……っ」
「まだ頑張れる?」
甘やかすような声で聞かれて、フランセットは小さく震えながら頷いた。彼のものになると決めたのだから、引き下がるなんてことしない。
メルヴィンが、彼の唾液に濡らされた胸の先端を、二本の指でコリコリと刺激している。
「あ、ん、ぅん……っ」
「フランセットの感じてる顔、かわいい……」
陶然と囁きながら、メルヴィンは自身の唇でフランセットのそれを塞いだ。すぐに熱が押し込まれて、口腔内をじっくりと愛でられる。
舌を絡め擦られて、口の端から零れそうになった唾液を啜り上げられた。その淫らさに耐えきれず、フランセットが顔を背けようとすると、乳首を二本の指で扱かれた。
「ぅん……、ん、ふ……っ」
ぴくんと跳ねる体を、上から体全体で優しく押さえつけられている。唇を激しく貪られながら、赤く色づいた乳首を弄ばれる。
口の端から熱い吐息があふれて、それすらも彼に呑み込まれていった。間近から見下ろしてくる漆黒の双眸が、熱に濡れている。目が合うと、体の奥がきゅっと切なく痛んだ。
そこを、彼に触れてほしい。ほとんど衝動的に、フランセットは感じた。
メルヴィンが甘く笑う。
「そんな顔をしないで、フランセット」
自分はどういう表情をしているのだろう。分からなかった。
彼の手が体のラインに沿って撫で下がっていく。腰の辺りにわだかまっていたネグリジェがあっけなく取り払われた。
ドロワーズを着けていなかったから、白くなめらかな太ももが空気に触れる。
「あなたはどこもかしこもすべすべだね」
愛おしげに太ももを撫で上げられる。その感触すらぞくぞくと震えるようだ。
「白くてやわらかくて。……ああ、ほら」
両足の間、付け根まであがっていった指が、そこをゆっくりと這っていった。これまで感じたことのない愉悦がざわりと広がって、フランセットは目を見開く。
「あ……! メルヴィン、さま……っ」
「ここも、とろけるようにやわらかい」
二本の指で広げられて、顔を出したピンク色の粘膜をなぞられた。腰が溶けてしまいそうな快感に、フランセットはとっさに逃げを打つ。
「や、だめ……!」
シーツを蹴って上へ逃げようとするのを、メルヴィンの手に細い腰をつかまれてしまった。またその場所を擦り上げられて、フランセットの唇から泣き声に似た喘ぎが上がる。
「ア、ぁああ! ひ、ぅん……っ!」
「大丈夫、ちゃんと濡れているよ。痛くないでしょう?」
浅いところをゆるく掻き混ぜるようにされたら、くちゅりと粘性のある水音が鳴った。それに関する知識はあった。けれど、体に頭がついていかない。
ゆっくりと粘膜を這い回る彼の指に、体のすべてを支配されているようだった。は、と息を荒げるフランセットを、メルヴィンは愛おしげに見下ろす。
「まだ間に合うよ。怖いならあなたに服を着せてあげる」
淫らな液を塗り広げるように、指が動く。視界が定まらない。メルヴィンの声が少し遅れて頭に届いて、けれどその時、彼の指が上の方へ滑った。そこにあった小さな粒を、擦り上げられる。
「っ、あ、ああっ!」
強い感覚に、フランセットの腰が跳ねた。逃げたいのに、力強い手で腰をつかまれていて逃げられない。彼はフランセットを見下ろしながら、メルヴィンはその部分をゆっくりと撫で回している。
熱が喉へせり上がってきて、体内が愉悦に犯されていった。
「ア、ぁあ、だめ、だめ……っ」
腰をつかんでいた手が膝まで降りた。片足を折りたたまれて、外側に広げられる。彼に、誰にも見せたことのない部分を見られてしまっていた。
羞恥でどうにかなりそうになる。逃げようとしても、足の奥の粘膜を弄られると、体が痺れて力が入らない。
「や……見ない、で、くださ」
涙で潤む視界で、フランセットは首を横に振る。メルヴィンは欲情した目を笑みの形に細めた。
「どうして? とても綺麗だ。ピンク色をして、気持ちよさそうにヒクついてる」
「ひ……っ」
これまでよりも深いところまで、ゆっくりと指が入ってくる。襞を押し分けられるような異物感に、フランセットは息を詰めた。
「大丈夫だよ」
親指の腹が、上の粒に掛かった。ぬるぬると撫でられて、また強い愉悦に支配される。その奥で指がじっくり抜き差しされていた。
何度も繰り返されて、異物感が遠のき、襞を擦り上げられる感触がただ甘い。物慣れない体には、耐えられないほどだった。
「や、あ、ア……!」
「もうやめておく?」
自分の中から滲む体液が、彼の指を濡らしているのが分かる。ぐちゅぐちゅと、淫らな水音がベッドに沈んでいく。
フランセットの熟れつつあるそこを弄りながら、メルヴィンは舌なめずりをした。
「まだ……ああでも、ギリギリかな」
彼の声に、まなざしに、隠微な色が纏わりついていた。
「怖い?」
甘く聞かれて、けれど下肢を責める指は止めてくれない。さっきよりも、指が深い。感じるところを探るように、撫でたり掻き回したりされている。
「あ、ぁ……っ、も、う……もう、わたし」
「そんなかわいい声をして。たまらないな」
「ち、が……っ、あぁッ!」
膨れた尖りを、押しつぶされた。
同時に中の感じる部分を擦り上げられて、視界が真っ白に染まる。
どうしようもなく腰が跳ねて、彼の指に気持ちのいいところを擦りつけるようにしてしまっていた。
中がきゅうっと引き絞られ、埋められた彼の指の形がはっきりと分かった。まだ収縮が終わらないうちに、メルヴィンは半分まで指を抜き、また深々と突き刺した。
「ぁ、あああっ! や、ぁ……殿下ぁ……!!」
快楽に耐えきれなくて、メルヴィンへ伸ばした手を、つかまれた。愛おしげにてのひらに唇を押し当てられて、ぞくんと下腹部に熱が走る。
彼の反対の指は、まだ奥へ埋められたままだ。眇めらた彼の目が、フランセットを見下ろしている。
「まだ、もう少し。引き返してもいいよ。自分でも、我慢強さに呆れるけれど」
指がもう一本増やされた。最初のに沿うように、ぬるりと入ってくる。
もう異物感よりも、甘い衝撃しか感じられない。フランセットはひくひくと喘いだ。
「あなたが辛そうだと可哀想だから、見ていられない。ああでも、悦(よ)さそうだね」
「あ、あ……っ」
「二本でもキツいな。中は滴るくらいだけれど。どうしようか」
ぬちゅ、くちゅ、と緩慢に抜き差しされて、腰が砕けてしまいそうだ。
メルヴィンは淫らに濡れたそこを、何本もの指で弄んでいる。もう片方の手はフランセットの手を捕らえていて、その細い指を、愛でるように口に含んだ。
「……っ、でん、か」
「僕はこのかわいい指をくれるだけでもいいんだけど」
喉の奥で笑いながら、指先にキスをした。
「中にほしい?」
「ひあ、ア……!」
中の一番感じるところを、執拗に撫でられる。膨らみきった上部の尖りはコリコリと揉まれて、毒のような愉悦を体内に流し込んでいた。だらしなく開いた唇から唾液が零れ出て、けれどそれを拭う余力もない。
「フランセット?」
ひどく優しく、メルヴィンがもう一度聞く。