しかし、愉悦に冒されたフランセットの意識は、中を弄ぶ彼の指ばかりを追ってしまう。
(ここで、やめるか、って)
淫らな水音が鼓膜に絡みつく。残酷なほどの快楽に、溶かされてしまうような熱ばかりが溜まっていく。自分ではどうにもならなくて、焦燥感が積もっていった。
(ここで、やめられてしまったら)
「だ、め……!」
涙にけぶる目で、フランセットは必死で訴えた。
「だめです、やめないで。このまま、最後まで――、っあ」
ずるりと指が引き抜かれた。これまで苦しいほどに充溢していた体内が、突然空虚になる。追い続けていた愉悦がじんとした痺れを残して消えていき、フランセットはいっそ恐怖を覚えた。
「あ、だめ、抜かな……っ」
直後、ぐっと押しつけられた固さに、フランセットの全身がこわばる。
フランセットの体を挟むように両手をついて、メルヴィンが熱い息を一度吐いた。彼のたくましい肩にかろうじてひっかかっていたガウン、その下に、彼はなにも身につけていないようだ。
「……フランセット」
情欲に濡れた双眸に見下ろされて、掠れた声で名を呼ばれて、フランセットの体の奥がぞくりとざわめく。
サラサラした黒髪が漆黒の双眸に掛かっている。男らしい首すじを汗が一滴流れていった。匂い立つような彼の色気に、フランセットは目を奪われる。
メルヴィンの手がフランセットの細い腰に掛かって、それからふと、彼の目がやわらいだ。
「ああ……本当にかわいいな、あなたは」
「え? ――っ、あ」
脈絡なく告げられた言葉に、思わずフランセットの力が抜けた。直後、閉じた花びらをこじ開けるように、固いものが挿ってくる。
その強烈な異物感に、フランセットは息を詰めた。まるで熱の塊に、じっくりと灼(や)かれながら貫かれているようだ。
熱いとも痛いともつかない感覚に、喉の奥が震える。無意識にシーツを握り込んで、片頬を枕に押しつけていた。
「あ……、ア」
「フランセット」
ゆっくりとフランセットを刺し貫いていきながら、メルヴィンは彼女の髪を撫でる。彼の声はひどく優しげなのに、その顔を見上げてみると、なにかを耐えるような切なげな表情をしていた。
「ゆっくり息をして」
「は、っ、あぁ……っ」
体内を裂かれるような感覚に眉が歪む。荒く上下する胸のふくらみがふるりと揺れて、それをメルヴィンのてのひらがつかんだフランセットの官能を煽るように、ゆっくりと揉み上げられる。
柔肉がいやらしく形を変えられて、甘い痺れが下腹部まで届く。指の間から突き出た色づきを、熱い口腔内に含まれた。
「やっ、あ、ああっ!」
やわらかく当てられた舌と歯で、ぬるぬるとしごかれる。敏感な部分へのたまらない愛撫と、下から貫いてくる凶悪な熱源に、フランセットは翻弄された。
「だめ、だめ……っ、あ、ひあぁっ!」
ぐ、とメルヴィンの腰が進んだ。胸への愛撫によって、どっとあふれでた愛液が、その動きを助けているようだった。
(でも、もう)
体内が熱く溶けてしまうような感覚に冒される。
気持ちいい、熱い、息苦しい。メルヴィンの大きなそれに対して、自分の体は狭くて小さくて、もうこれ以上。
「も、これ以上、入らな……」
「うん」
ふとメルヴィンは、汗の滲む自嘲の笑みを滲ませたようだった。
「そうだね。でも大丈夫。もっと奥まで入るんだよ。……ほら 」
みっちりと閉じている奥へ、ずぷりと沈むように、押し進んでくる。襞を引きずるように少しだけ後退して、また。
同時に、胸の柔肉を甘く噛まれ、吸い上げられた。
「あ、あぁっ! や、だめ、も、殿下ぁ……っ」
視界がチカチカする。圧倒的な質量と快楽に、フランセットは震えた。とっさにメルヴィンの腕をつかむ。
