19 朝です。もう一度言います、朝です。

 奥の一番感じるところを揺さぶられて、抉られて、腰を浮かせられたと思ったらまっすぐに落される。
 ずっと、自分の唇から、自分の声ではないみたいな喘ぎが零れ出ていた。それが耳にまとわりついて、現実感が失せていく。

 熱く締まる襞をこじ開けるように擦り上げて、また。

「ぁ、あ……ッ、ん、ぁあ……っ」

「気持ちいい? フランセット」

 メルヴィンは、体の間に入れたてのひらで、胸のふくらみを愛でながら、甘い声で聞く。
 耳もとで囁かれるそれに、ぞくんとフランセットの中が震えた。頷くよりも先に、フランセットの体が彼を締めつけて、答えを伝える。

「ん、……っきもち、いい、ァ、ん……っ」

「かわいい声」

「っや、ちが……っ。ぁ、あっ」

 かわいい、なんていう言葉は、自分よりもメルヴィンにぴったりだと思っていた。

(五つも年下で。顔立ちも嘘みたいに整っていて、いつもひだまりみたいに微笑んでいて)

 けれど、こうしてフランセットを抱きしめる両腕はたくましく、胸板は固くて、フランセットを貪るさまはまるで飢えた獣のようだ。

 激しく突き上げられて、また達(い)かされる。
 フランセットはメルヴィンにしがみついた。うっすらと汗の流れるメルヴィンの体は、熱がこもっているように熱い。

 フランセットの体内は、メルヴィンの熱に溶かされているようだった。思考さえもとろとろにされて、もう彼の熱い体以外、何も感じることができない。

 大きなてのひらに素肌を辿られて、ぐちゃぐちゃと奥を抉られて、ただそれが、意識を手離してしまいそうなほど気持ちいい。

「ぁ、もう、メルヴィンさま、もう、おかしく、なっちゃ……」

「あなたの中は、もっと欲しいと言っているよ。ほら」

「やっ、いや、そこ、だめ……っ」

 すすり泣きながらメルヴィンに助けを求める。彼のガウンを握り込んで首を横に振ると、その手をそっと握られた。

 優しげな仕草とは裏腹に、彼の凶悪なものがフランセットの弱い奥の部分にこすり付けられている。

「ひ、あ、あ……!」

「どうして? 好きでしょう、ここ。もっと二人で気持ちよくなろう」

 メルヴィンの熱い吐息とともに、耳朶がねっとりと口の中に含まれる。深く噛まれても、痛みを痛みだと感じなかった。
 ただ、気持ちよかった。

「ぅん……ん、ぁ、ああ……っ」

「愛してるよ、フランセット。愛してる……」

 熱く掠れた声で何度も告げられて、キスの雨が降る。心の全部を、彼に捕えられる。

(どうしよう、わたし)

 熱く上気する肌を、たくましい腕に抱き込められる。フランセット、と呼ばれるだけで涙が零れた。

「好きです……大好き」

 切なく喘ぐ吐息の合間に、めまいのするような愉悦と幸福感に溺れながら、フランセットは告げる。

「わたしは殿下を、メルヴィン様だけを、ずっと、ずっと」

 一際強く、突き上げられた。
 悲鳴が上がる。唇を奪われて、舌がねじ込まれ蹂躙されて、下の方では奥深く貫かれ、突き当たりを抉られてーー
 それから、体の奥がひどく熱く濡れたような気がした。

「……ア、あ……」

 力の抜けた体が、ぽすんとベッドに倒される。組み敷かれて、二度三度ゆっくりと抜き差しされて、また根元まで埋められた。それから熱い吐息とともに、メルヴィンの唇がうなじに押し当てられた。

「っ、でん、か……」

「……うん」

 メルヴィンは体勢をずらして、横向きにフランセットを抱きしめる。

「ごめんね。僕も一応、イったことはイったんだけど。まだ抜きたくない」

「え?」

「あったかくて気持ちいい。このまま寝てもいいかな……」

 すでに語尾が怪しい。嫌な予感がして「殿下?」と呼びかけてみたら、返事がなかった。代わりにすやすやとした寝息が聞こえてくる。

(まさか……寝た?!)

