「分からないって、でも……ご両親をご覧になれば、夫婦がどういうものかということが」
「ねえ、フランセット。この部屋は、アレンの母君が暮らしてい場所なんだよ」
唐突に話題を変えられて、フランセットは面食らう。
(アレン殿下の、母君?)
引っ掛かる言い方だ。メルヴィンの雰囲気に気圧されながらも、フランセットは疑問を口にした。
「つまり、王妃殿下のことですか?」
「王妃は僕とエスターの母親だよ。僕らとアレンは母親が違う」
初耳だった。フランセットは驚愕する。
「アレンの母君は芸人一座の踊り子だった。王宮で踊りを披露し、父に見初められ、一夜の寵を受けた。王妃には内緒でね。彼女はその後、何事もなかったかのように一座に戻り、各地を旅した。けれど半年後、戻ってきたんだ。大きなお腹を抱えてね。それから数ヶ月後に生まれたのが、アレンだよ。僕やエスターとそっくりだったから、一目で間違いなく兄弟だと分かった。僕らは父親似だから」
信じられない、という思いが先にきた。大国の国王であれば、愛妾の一人や二人、いても当然かもしれない。けれど、日陰の子というには、アレンはあまりにも自然に王族に溶け込んでいる。
――俺が王族としてここにいられるのも、メルヴィンのおかげだから。
ふいに、アレンの言葉が脳裏をよぎった。
「国王は、一夜だけ契りを結んだ美しい女性を、ずっと忘れられなかった。だから彼女が身重になって戻ってきた時、とても喜んだんだ。彼女に一室を与え、大切に囲った。無事出産できるように心を砕いた。その様子は盲目的と言ってもよかった。結果、彼女は元気な男の子を産んだよ。けれど王妃は、それを是としなかった」
それはそうだろう。自分の夫が、自分以外の女性とその子供に夢中になっているのを見るのは、ひどくつらかったに違いない。
「王妃は――僕とエスターの母は、国王が外遊に出ている間に、妾とアレンを部屋から追い出した。けれど、国王が認知した王子を外へ放り出すわけにもいかない。だからね、ある場所に閉じ込めたんだ」
フランセットはどきりとした。
華やかな王宮の中で、唯一寂しげな佇まいの塔。やけに窓の小さな、閉塞感のある空間。
メルヴィンは微笑む。
「そう。この部屋だよ、フランセット」
「ここに……ずっと? アレン殿下と、その母君が、暮らしていらっしゃったんですか」
こんな寂しげな部屋に?
「ずっとじゃないんだ。彼女が二人目の息子を身ごもった頃には、王妃はもうあきらめの境地に入っていた。妾は許されて、今は少し離れたところにある小さな宮で穏やかに過ごしているよ」
フランセットは安堵するとともに、複雑な思いになった。
(そういうことも、ありうる国なのだわ)
メルヴィンが国王と同じ事をするとは思わない。けれど、このようなことも起こりうる場所だという事実は、フランセットに衝撃を与えた。
メルヴィンは優しくフランセットの頬を撫でる。
「王妃殿下と妾が和解するまでに、いろいろあったけれどね。だからこの部屋の窓が小さいのは、妾の身投げを防ぐためだった」
フランセットは息を呑んだ。
「本当はもう少し大きな窓だったんだ。そこに石を嵌めて小さくしたんだよ」
ふいにメルヴィンの手が動いた。フランセットの胸もとを守る紐が、引き抜かれる。下着は布製の胸当てだけだったから、メルヴィンのてのひらはすぐに素肌に辿り着いた。
薄い腹部を這う大きな手に、フランセットは身を強ばらせる。
「国王は愛妾の身投げを、自分の前から彼女がいなくなることを不安に思ったんだろうね」
「ど、うして……。ここから、出して差し上げれば、よかったではないですか」
こんな場所に閉じ込めておくから、身投げしてしまいそうな精神状態になるのだ。
しかしメルヴィンは喉の奥で笑う。
「それが国王の――父の愛、だったんじゃないかな。当時僕は六歳で、父の心情がよく分からなかったけれど今は分かる気がするよ」
下腹部の辺りで、彼のてのひらが止まった。軽く押されて、驚いたフランセットが上体を上げかけた時、てのひらから熱いものが流れ込んできた。
「なに、メルヴィン様……っ?」
「|愛してるよ《・・・・・》、フランセット」
ずくん、と下腹部に重い熱が走り、フランセットは目を見開く。
「や、ぁ、ア……!!」
急速に体内の熱が高まっていく感覚に、喉が震えた。爪の先まで疼きが広がって、得体の知れない何かに体を浸食されていくような錯覚に陥る。
「いや、なに……っ、メルヴィン様……!」
「朝も昼も夜も、僕のことしか考えられないようにしてあげる」
メルヴィンは片手で、フランセットの肢体に絡まっていた布をすべて取り去った。もう片方で白い腹部に触れたまま、しっとりとした太ももを撫で上げる。
それだけで、フランセットはぞくぞくとした快感に貫かれた。体の奥が濡れた感触がする。
こんなこと、信じられない。
「は……っ、ア、ひう……っ!」
「気持ちいいことをしようか。夜中ずっと、あなたの中を撫でてあげるよ」
