10 竜王様の理性の在り処

「ア……っ、ヴァルさま」

「ここが熱いのか?」

 ヴァルの大きなてのひらが、ローゼのドレスの裾を割って入ってきた。シルクの靴下をするりと脱がされ、細くすべらかなふくらはぎが露わになる。ローゼは心許ない心地になったが、靴下を脱いだことによって少しだけ涼しくなった。

 けれどそれは一瞬のことだった。体温の高いヴァルの手が、ふくらはぎを覆うよう優しくつかんで、するりと撫で上げたからだ。

「やっ、そんなところ、触ったら、駄目です」

「こんなに細い足で、歩いている時に折れてしまわないか心配だ。これからはなるべく俺が抱き上げて運ぼう」

「それも駄目です、……っあ」

 彼の手が小さな膝を越えて、太ももまでを覆うドロワーズに触れた。そのままいやらしく撫でさすりながら、両脚の奥まで辿り着く。ローゼはその様子を見ることができなかった。たっぷりとしたスカートが腰の辺りに盛り上がって、視界を塞いでいたからだ。

「太ももには少しだけ肉がついているのか。とてもやわらかくて、さわり心地がいい。直接触れたらどんなに」

「だめ、です、だめ……っ」

 直接太ももに触れるなんてとんでもない――と思った直後、彼の指が信じられない箇所をなぞり上げた。ショーツ越しに、両脚のあわいを。

 そんな場所に触れるなんて。愕然としたローゼだが、もっと愕然としたのは、その時走った感覚に対してだった。

「ア、ああっ」

 びくんと背がしなる。そこを何度もゆっくりとなぞりあげられて、腰が震えた。

「っなに、あ、ひぅ……っ」

 複数の指で全体を揉むようにされて、下肢が砕けてしまいそうな痺れが走った。視界が霞んで、定まらない。強弱をつけてそこを弄るヴァルの指ばかりに神経を奪われてしまう。

「あ、ん、ん……っ、ひぁ、ァあ……っ」

「おまえのここは、小さくて愛らしいな。竜の性を受け入れられるのか、心配になってくる」

 ヴァルは気遣うように眉を寄せているが、碧玉の瞳は興奮に光っているように見えた。

 ローゼは羞恥に震え、彼の視界に映っている自分の姿を、強く意識する。ヴァルの膝の上でドレスから両胸をはだけさせ、膝から下を露出し、さらにその奥を、彼の手に弄られている。こんなこと、信じられない。

 それなのに自分の声や乱れた吐息は、ヴァルに縋るように甘く切なく響いてしまうのだ。

「いい子だな、ローゼ。おまえの体はきちんと快楽を受け止められる。その上とても甘い声で啼く」

 ローゼの肩をやわらかく抱き込んで、ヴァルは頭のてっぺんにキスを落とした。下肢の奥を布越しに愛でる彼の指が、ほんの少し上に滑る。そこにあった何かを、固い指の腹で丸く撫でられた。

「ひ……っ! ァ、ああっ!」

 あまりの快感に、喉が震えた。

「ここがいいのか?」

 輪郭を辿るように、ゆっくりと繰り返し撫でられる。時折軽く力を込められて、ローゼは首を打ち振った。
 体内が溶けてしまいそうだ。

「や、ぁ、あァ……ッ」

「ああ、蜜が零れてきた」

 そこを優しく愛でながら、別の指がすじを撫で下ろしていく。甘い疼きがお腹の奥に積もって、どうにかなってしまいそうだった。布越しではもどかしい、と思ってしまった自分に、焼かれるような羞恥を感じる。

「この下着は分厚いな。それなのにもう蜜が染み出てきている」

 ちゅく、とかすかに水音が聞こえてきた。その源を軽く揺さぶるように揉まれて、ローゼは泣き声を上げた。

「やめ……っ、ぁ、ああッ」

「おまえは気付かないだろうが、この室内にローゼの匂いが満ちてきている。とても甘くて、淫らな匂いだ。本当にたまらない。――この蜜を」

 肩を抱く腕、そのてのひらで、ヴァルは剥き出しになっていた片胸をつかんだ。やわらかく形を変える丸みを、揉み込んでいく。時折先端を指先で擦り上げた。

「っあ、ん、ん……っ!」

「この蜜を、舐めて啜って、飲み干したい」

 くちゅ、と粘性のある水音が、ドロワーズの方から染み出ている。分厚いドロワーズが――なぜ分厚いのかという理由を、ローゼは知っているのだが――不可解な水分に濡れているのだ。

 浅く抉るように、彼の指が突き立てられる、布地が襞にこすりつけられて、ローゼは足先まで伝わる愉悦に身を捩った。

「ひ、ァ、ああぁっ!」

「ローゼ……かわいいローゼ」

 ヴァルの声は切なさと苦しさが混じり合っていた。親指の腹で上部にある何かを転がすようにされ、別の指で蜜源の弄られる。胸全体を愛撫していた手は先端に集中し、指で引っ張ったりくすぐったりした。

