20 王太子様は、甘い果実を愛でる

「ア、ん、ん……」

 まさぐられる下肢から、愉悦が広がる。その波紋はフランセットの指先にまで辿りつき、抵抗の意志をやわらかく消していく。

「殿下……殿下」

 気づけば彼の首もとに、こめかみを押し付けるようにして快楽に喘いでいた。ひたいに甘いキスが落ちる。それだけで、全身がざわめいてしまう。

 口の中に、瑞々しい冷たさが押し込まれていった。桃の果実はゆるく噛むだけで甘く崩れて、喉の奥に溶けていく。

 あごを掬われて、口づけられた。舌を深く差し込まれ、あふれる果汁を啜られる。メルヴィンの熱い舌の動きと、淫らな水音に、フランセットの思考回路が塗り潰されていった。
 快楽に、溺れていく。

「ぅん……っん、ァ……、メルヴィン、殿下」

「もっと食べたい?」

「は……、もっと、ほし……っん」

 中に埋められた二本の指が、フランセットの感じる部分を擦り上げた。たまらない刺激に、腰が砕けそうになる。

(なんで、こんなに)

 慣れていないなんて嘘だ。大嘘だ。こんなふうにとろとろに溶かしておいて、メルヴィンは口もとに笑みさえ浮かべてフランセットを見下ろしているのだ。

 漆黒の双眸が、淫らな興奮に光っている。小さなフォークの先ごと、果肉がまた口の中に入ってくる。

 けれど、さんざん弄ばれた舌と唇は、痺れてうまく動かない。少しのかけらを齧っただけで、フランセットの口もとからもフォークの先からも、桃が胸もとまで滑り落ちてしまった。

 それを、メルヴィンの舌に辿られた。熱く濡れたそれが、フランセットの小さなあごから皮膚の薄い首筋へ、それから鎖骨の間をぬるぬると舐め下ろしていく。

「っあ、ん……」

 口の中のわずかな果肉が、甘く解(ほど)けていく。

「果汁が甘いのか、あなたが甘いのか、分からなくなるな」

 柔肌に舌を這わせながら、メルヴィンが陶然と声で囁く。桃の方が甘いに決まっていると伝えたかったが、胸のふくらみに乗っている桃を、立ち上がった色づきと一緒に口に含まれたから、言葉が吹き飛んでしまった。

「ぁ、あああっ」

 後ろから抱きしめられていたはずなのに、気づいたら広い座面に背中を押し付けられていた。
濡れた熱い舌が、冷たい果肉を巻き込むようにして乳首に絡みつき、吸い上げられる。

「ーーっ!」

 フランセットは目を見開いて、背をしならせた。指で下肢の奥を抉られて、がくがくと腰が震える。

 大量に零れ出た蜜を別の指先が掬って、上部尖りに撫でつけた。根元から薄い膜を剥き上げられて、神経の塊となったそこを、ぬるぬると撫でられる。

 フランセットの視界が真っ白になる。極めた直後からまたさらに強い愉悦を刻み込まれて、体が自分のものではないみたいに震えた。

「や、っあ、ああ、もう、だめ、だめ ……!」

 なだめるように胸のふくらみを撫で回され、彼の唇に捕えられた方の先端、桃の果肉ごしに、ゆっくりと歯先が沈んだ。

「ひう……!!」

 あまりの快楽に、涙が零れた。与えられる刺激に、フランセットは追いつくことができない。
 一方で、達した体は内に埋められた彼の指を締め付ける。それを振り切るように指が抜かれて、代わりに入ってきたのは圧倒的な質量だった。

 ぞくぞくと、全身が総毛立つような感覚に、フランセットは泣き声を上げる。

「待っ……、殿下ぁ……!」

「は、すごくキツいな」

 整った形の眉を寄せて、けれど笑みに唇を歪めて、メルヴィンは強くねじ込んでくる。
 震える胸のふくらみを、てのひらでざらりと撫で上げられた。首すじから頬まで、そこで止まって、彼の親指がフランセットの唇を這う。

 淫らな笑みに、見下ろされる。

「初めての時よりも、キツいんじゃないか? フランセット、あなたの体は本当にいやらしい」

「ち、が……ッ! ひ、ぁああっ」

 一息に奥まで突き上げられて、フランセットの喉がのけぞった。そこにゆるく歯を立てられて、震えた唇の中に指が差し込まれていく。

「ん、ぅん……っ」

 わななく舌をつかまれて、ぬるぬると扱かれる。口の端から溢れ出た唾液を、喉もとから這い上がってきた彼の舌に舐め取られていく。

 熱い塊が、抜き差しされる。落ち掛かるまで引き抜かれ、襞をじっくりと舐め上げるようにして押し込まれたのち、突き当たりを抉られた。

 びくんと大きく体が跳ねた。そのはずみで口から彼の指が離れ、けれどフランセットは、それを追って手を伸ばした。

「ッ、あ、殿下、殿下……っ! わたし、また、」

「達(い)ってフランセット、何度でも」

 フランセットの手をつかんで、座面に縫い止める。メルヴィンは情欲に濡れきった双眸で彼女を見下ろした。
 ぐっと腰を押し込まれる。突き当たりに硬い切っ先がこすりつけられて、その愉悦にフランセットは涙を零して喘いだ。

「かわいいーーかわいいフランセット」

 熱に浮かされたように、メルヴィンは囁く。赤く熟れた下肢をぬちゃぬちゃと弄び、それからフランセットの唇を貪った。

「やっとーー手に入れた」

 口付けの合間に、彼の熱い吐息に混じって、掠れた声が落ちる。

「あなたはもう僕のものだ。この先なにがあっても、僕はあなたを離さない」

 この腕の中から逃がさないよ、フランセット。

 麻薬のような快楽に犯されながら、フランセットはその言葉を聞いていた。

 メルヴィンが強く自身を叩き込んで、その奥が白濁に濡らされて、密度の高い交わりが終わりを告げる。
 全身の力が抜けていき、フランセットは墜落するように眠りに落ちる。力強く抱きしめる両腕を感じながら。