しっとりと優しく口付けられて、頭の芯が痺れていく。滑り落ちそうになったティーカップを、彼の手が引き受けてテーブルに置いた。その間も、ヴァルはやわらかく食むようにローゼに口付けている。
「ん……っ」
右から左へ、ぬるりと彼の舌が唇を這った。その熱がなぜか下腹部まで伝わって、ローゼは身を引きかける。それをヴァルの腕にあっけなく抱き寄せられてしまった。
心臓は壊れそうなほどなのに、指先まで甘く痺れて体に力が入らない。ヴァルに触れられると、どうしていつもこうなってしまうのだろう。
「だ、め……ヴァルさま」
拒絶のために開いた唇の中へ、彼の舌が差し込まれた。ローゼはとっさにヴァルの肩を握りしめる。ちゅくちゅくといやらしい水音を立てながら、ヴァルの熱い舌が口腔内を犯していった。口蓋を舐めとられ、やわらかな頬の裏側をぬるぬるとこすられる。
「ぅん……っ、ア」
「ああ……どんな果物の蜜より、おまえは甘いな」
ローゼの舌が絡め取られ、淫らに擦り合わされる。甘くとろけるような熱が広がって、ローゼの思考が奪われていく。
ヴァルの雄々しい巨躯に抱きくるまれると、ローゼはまったく身動きができなくなってしまうのだ。基本的に竜は、人間の男性よりも大きい。ローゼはそれに、安心感と恐れ、相反する二つの感情を抱く。
絡みつくような口付けに、ローゼの体から力が抜けていった。座面をずり下がりそうになると、抱き上げられて彼の膝の上に横向きに乗り上げさせられる。かかとがベルベットの張られた座面に触れた。
その間も、彼の唇は押し当てられたままだ。じっくりと味わうように深く口付けられて、ローゼの体内に疼くようななにかが折り重なっていく。それがもどかしくて、ローゼは両足をすりあわせた。
(こんなのおかしいわ)
これ以上体がおかしくなるのが怖くて、ローゼは彼の胸板を押し返した。
「も、う……だめです、ヴァル様……」
口付けの合間に、熱い吐息を乱しながら訴える。ローゼの頬を広いてのひらで愛しげに撫でながら、至近距離でヴァルは言った。
「なぜ? 子ができるような行為はしていない」
「でも、わたし……。体が痺れるようになってしまって、怖い、です」
「それなら俺も同じ状態だ。怖いことじゃない」
彼の固い親指が、ローゼのふっくらした唇を這う。弾力を愉しむように、ゆっくりと。
その感触にすら、ローゼはぞくぞくしてしまう。瞳を潤ませて、ヴァルの胸に添えた手を握り込んだ。
ヴァルの双眸に、陶然とした色が滲む。
「ローゼ。おまえの瞳はなにでできている? 黄玉(おうぎょく)か? 琥珀(こはく)か? それとも水晶に甘いはちみつを溶かし込んでいるのか?」
ひたいに、こめかみに、頬に、キスが降る。時折肌を舐められたり、優しく噛まれたりした。
そのたびにまた、甘い疼きがお腹のあたりに溜まっていく。身を捩りたくても、しっかりと抱き込まれているせいで動けない。
唇を這っていた固い親指が、やがて口の中に押し込まれていっても、ローゼはぴくんと肩を揺らすことしかできなかった。
「ん、ん……ッ」
温(ぬる)くやわらかい粘膜を味わうように、ゆっくりと弄られる。舌の裏側をぬるぬると擦り上げられて、ローゼは熱いなにかが背すじを駆け下りていくのを感じた。
「や、ぁ……っ、ん」
「なんてかわいい声を出す」
熱を帯びた声とともに、彼の唇が耳朶に移った。軽く口付けてから、ヴァルはぬるついた舌を這わせていく。
「ア、……っ」
ふっくらした耳朶を口に含まれ、そっと噛まれた。甘い痺れが指先まで伝わって、ローゼは目を見開く。
噛まれたままぬるぬると舌でしゃぶられた。彼の親指はまだローゼの口腔内を愛でている。ゆっくりと抜き差しするような動きに、ローゼの口端から唾液が零れてしまっていた。
「ふ、ぅ……っ、や、ぁ、あ……」
「ローゼ……かわいいローゼ」
ヴァルの声は野性的な熱を孕んでいた。吐息と言葉が耳朶に触れて、ローゼはぞくりとする。このまま首すじに牙を打ち立てられてしまうかもしれない、そんなありえない想像が頭をよぎった。けれど実際は、やわらかく噛まれ、薄い皮膚を吸い上げられただけだった。
口の中から指がゆっくりと引き抜かれた。ヴァルは零れた唾液を愛しげに拭いながら、白いうなじを舐め下ろしていく。華奢な鎖骨に辿り着き、また優しく歯を立てた。
「ひぁ……っ」
胸もとの皮膚を吸い上げられる。淡雪のような肌に、赤い花が散っていった。
「どこもかしこもかわいくて、理性が飛んでしまいそうだ」
