26 雨音の聞こえる寝室にて

「ちょっと、待ってください――、っあ」

 指先で乳首を軽く弾かれて、フランセットの肩が跳ねた。その肩先にメルヴィンのくちびるが落とされて、熱い舌がじっくりと這わされる。敏感な胸の先を指で転がされながらの舌戯れ、フランセットの官能がひと息に煽られてしまった。

「や……、だめ。いまは、そんなときじゃ」

「そこが男の愚かさかな。あなたの肌がクリームのようになめらかだから、ふれずにはいられないよ」

「ぁん……っ」

 熱い吐息とともに、肩からうなじへ舌が舐め上がってくる。やわらかい皮膚を吸われると同時に、硬くなり始めた乳首をコリコリといじられて、フランセットは快感に身を震わせた。

「ねえ、フランセット。セックスしようか」

「わ、たしは、書類を――」

「僕はあなたを抱きたい」

 耳朶を齧りながらメルヴィンが官能的にささやく。

「あなたの中に挿入(はい)りたくてたまらないよ」

 愛しているんだ、とメルヴィンは掠れた声で告げる。
 彼の情熱にフランセットは溶かされてしまいそうだった。欲情した夫の前では、いつも無力になってしまう。

 耳孔に舌を入れられて舐め回され、ぐちゅぐちゅとみだらな水音に頭の中が犯されていく気がした。大きなてのひらで片胸を揉みしだかれて、柔肉が快感に張りつめていく。

「ぁ、ん、ん……っ」

 腰を抱かれながら、シーツにゆっくりと沈められる。彼のくちびるがフランセットのそれを追ってきて、重なった。

 角度を変えながら、やわらかな弾力を味わうようにじっくりと口づけていく。舌を差し入れられて、フランセットのそれを甘くこすり立てられる。

 粘膜が絡み合うことによって生まれる性的な気持ちよさに、フランセットは半ば強制的に耽溺させられていった。片づけなければならない仕事があるというのに、たくましい腕に抱かれながら深く口づけをされると、なにも考えられなくなってしまう。

「ん、ん……っ、メルヴィン、さま……」

「は……、フランセット。そんなふうにとろけた瞳で僕を見ないで。寝不足のあなたを、雨が降りやむまで抱きつぶしてしまう」

 愛欲に濡れた漆黒の瞳があまりにも綺麗で、フランセットは惹きこまれた。聞き分けのない人だ、とメルヴィンは笑って、フランセットのくちびるをふたたび味わい始める。

 濃密に舌を絡ませながら、メルヴィンは片手で乳房を覆い、揉みしだいた。快感に尖る先端を、硬い指の腹で撫で回したり、扱いたりする。

 甘く強い快楽にフランセットが翻弄されていると、腰を抱いていた腕がするりと抜かれた。熱を帯びたてのひらが太ももにふれて、フランセットはぴくんと脚を震わせる。

「あ……っ」

「少し痩せた? あんな薬を飲まされてしまって、食欲が出るはずはないけれど……」

 心配そうな瞳でこちらを見下ろしながら、メルヴィンは太もものやわらかさを確かめるように撫でていく。やがて両脚を割るように手をねじこんで、しっとりと潤った花びらに指を這わせた。

 胸への愛撫と深いキスによって、その部分はやわらかく熟れているようだった。敏感な粘膜の上を彼の指がゆっくりと往復していく。とろけるような心地よさが下腹に広がって、フランセットは頬を赤く染めながら喘いだ。

「ん……、あ、ぁん……っ」

「フィーリアさまの家でいただいた昼食は、少し軽めだったね。今日の夕食はフランセットの好きなものを用意させようか。栄養たっぷりで、消化のいいものがいいね。野菜と鶏肉をやわらかく煮込んだポトフはどうかな」

 言いながら、潤った割れ目をメルヴィンは撫で回した。同時に親指で溝を探り、隠れていた花芯を見つけ出す。
 その輪郭をくるりと撫でて、フランセットが快感に震えるのをメルヴィンは見つめた。

「ぁ、アあ……っ! メルヴィン、さまぁ……っ」

「あなたはどうしてこんなにも可愛いんだろう」

 ふくらみ始めた花芯を転がしながら、メルヴィンは長い指をフランセットの体内に埋めていく。締まる膣孔をこじ開けられ、熱い襞をこすりあげられていく感触に、背すじがぞくぞくした。
 指を根もとまで埋められて、それから引き抜かれた。ふたたびねじ込まれたとき、それは二本に増えていた。

 フランセットの官能を煽るように、または焦らすように、メルヴィンはゆっくりと指を動かしていく。クチュ、クチュとみだらな水音が立って、フランセットの鼓膜にまとわりついた。