太ももを這い上がった手が、付け根のあたりを抑えるようにして足を広げさせた。たっぷりと蜜を纏うそこに、ひやりとした夜の空気が触れる。それだけでフランセットはひどい愉悦に侵される。
「いや、いや……!」
「ピンク色に濡れて光って、ふふ、かわいい」
腹部から彼のてのひらが離れた。熱の流入がやんでも、体内の興奮は収まらない。
メルヴィンが、フランセットに何をしたのか。単純な考えすら、まとまらなかった。
「触れてもいないのにヒクついて、甘そうな蜜があふれているよ」
「やぁ、見ないで、殿下っ……!」
「綺麗なのに」
小さく笑って、メルヴィンは顔を降ろしていく。その行為がなんなのか、フランセットはもう知っていた。
「だめっ……殿下!」
ゆっくりと、全体を押しつぶすように舐め上げられる。空気に触れただけでひどく感じてしまうそこに、熱い舌が這っていく。
フランセットの腰ががくがくと震えた。あまりの快楽に、視点が定まらない。
「ひ、ア、ああ……! だめ、だめ、ぁああっ!」
「甘くて温かいな。あなたの中を、ずっと愛でていたいよ」
ぬるりと浅いところへ舌が差し込まれた。フランセットの喉が引き攣って、乱れた息が夜に溶ける。両手で粘膜を広げられ、剥き出しになったそこを、繰り返し舐められた。
下腹部がとろとろに溶けていく。愉悦がせり上がってきて、啼き声が止まらない。
「あ、あ、ぁあっ! やめ、も、イっちゃう……!」
粘膜を舐め上げられながら、指の腹で上の粒を抉り込まれた。びくんと腰が大きく跳ねて、フランセットは達した。
思考が真っ白に染まっている。ぼやけた視界に、メルヴィンが映る。ぐったりとシーツに沈むフランセットの体を、彼は見下ろしていた。蜜に濡れた自身の口もとを拭う仕草。それだけで、フランセットの奥が疼く。
(もう……いや)
こんなの、おかしくなる。そう目で訴える。けれどメルヴィンは、喉の奥で笑うのだ。
「まだだよ、フランセット」
「や……も、挿れて、くださ」
「数えるのが馬鹿らしくなるくらい、イかせてあげようか」
メルヴィンは両の手首をつかんで、シーツの上に縫い止める。燭台の灯りに照らされて、彼の漆黒の瞳が淫靡に光っていた。
達したばかりの体内に、彼の指が入ってくる。入り口に近い感じる部分をじっくりと撫でさすられて、フランセットの肌が快楽に粟立った。
「だめ……ッもう、あ、ん、んぅ……っ!」
体が跳ねる。そのたびに、視界の端に自身の胸が揺れるのが見えた。白い素肌の先端は、触れられてもいないのに赤く色づき凝っている。まるでフランセットの情欲を表しているようだ。
(ちがうわ、だって)
震える手首が、解放される。
彼がまた下がっていって、膨らみきった尖りに吸い付かれた。息が止まって、思考が塗りつぶされる。
「いや、ァ、あああッ」
ぐちゅぐちゅと、淫らな水音に耳が犯される。指が増やされた。入り口が歪むほど、激しく中を弄られている。フランセットを知り尽くした動きは、快楽しか与えない。
もうずっと、絶頂から降りることができない。
「は、――はぁッ、も、いや……ッあ、でん、か、ぁ、あああッ」
「名前を呼んで」
剥き出しになった神経に、歯先が沈んだ。鋭い熱が頭の芯まで通って、声すら出ない。
「――ッ、ひ、」
「僕のかわいいフランセット」
尖りに舌が絡む。吸い上げられて、根元を何度も甘噛みされた。
快楽を、意識が追い切れない。体内が真っ白に、焼かれていくようだった。
「ぁ、――んっ、メル、ヴィ……っ」
その内側では、メルヴィンの指が奥の方へ抉り込み、淫らな体液を掻き出している。
下半身がぐずぐずに溶けて、まるで自分のものではないみたいだ。
許容を超えた快楽から、体は逃げようとする。自分の乱れた息にまで追い詰められた。半分まで開かれたカーテン、フランセットはそれに手を伸ばす。身を捩って、震える手で握り込んで、それを頼りに上へ逃げようとしたら、メルヴィンの視線がフランセットの手首に向けられた。
「あ……?!」
見えない力に、両の手首が捕らわれた。巻き取るようにまとめられて、無理矢理上へ引き上げられる。
「逃げたら駄目だよ」
濡れきった下肢の奥を弄りながら、メルヴィンは笑う。見えないレールを巻くように、ゆっくりと吊り上げられて、シーツからお尻が浮いた。膝立ちになる位置で、やっと止まる。
恐怖に呑まれて、フランセットは震えた。
「僕から逃げたら、駄目だ」
「ち、ちが……」
「違う?」
中に埋めたままの指、それとは違う手が、フランセットの腹部から胸までを撫で上げる。
「なら、どこへ行こうとしたの」
やわらかな乳房をつかみ上げられた。指の腹で、先端の際、皮膚の薄い部分をさすられる。
「ひぁ……ッ!」
「僕の腕の中以外に、あなたの居場所なんかなければいいのに」
耳朶に触れた低音に、ぞくりとする。そのまま舌にくるまれて、やわらかく歯を立てられた。