ローゼの唾液に濡れた指が、胸もとのレースに掛かる。びくんとローゼは身を震わせた。
「だめ、ヴァル様……っ」
ドレスの胸の部分が、コルセットに押し上げられたふくらみの下まで引き下ろされた。先端から下はコルセットのカップに守られているが、その上の部分、優しい曲線を描く素肌は、ひとめ見ただけでやわらかさが知れるほど繊細だった。ほんのりピンク色に上気した肌に唇を寄せられて、ローズは羞恥に頬を赤らめる。
「や……ヴァル、さまぁ……」
浅めのカップと肌の境を、彼の舌がゆっくりと這っていった。ぬるりとした熱に、ローゼの体の表面がぞくぞくとざわつく。やがて節くれ立った指がカップに掛かり、そっと押し下げると、薄紅色の頂きがふわりと顔を覗かせた。
「とても繊細で、愛らしい色をしている。触れたら壊れてしまいそうだ」
ヴァルはそれを愛おしげに見下ろしたのち、まだやわらかくいとけない果実を、熱い舌でぬるりと舐め上げた。
「ひぁあっ」
熱が通ったような鋭い刺激に、ローゼの腰が跳ねた。それを片腕でやわらかく押さえつけながら、ヴァルはマシュマロのような弾力を返すそれに、舌を這わせ続ける。
「や、あ、ぁっ、ヴァルさま、やめ……っ」
赤銅色の髪をつかんだけれど、甘く痺れる指に力が入らない。だからゆるく遊ぶだけになってしまう。
「小さくてやわらかくて……薄い皮膚だ。指で触れると傷つけてしまうかもしれない」
「でも、だめ、舐めちゃ、だめ……っ」
首を振って拒絶する。けれどローゼは、自分の唇からひっきりなしに零れる熱い吐息や、甘さの絡む声に戸惑った。抑えようとしても、抑えきれない。
「ああ、可愛らしく凝(こご)らせて。気持ちいいか、ローゼ」
芯の通り始めた色づきを甘噛みされて、ローゼはただ息を呑んで体を震わせた。気持ちいい、確かにそうだ。彼の触れたところから広がる不可解な感触は、確かに快楽だった。
宥めるように先端に舌が這い、また根元に優しく歯が埋まる。
「ア、ん……っ、ヴァルさまぁ……っ」
縋るような声で呼んでしまって、羞恥に頬が熱くなった。声を上げたくなくて、手の甲を唇に押しつける。
けれど舌で愛撫するのと反対の胸まで、コルセットのカップをずりおろされて、また先端が露出してしまった。丸いふくらみを、広いてのひらはなんなく覆い尽くしてしまう。
カップから全体を取り出すように掬い上げられて、軽く揺らされた。柔肉がふるんとして、そこに彼の五指が沈んでいく。
「や……っ」
片方をしゃぶられ、もう片方を男らしい手で淫らに揉み上げられた。その様子が目に入ってしまって、ローゼは瞳を潤ませて首を振った。
もうやめてほしい、こんないやらしいこと、耐えられない。
それなのに、ローゼの唇からは甘く熱い吐息が零れるばかりなのだ。口に手の甲を押しつけているから声はかろうじてせき止められているものの、吐息だけでヴァルにはきっと伝わってしまっているだろう。
ローゼが確かに、快感のかけらを拾い上げていることを。
彼の唇が隣に移る。開きかけた花びらのような初々しいもう一つを、優しく食まれた。
「あっ……ん、ぁ」
ヴァルの唾液に濡れた方は、彼の固い指先がやわらかく押しつぶした。つきんとした熱が下腹部にまで伝う。もう一つの先端は彼の口に含まれて、くちゅくちゅと愛でられていた。ひっきりなしに甘く溶かされているのは胸もとなのに、どうして遠く離れたそこが疼くのか、ローゼには分からなかった。
「ん、ふ、ァ……っ」
長い舌と固い指先に、両方の色づきをゆっくりと扱かれる。ローゼはびくびくと腰を小さく震わせた。歯で柔肉を抑えられながら、先端を舌で小刻みに撫でられると、口を手で抑える余裕など失われた。
「あ、ア、ああ……! ヴァルさ、ま……ッ」
どうしようもなく、お腹の奥が熱い。熱を散らそうとしても、散らし方が分からない。自由な下肢を動かしても、ちっとも収まらないのだ。
「こわ、い、ヴァルさまぁ……っ」
ローゼは琥珀色の瞳から、透明の涙をぽろぽろと零した。
「ドレスの奥が、熱い、のです……、助けて、ヴァルさま……」
優しく乳房を揉み込みながら、ヴァルが顔を上げた。その碧玉の双眸。野生的な熱が立ち上る烈しさに、ローゼは恐れを抱いてしまう。
「ローゼ」
彼のてのひらが頬に添えられた。その温かさに、そして優しい呼び声に、ローゼの恐れがゆるりとほどけていく。
「おまえは本当にかわいい。このまますべて俺のものにしてしまいたいくらいだ」
唇に甘く口付けられる。薄い皮膚が擦れ合う感触に、また下腹部がじんと疼いた。