 フランセットは愕然とした。愕然としすぎて、敬語が抜けた。慌てて思い直す。

(お眠りになった?!)

 力の入らない腕を突っ張って起き上がろうとしたが、メルヴィンの腕が体に巻きついていて動けない。しかも、中に入ったままの、恐らくは萎えているであろうそれも、抜くことができない。

「嘘でしょ」

 フランセットは青くなった。何度か身じろぎしたが、そうすると中にある彼がフランセットに擦れて、フランセットがなんだかとんでもなくつらい。

(しかも、気のせいかもしれないけど、殿下のが大きくなってる気もするし……!)

 フランセットは動かない方が賢明だと考えた。だから大人しく、彼に抱かれるままになった。
 けれど彼の熱が中にあるという状況は、とんでもなく落ちつかない。

(これも、王太子殿下を癒す妃の務めだと思えば……!)

 妃とはなんと奥深い役割なのか。夫の政務を陰ながら支えるだけが妃ではないと、フランセットは認識を新たにした。ここで、なんだか違う気がすると思ったら負けだ。

 フランセットはたくましい腕の中で、目の前にあるメルヴィンの顔を見つめた。

(綺麗なお顔……)

 思わずためいきが漏れる。長い睫毛、通った鼻梁、形のいい引き締まった唇。肌は透きとおるようで、ともすれば儚げな印象を与える顔立ちは、けれど漆黒の髪と瞳に男らしく引き締められている。

(お肌も、すべすべだし)

 こんな奇跡みたいな男性に、かわいいだの綺麗だの言われている自分。いったい何なのか。

(スキンケア、もう少し頑張ろう……)

 メルヴィンの頬に指をかけたまま、フランセットは若干投げやりになりつつため息をついた。そうしたら体の力がいっそう抜けて、瞼が降りてくる。

(殿下と繋がったまま寝るなんて……そんな、いやらしいこと)

 しかし長旅と、初めての睦み合いに疲れ果てた体は、羞恥心に勝てなかった。

 扉が開く音がした。フランセットは眠りに身を預けたまま、それを感じ取った。

(ここは……どこだったかしら)

 ロジェの王宮の、自分の部屋のベッドだ。いや違う、自分はウィールライト王国の王太子に見初められて、彼とともに実家を出て、彼の領地である関所に辿りついて。
 それから。

 フランセットはうっすらと瞼を開いた。ベッドを囲むように下ろされたカーテン、その向こう側から、二人の男性の声が聞こえる。

「というわけだから、今日は移動できそうにないんだ。アレンももう少しここに留まってくれると嬉しいんだけど」

「ほんとに今日一日だけ? 寵愛が過ぎて三日も四日も足止めってことになんない?」

 アレンがからかうような、呆れたような声音で聞く。対するのはメルヴィンの声だ。相変わらず、弟相手にとても優しい声を出す。

「おまえに急ぎの用があるなら、無理は言わないよ。ただアレン以上に腕の立つ兵士がいないから、護衛を務めてくれるとありがたいなと思っているだけなんだ」

「よく言うよ。兄君(あにぎみ)と対峙して、無事でいられる輩がこの王国にいるかどうか」

「僕は実戦経験があんまり多くないからね、慣れていないんだ。おまえが一緒にいてくれると心強いのだけど」

「ハイハイ、分かりました。ここまで来たらメルヴィンの屋敷に義姉上を送り届けるまで付き合うよ」

「ありがとうアレン。大好きだよ」

 メルヴィンの、包み込むような優しい声にどきりとした。
 それから二言三言(ふたことみこと)話したあと、アレンが部屋を出ていく気配がした。
 フランセットがもぞもぞと上体を起こした時、ベッドを囲むカーテンが引き開けられる。

