33 絡まりきった

 体温の上がりきった体が、何度も震える。その度に、不可視の縄に吊り上げられた手首が軋んだ。

「い……ッ」

「痛い? ごめんね」

 ぬるりと耳孔に、熱い舌が入ってくる。

「っや、ぁあ……!!」

「止まらないんだ。どうすればいいのかな」

 ぐしゅぐしゅと出し入れされて、淫らな水音に、脳内まで犯される。下肢はずっと彼の指を食んでいて、震える太ももに粘性の液体が幾筋も伝っているのが分かった。

 まともな思考回路を、繋げられない。
 気持ちが良すぎた、怖いほどに。
 いっそ気が狂えたら。

 彼の指がまた、熟れきった粒に掛かる。擦り上げて、押しつぶされた。

「っひ、あ、アあああ!」

 大げさに体が跳ねる。しならせた背を、抱き寄せられた。うなじに狂おしいような口付けがいくつも落ちる。

「愛してるよ」

 メルヴィンの息が熱い。押しつけられた腰に、彼の欲望が凝っていた。
 それで奥に触れてほしい。
 みだりがましく、自分の腰が揺れる。指も気持ちいい、けれどそれだけじゃ足りない。

「もっと気持ちいいことも、たぶんできるんだ」

 フランセットの体内を愛でながら、メルヴィンが言う。
 ぞろりと、膝から太ももへ、何かが這い上がってくる感触がしたのはその時だった。

 つり上げられて、膝立ちになっている。その両足を、二匹の子蛇のような冷たさが這っている。見えないけれど、そんな触感がする。
 全身を、鳥肌が襲った。

「ひっ……!」

「ずっと一日中。僕がこの部屋にいない時でも、愛してあげることもできるよ」

 子蛇の頭が分かれて、フランセットのしなやかな太ももを巡りながら這い上がってくる。小ぶりのお尻をざらざらと舐め上げて、腰骨に沿ってくびれたところに巻き付いた。

 フランセットはガタガタと震えながら、視線だけを下に向ける。水で作られた縄のようなものが、腹部に巻き付いて這い回っていた。

「や……、いや……」

 ――怖い。
 幾すじも流れ落ちる涙を、メルヴィンが優しく舐め取った。

「震えてる。かわいそうに」

 彼の声は、残酷なまでに優しい。

 ゆっくりと、彼の指に中を掻き混ぜられる。押し開くような動きに、襞を撫でさする固い皮膚に、フランセットはまた愉悦に侵されていく。

 生ぬるいフランセットの蜜が、両脚を這い落ちる。水蛇の長い尾と混ざり合って、ぞくぞくした官能が広がる。

 おぞましいばかりだった水の動きに、煽られる。太ももやお尻の柔肉に食い込まれている。彼の指を食んでいる熱い場所に、ひやりとした水がゆっくりとなぞっていった。

「ア……あ」

 びくんと体が揺れた。手首を固定されているから、不安定さが怖い。
 でもそんなことより、気持ちがよくて。

「だめ……こんなの、だめ……」

 細くした水蛇の頭が、メルヴィンの指に沿うように、中に入ってくる。

 ぞっとして、逃げたくて。けれど冷たいなめらかさが襞を舐め取りながら満ちていくことが、怖ろしいほど気持ちいい。

 ひたひたと満ちて、彼の指が愛液とともに掻き混ぜて、淫らな音が粘り着く。

「やぁ……っア、あ、ぁあ、狂っ……」

「一緒にどこまで堕ちようか」

 もう一方の蛇が、まろやかな乳房に巻き付いた。柔肉が締め付けられて、卑猥な形に変えられる。ピンと這った先端をちろちろとくすぐられた。それだけならまだ耐えられたかもしれない。

 けれど、口を開けたそれが、色づいた先端を咥え込んでじっくりと吸い上げた時、フランセットは恐怖と快楽の狭間に突き落とされた。

「や、ぁあ、ひァあ……ッ!」

「ああ、悦(い)いんだね。さっきよりも溢れて、僕の指を食い締めている」

「ち、が……ッ、あ、いやぁあっ」

 水蛇を潰すように、胸を握られた。
 パシャ、と小さく弾けて、フランセットの頬に水滴が飛ぶ。それを彼の舌が舐め取って、そのまま荒々しく唇を奪われた。

「やっぱり、嫌だな。あなたに触れるのは、僕だけでいい」

 昏い情欲に濡れた双眸が、ごく間近で光っていた。フランセットが息を詰めた直後、また小さく弾ける音がして、淫らに巻き付いていたすべての蛇が崩れ落ちる。

「フランセット」

 胸をきつく揉み上げられ、凝った色づきを指先で扱かれる。下肢の中をぐちゃぐちゃに抜き差しされて、フランセットは体を何度も震わせた。つり上げられた手首が、悲鳴を上げる。