 体が何度も震える。甘い快楽によって思考すら溶けていく。波の音すら聞こえなくなってしまった。ただ自分のねだるような甘ったるい声と、淫らな水音しか。

「や、だめ……ッ、もう、あぁ……!」

「ローゼ、キスを」

 熱い吐息が唇に触れる。彼のそれがローゼの唇を覆い、食べ尽くすように何度も角度を変えて擦りつけられた。

 背すじがぞくぞくする。彼の手と唇に、体のすべてを支配されているようだった。ヴァルの触れるところが熱くて、気持ちよくて、おかしくなってしまいそうだった。

「んんぅ……っ」

 彼の舌が、ローゼの白く小さな歯をなぞっていく。やわらかな下唇の粘膜まで味わわれて、思わず開いた口の中に、彼の舌がねじこまれていった。
 舌を絡められる淫らなキスは、何度受けても慣れそうにない。こんなにも、体の芯が熱を持ってしまうから。

「は――ローゼ。おまえの中は甘くてやわらかくて、やみつきになる」

 溢れる唾液を吸い上げられる。それがとてつもなく恥ずかしい。ローゼは顔をそむけて唇を離すと、ヴァルは本当に切ない色を顔によぎらせるのだ。

「ローゼ、まだ足りない。もっとだ。もっと欲しい」

 そんなふうに掠れた声で乞われたら、抗う事なんてできなかった。しかもこの間も彼の手や指は、ローゼの胸と下肢の奥を弄り続けているのだ。

 快楽に溶けた思考は、すぐ彼に敗北してしまう。ローゼはそろそろと顔を戻した。するとすぐにヴァルが口付けてくる。さっきよりもずっと激しく、互いの唇が捩れてしまうほど深く。

「ァ……っ、ん、ん……ッ」

「愛してる、愛してるよ、ローゼ」

 全身でローゼを求めてくるヴァルに、どうして、という疑問が浮かばずにはいられなかった。
 番いとは、なんなのだろう。
 竜にとって、ヴァルにとって、番いとは一目見ただけでここまで追い求めたくなるような存在なのだろうか。

 キスからこぼれ落ちる水音しか、今は耳に入らない。けれどドロワーズがしとどに濡れていることに、ローゼは気付いていた。そこをヴァルの指が揉み込んだり、指で抉るようにし続けている。上の方にある箇所も優しく撫でられ続けて、ローゼの下肢は快楽によってぐずぐずに溶けていた。

 ゆっくりと、ヴァルが唇を離して上体を起こす。美しい首飾りがローゼの頬に触れそうになったからか、彼はローゼを抱えながら慎重にそれを首から抜いて、ラグの上に放った。

 浅黒くなめらかな胸板には、鍛え抜かれた美しさがある。ローゼは誘われるように手を伸ばした。そっと触れると、ヴァルがびくんと体を震わせる。

 彼の肌はしっとりと汗ばみ、熱を持っていた。心臓の鼓動が早い。ローゼの下肢で蠢く手が止まった。その時ローゼは、もどかしさを感じてしまった。頭の芯が熱く、ぼうっとしてしまう。
 だからだろうか。
 ヴァルにこんなことを、自ら告げてしまったのは。

「ヴァル様……もう少しだけ、触ってください」

 快楽に濡れた瞳に、ヴァルを映す。さらさらしたまっすぐの金髪が、華奢な肩から滑り落ちた。

 ヴァルは息を呑んだようだった。数秒の空白。それからローゼは、彼の右頬にうっすらと浮かんできたものに、悲鳴を上げかけた。

「――っ」

「すまない!」

 がばっとヴァルがローゼの上体を持ち上げるようにして抱き込んだ。ローゼの頬が彼の胸に押しつけられて、視界が遮られる。
 けれど一度見てしまったものは、容易に頭から追い出せない。ローゼはがたがたと震えだした。