「おはよう、フランセット」

 甘い声と笑顔で、ついでに頬にキスまで贈って、メルヴィンはフランセットを抱き寄せる。

「体大丈夫? つらくない?」

 その優しい声音に、また胸が高鳴る。綺麗な瞳を見ていられなくて、フランセットは目を伏せつつ答えた。

「大丈夫、です」

「そう?」

 くすりとメルヴィンは笑ったようだった。本当は体全体が重だるくて、足の間に何かが挟まっているような感覚が消えない。きっとメルヴィンにはお見通しなのだろう。

「朝食をこの部屋に運ばせたんだ。軽いものがいいと思って、フルーツを多めにしてもらったよ。食べられそう?」

 朝からメルヴィンの頬はつるぴかである。

「……はい。フルーツなら食べられると思います。それよりも殿下、とってもお元気そうですね」

「うん。だって長年の夢が叶ってスッキリしたもの」

 にこにこ笑って、フランセットを軽々と抱き上げる。フランセットはびっくりして、メルヴィンに抱きついた。

「こ、こういう時は事前にひとこと仰ってください!」

「可愛かったな、昨夜のフランセット。ねえ、今夜もしようね。明日もあさっても」

「そんなに毎夜、色に溺れていたら、殿下の政務に差支えが出ます。ダメです!」

「あはは、フランセットは真面目だなぁ。じゃあ朝ならいい?」

「はあ?!」

 メルヴィンはフランセットを横抱きにしたまま、長椅子に腰かけた。テーブルの上にはフルーツやヨーグルト、オートミールなどの軽い朝食が乗ってる。

 フランセットのこめかみに、形のいい唇が押し当てられた。うっとりとした声で、メルヴィンが囁く。

「朝食を食べるより先に、あなたを食べたいな」

「ご冗談ですよね?」

「お腹が空いた? 食べさせてあげる」

 メルヴィンは上機嫌な様子で、銀のフォークで果実を突き刺した。カットされた桃を、フランセットの口に押し込む。

 フランセットは突然のことにむせそうになりながらも、瑞々しい果実を飲み込んだ。

「おいしい?」

「たぶん、美味しかったと思います」

 突然の「あーん」に、味が吹き飛んだなんて言えない。

 メルヴィンは嬉しそうに目を細めて、それから赤い舌をフランセットの口もとに伸ばした。びくんと肩をこわばらせるのを抱き込んで、口角に残った果汁を舐めとる。

「本当だ、甘くて美味しい。フランセットみたいだ」

「たっ、食べたいならお皿からお召し上がりください!」

「だって僕が食べたいのはフランセットだもの」

 甘い笑みを浮かべながらとんでもないことを口にして、メルヴィンはフランセットに口付ける。そうされながらネグリジェの裾がたくしあげられていった。

「同じ果汁なら、あなたのものを舐めたいな」

「やっ……」

 足の付け根を直接撫でられて、フランセットは体を震わせた。昨夜のなごりを煽られて、息が熱く上がってしまう。

 下肢をたてになぞり上げる指に、フランセットが意識を持っていかれているうちに、彼の腕に抱き直されている。背中からすっぽりと抱き込まれて、片足だけを長椅子の上に持ち上げられた。

「で、殿下……! ひあっ」

 慌てて身を起こそうとしたら、浅いところを抉るように二本の指を差し込まれてしまう。じんと甘い痺れが広がって、フランセットは彼の胸板に背を押し付けるようにして体をこわばらせた。

 はしたなく広げられた足の間を、彼の長い指が這っている。しかも、朝だ。明るい日差しの中では、肌を隠そうにも隠せない。

「や……、いや、です。メルヴィン殿下」

「朝食を食べさせてあげるだけだよ。怖がらないで」

「で、でも、ーーっ」

 二本の指に、深々と貫かれた。突然のことに、フランセットは息を詰める。襞がざわりとして、愉悦に震えた。
 ゆっくりと、抜き差しされる。ずぷずぷと押し込まれるのがたまらない。明るい日差しの中で、メルヴィンの指の動きが見えた。

 彼の指が濡れている。
 かぁっとフランセットの頬が熱くなった。

「いや、こんな、こんなの、やめてください殿下……!」

 彼のガウンに片頬を押し付けて、そこから目をそらす。フランセットの唇に、ぴちゃりと冷たいものが押し当てられた。
 桃だ。
 メルヴィンはにこりと笑う。

「食べて」

 首を振るフランセットに、メルヴィンは目を細めた。そこに隠微な光が見え隠れしている。

「食べないと、もたないよ」

「え……? ーーっあ」

 ぐちゅりと指が突き入れられた。昨夜開かれたばかりの花びらを、掻き回すように撫で回される。

 快楽の火が煽られて、フランセットは喉を震わせた。