 指を挿れながらも、メルヴィンは花芯を弄る動きを止めていない。転がしたり、やわらかく押しつぶしたりして、限界まで腫れ上がった淫粒を嬲っていく。

「あ、あ、ああん……っ。や、もう、ア……!」

「物欲しそうに腰を揺らして、いやらしさがたまらないな。ああ、お尻のほうまで愛液が滴っているよ。欲張りなフランセット、指は二本じゃ足りないのかな。三本目が欲しい? それとも僕の舌が? ここを舐められるのを、あなたはとても気に入っているよね」

 陶然とした様子で、卑猥な言葉をメルヴィンはささやいてくる。

 自分はこんなにもみだれているのに、メルヴィンはモーニングコートをしっかりと着込んだ状態だ。強い羞恥を感じて、フランセットは必死に首を振った。

「ちがい、ます。いりません……っ」

 メルヴィンは喉の奥で笑ったようだった。

「あなたは男の嗜虐心を煽るのがうまいね。けれど僕は、あなたを甘やかしたいだけなんだよ。厳密に言えば、フランセットに奉仕させてほしいんだ。あなたに救われてばかりの僕を、あなたが見限ってしまわないように」

 快感に滲んだ涙をくちびるで吸いとって、メルヴィンはフランセットの髪を優しく撫でた。

 下腹に埋められた指は、フランセットの弱いところをじっくりと撫で回し続けている。蜜にまみれた花芯は、愛撫によってひりつくほどに敏感にさせられていた。

「あ、あ、ぁん……っ。や、だめ、あ、ぁぁ……!」

「こうしてあなたの中をかき混ぜて、夢のように気持ちよくさせて、僕から一生離れられないようにしようと考えているんだよ」

「やぁ……、そんな、こと、考えたら、だめです……」

「僕を使って気持ちよくなって、フランセット。あなたが望むことならなんでもするよ。僕はもう、あなたには逆らえないんだ」

 メルヴィンは、フランセットの片胸を絞るようにつかんで、突き出た先端に吸いついた。つま先まで走り抜けた快感に、フランセットは背をしならせる。

 乳房に歯先をやわらかく埋めて、赤い尖に舌を絡める。ぬるぬると上下に扱かれ、ときおりきつく吸い上げられて、フランセットの脳内はみだらな快楽に支配された。

「いや、ぁ、もう、ぁああ……っ!」

「ふふ、膣がいやらしく蠢いているよ。蜜もたっぷりとあふれてきて、僕の手はぐしょぐしょだ」

 ぐしゅ、ぐしゅっ、とメルヴィンの指の束が抜き差しされて、途方もない快楽をフランセットに流しこんでくる。気持ちよさでどうにかなってしまいそうなのに、フランセットを知り尽くした巧みな指と舌は、あと少しというところで引いてしまう。体内に渦巻く官能を、絶頂に達することによって発散したいのに、そうさせてもらえない。

 メルヴィンは、それをわかってやっているのだ。

「ほら……フランセット。命じて、僕に。あなたのその可愛い声で、どうしてほしいか言ってごらん」

 ひどく甘く、そして恋情に染まりきった声でささやかれる。彼の瞳、声、フランセットにふれる指。どれをとっても、彼がフランセットをどうしようもなく愛しているのだということを訴えてくる。

 メルヴィンから与えられる快楽よりも先に、彼の示す激情にも似た熱情に、溺れてしまいそうだった。

「メルヴィンさま……っ」

 メルヴィンの感情に呑みこまれながら、フランセットは両腕を伸ばして彼を抱き寄せた。
 耳もとで彼が息を呑む気配がして、同時に、長い指が体内から引き抜かれる。その感触にぞくぞくと戦慄しながら、フランセットは言った。

「あなたを、ください……!」

 直後、指とは比べものにならないほど太くて熱い塊が、フランセットを貫いた。その瞬間に、フランセットは達した。

 膣壁がぎゅうっとメルヴィンの性を締めつける。彼が低く呻くのが聞こえた。ギリギリまで引き抜いて、それから奥まで叩きこまれた。

「っあ、ああぁ!」

「は――、フランセット」

 小刻みに腰を使いながら、絶頂から下りられないフランセットをメルヴィンは苛んでいく。

「フランセット……!」

 切ないほどの情動をぶつけるように、フランセットを抉ることによって傷を永遠に残そうとでもするかのように、メルヴィンは己を打ちつけた。

 雨脚はいよいよ激しくなり、音を立てて窓ガラスを叩いている。重く立ちこめる雲が陽光を遮り、あたりは夕方のような薄暗さだった。この雨は、予測よりも超過して、翌日の夜まで降り続いた。