「ヴ、ヴァル様……」

「すまない、抑えきれなかった」

 ここから逃げ出したくて、ローゼはヴァルの胸を押し返した。けれど強靱な腕はローゼの体に絡みつき、ちっとも動かない。

「こわい、です、ヴァル様……っ」

 ぽろぽろと涙が零れる。ヴァルの腕に、さらに力がこもった。息が苦しいほどに。

「本当にすまない、ローゼ」

 ヴァルはかみ殺すような声で謝罪した。それからローゼの髪に鼻先をうずめて、唇を押し当てる。

「すまない……」

「――っあ、待っ」

 くちゅりと下肢から水音が零れ出た。ヴァルの指が再び動き始めたのだ。

「あっ、ん、ヴァルさま……っ」

「触れてほしいのだろう? 中途半端なことはしない。ちゃんと最後までするから」

「さ、いご、って……っん、だめ、赤ちゃんが、できてしまいます……っ」

 ヴァルの手が、宥めるようにローゼの髪を撫でる。

「指で子はできない。安心しろ」

「ん、っあ、あァ……!」

 神経を塗り固めたような箇所を、布越しに二本の指で摘ままれた。そこに摘まめるようなものがあることすら、この時までローゼは知らなかった。

 固い指の間でこすり合わされて、やらかい布地に突起が擦られる。ローゼはびくんと大きく腰を跳ねさせた。

「ア、あああっ!」

 頭の先から足の先まで、愉悦が走り抜けた。肌がぞくぞくとざわめいて、ローゼはヴァルに縋りつく。彼の厚い胸板に、ローゼの白い胸がやわらかくつぶれた。

「っ、ローゼ」

「ヴァルさま……っ、あ、ひぁ、ぁああッ!」

 引っ張られ、扱かれて、コリコリと揉み込まれる。体の芯が熱で溶けてしまいそうだった。足先にまで力がこもり、膨れ上がる何かに呑み込まれそうになる。

「だめ、も、ぁ、ぁああ……っ!」

 こわい。
 視界白く塗り潰される。
 その直前、ローゼの肩を抱いていたヴァルの手がずりあがって、ローゼの目を塞いだ。暗闇の中で上向かされて、熱く濡れた唇に、唇が覆われる。
 舌が差し込まれ、深くつながる。

「――っ!」

 大げさなほどに、腰が跳ねた。
 視界だけでなく、意識すら奪われて、ローゼはうねるような快楽に呑まれたのち、くったりとヴァルのたくましい体に身を沈めた。

「ローゼ……」

 達したばかりのローゼの肌を、ドロワーズに覆われた太ももを、蜜に濡れた手でヴァルが撫でさすっていく。
 ひどく敏感になったローゼは、あえかな吐息を零した。

「あ……、ん……っ」

「ローゼ、おまえに触れたい」

 琥珀色の目は覆われたまま、視界は暗闇だ。きっと彼の頬からまだ鱗は引いていないのだろう。
 ヴァルの唇が、ローゼの耳の後ろをくすぐる。それだけでまた、達してしまいそうになる。

「おまえの肌に直接触れて、蜜を掬い取りたい。きっとどんな果実よりも甘く美味しそう匂いがするだろう」

「だめ、です……、あ、ん……っ」

 ぬるぬると耳朶をしゃぶられて、ローゼはまた愉悦の海に沈んでしまう。視界が利かないせいで、余計に彼の指使いや舌の感覚を拾い上げてしまう。

 耳もとでヴァルが、乱れた息の下、低く掠れた声で言う。

「そんなかわいらしい声で啼いて。今すぐに、おまえの中に沈んでしまえたらいいのに」

 ゆっくりと、ヴァルの熱い舌が耳の中にねじ込まれていった。うなじが粟立って、ローゼは肩を震わせる。ちゅくちゅくと、味わうように舐められ、出し入れを繰り返された。痺れるような甘さが直接脳内に注ぎ込まれているようだ。

 下肢のあわいから、とろりと蜜が零れていくのが、自分でも分かった。

「ローゼ……」

 囁くように熱く呼びながら、ヴァルの手が太ももを擦り上がっていく。おへその上にあるひもを解かれて、ドロワーズに手を掛けられた。

 下半身を交わらせる行為が、子どもを作る。そう教わっていたローゼは、快楽に喘ぎながらも彼の手の上に自分のそれを重ねた。

「だめ、です……ヴァル様」

「おまえが危惧していることを、絶対にしないと誓う」

 愛おしくてしかたないというようにローゼの唇にキスをしながら、ヴァルはドロワーズをずり下げた。そこにはなめらかな白い下腹が現れるはずだった。
 しかし、である。

「……」

 そっとキスをほどきつつ、ヴァルは眉をひそめた。

「……二枚?」

 訝しげな声に、ローゼの頬がかぁっと熱くなる。

「え、えーと……これは、その」

「二枚……いや、三枚? ちょっと待て、四……五」

 指でドロワーズをめくりながら、ヴァルは数えている。ローゼは恥ずかしくて死にそうになった。

「六、……七。合計、七枚……」

 茫然としながら、ヴァルはやっと数え終わる。ローゼの目から彼の手が外された。ローゼは言いにくい気持ちでそろそろとヴァルをうかがった。頬から鱗は消えていたからほっとする。

「あの……ごめんなさい。これ」

 乱れたドロワーズを直しながら、ローゼは告げた。

「お父様が、万一のことがあったらいけないからドロワーズを七枚重ね履(ば)きするようにと」

「………………」

 ヴァルは沈黙した。非常に微妙な空気を生み出す沈黙だった。

「あの、ヴァル様」

「いや。分かった。俺が悪かった。本当に不甲斐ない」

 ヴァルはそっとドレスのスカート部分を戻して、ローゼの白いふくらはぎを隠した。またしても微妙な沈黙が落ちたのち、ヴァルは気を取り直すように、せき払いをする。

「お茶の続きをするか」

「はい」

 父親のパワーで、快楽の残滓は吹き飛んでしまった。ヴァルの膝から降ろされて、ローゼはティーカップに手を伸ばす。
 小さな声で、ヴァルがぼやいた。

「さすがお父上は用意周到だな……」