(だめ、もう)

 心と体の痛みも恐怖もすべて、どろどろに溶かされる。

「フランセット……フランセット」

 まぶたに、頬に、唇の端に、熱い口づけが降った。

「愛してる」

 狂気に墜落する一歩手前。
 メルヴィンの危うい双眸は、そんな状態を思い起こさせた。

「あなたからキスして、フランセット」

 だからこれは、乞われているのだ。
 愛を。

(教えてと、殿下は言った)

 一瞬の逡巡を見せただけで、きっとフランセットは、彼を壊すことができるだろう。彼の「愛している」とは、そういうことだ。
 全身全霊で、愛してくれている。
 だから。

「メルヴィン様」

 想いを返すだけじゃ、足りない。

「メルヴィン様……」

 唇を重ねた。少し伸び上がって、体を前に倒したから、拘束された手首が後ろの方へ引かれた。

 薄い視界に、見開かれた彼の目が映る。漆黒のそれは苦しげに歪んだあと、激情を押しつぶすように、まぶたを閉ざした。

 力強い両腕で、抱き寄せられる。さらに後ろへ引かれた両腕は、一瞬ののち、小さな破裂音とともに解かれた。

 口付けが深まる。すべてを奪われ尽くすような荒々しさに、フランセットは唇の端から息を乱した。

「ん、ん……っ」

「っ、フランセット」

 後ろに回った手がお尻をつかみ、引き上げられる。膝がシーツから浮いた。彼の性がぬかるみに触れて、フランセットは息を詰めた。
 落とされた。ずくりと真下から、貫かれる。

「ぁ、ああああっ!」

「く、ッ」

 シーツの上に引き倒される。抜き掛かった滾りをまた奥までねじ込まれた。
 チカチカと、視界が明滅する。
 自分の体も熱かったけれど、メルヴィンの肌も熱かった。彼は激情をぶつけるように、フランセットの奥へ欲望を叩き込む。

「ァ、ん、メルヴィン、様……っ」

 縋るものが欲しくて、両腕を伸ばした。奪うようにつかみ取られ、シーツの上に押しつけられる。それからメルヴィンが覆い被さってきた。飢えた獣のように、唇を求められて。

「ッ、フラン」

「あ、ん、ぅんん……ッ!」

 彼が奥を抉り込んで、押しつけてくる。ぞくぞくとした快感がつま先まで押し寄せて、フランセットの目から涙が零れた。

 それを拭う指。熱く汗ばんだメルヴィンの肌と、欲望に犯された漆黒の双眸。
 綺麗だと感じてしまうことにさえ、背徳感を抱くほどの色香に、心を持っていかれそうになる。

 それが怖くて、両手をメルヴィンの胸板について押し返そうとした。そうしたら噛みつくように乳房に歯を立てられ、じんとした痺れに体の芯を揺らされる。赤く痕のついた皮膚を、ざらりとした舌に舐め上げられた。

「待っ……、いや、あァっ!」

 赤いほど立ち上がった乳首を、根元からくるまれる。じゅっと吸い上げられて、フランセットはのけぞった。

「や、ぁ、ひ、ひう……っ!」

 最奥まで穿たれる。激しく、何度も。背中がシーツの上をずり上がりそうになって、それを上から押さえつけられる。獣欲に食い荒らされてしまいそうな恐怖と、体内が溶けて形をなさなくなるような愉悦。
 一際強く抉られて、目裏に光が走った。

「――ッ!!」

 びくんと大きく背がしなった。
 きつく抱き込まれて、叩き込まれた奥に、彼の欲望が弾ける。

「……は」

 フランセットのうなじに大きく息を落として、メルヴィンはフランセットごとシーツに沈み込んだ。

 痺れる指先が、まだ、メルヴィンの手に捕らえられている。フランセットはそれを、ぼうっとした頭で見つめていた。

「……フランセット」

 荒い息の下で、メルヴィンが呼んだ。
 胸の奥に抱き込まれて、頭の上に唇が押し当てられる。
 その仕草一つ一つが、深い愛情に満ちているのに。

「あなたをしばらく、ここに閉じ込める。不自由がないように取りはからおう」

「……どうして、ですか」

 自由を奪うのは、なぜなのか。
 フランセットのためか。
 それとも、メルヴィン自身のためか。

(信じなくては、いけないのに……)

 まだ甘く痺れたままの下肢から、彼が抜き取られていく。フランセットは、メルヴィンの手に絡んだ指を、握りしめた。

「毎晩来るよ。フランセットが寂しくならないように」

 フランセットの髪を撫でながら、メルヴィンは静かな声でそう言った。

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