「あ、アっ……!」
「怖いのなら、そうやって僕につかまっておいで」
腕を伸ばしてメルヴィンの首もとにすがりつく。それを褒めるように、彼はフランセットの髪を撫でた。
笑みの形をした唇が、ひたいに押し当てられる。
怖いならもうやめようか、とメルヴィンが言わなかったことに、フランセットは遅れて気がついた。
中の部分を優しく揺すりあげられて、痛みよりも先に甘い衝撃が体内に響く。そのことに、フランセットは目を見開いた。
「っん、ぁ、あ……!」
「ほら、フランセット。奥まで入ったよ」
つきあたりを優しく押されて、フランセットはびくんと腰を跳ねさせた。
「あ、あ……入っ、て……」
「平気?」
深く埋め込んだまま動かずに、メルヴィンはフランセットの頬を撫でる。大きな手に自分のを重ねて、フランセットはぽろぽろと涙をこぼした。
「でんか……殿下」
「うん」
「嬉しい、です。わたし、殿下とひとつ、に」
「そうだね」
メルヴィンはとろけるように笑う。フランセットの目じりに唇を寄せて、涙を吸いとった。
「あなたのかわいい体を全部食べてしまうのは、僕だよ」
ゆるゆると律動が始まる。熱い愉悦に喉が震えのけぞって、そこにメルヴィンの舌が這っていく。
「あ、あ……でん、か……っ」
「名前を呼んで、フランセット」
切ない声で、メルヴィンはフランセットの頬を撫でる。
ギリギリまで引き抜かれ、またじっくりと舐めるように貫かれていく。
めまいがするほどの快楽に、おかしくなってしまいそうだった。
「あ、ん……っ、ぁあ……!」
「っ、フランセット」
息を詰めたメルヴィンが、ぬめる襞を何度も擦り上げる。ぐちゃ、ぐちゅ、と淫らな音が肌にまとわりつく。
気持ちいいと、ただそれだけに思考が支配されていった。
「メルヴィン様……メルヴィン様」
名を呼んだだけで、中がきゅっと締まった。メルヴィンが眉を歪め、それからきつく奥に叩き込む。
「や、ぁああっ!」
「は、フランセット。どうしてそんなにかわいいの」
「ひあ、そこ、だめ、だめぇ……っ!」
一番奥を押し上げられて、固い切っ先をこすり付けられて、その瞬間にフランセットは絶頂に押し上げられた。襞がメルヴィンにすがるように締まって、彼の形が脳裏に焼き付く。
それなのにメルヴィンは、軽く引いたあと、また力強くねじ込んできた。
「ア、あ……!! いや、ぁあ……っ!」
「ああ、今のは少し危なかったかな。持っていかれそうだった」
小刻みに揺らしながら、メルヴィンは笑う。
「まだあなたに僕を馴染ませてない。僕に抱かれるとどんなに気持ちいいのか、この体に刻み込んであげる。僕がいないと夜を越せないくらいに」
甘い声音でとんでもないことを告げながら、メルヴィンはフランセットの体に両腕を回した。繋がったまま、上体を抱き起こす。
向い合わせで彼の上に抱き込まれて、ぐ、と深くまで貫かれた。
一瞬で達したことが、自分でも分かった。
「ぁ、あああっ!」
「っ、そう、何度でもイかせてあげる」
メルヴィンは眉を寄せながら、それでも口もとで笑みながら、フランセットの髪に手を差し入れる。
「僕を想っただけで濡れるくらいに」
「そ、んなの……、ぅん……っ!」
唇を貪られる。彼の舌に余すところなく舐められて、舌を絡めとられ、吸い上げられた。
激しい口付けの下でも、淫らに繋がりあったそこは、じゅぷじゅぷと出し入れされている。腰を抱き上げられ、また深々と突き刺される。
もう、なにも考えられない。口の端からだらしなく唾液が伝い、それをじっくりと舐めとられ、また唇を貪られた。それでも彼の舌が肌を這う感覚が気持ちいいだけで、羞恥すら起こらなかった。