12 ここは彼の巣穴です

 ローゼの心臓が高鳴った。もしかしたら、船の中でされたようなことをまたされてしまうのかもしれない。

 しかし、それを心底嫌がっていない自分に気付く。嫌なのではなく、恥ずかしかったり、怖かったりするだけなのだ。そしてヴァルは、ローゼが本気で嫌がればきっとやめてくれる。そういう信頼感があった。

 また唇にキスが落ちる。ローゼは頬を赤らめながら、そっとヴァルの胸を押した。

「あの、でも、ヴァル様……あの」

「なんだ?」

 何度も優しく擦りつけられる合間に、ローゼは伝える。頬がうっすら赤らんでしまった。

「キスを、されてしまうと……ミルクが飲めません」

「……。もっともだ」

 ヴァルのバツの悪そうな顔を見て、思わずローゼは笑みを零した。
 飲み終えるのを彼にじっと待たれるから、落ち着かない。やっと飲み干したところで、ヴァルの手がマグカップを引き取りテーブルに置いた。性急な仕草で横抱きにされ、ローゼは寝台に連れて行かれる。枕の上にそっと頭を乗せられた。

「あ、あの、ヴァル様」

「なんだ? まだなにかあるのか」

 寝台に乗り上げながら、ヴァルはローゼの頬にキスをする。ドレスの胸もとを開きながら、ローゼの薄い肩を撫でた。

「わ、たし……男性とこのようなことをして、はしたなくはないでしょうか」

「はしたない?」

 コルセットとシュミーズをあっというまに押し下げられて、やわらかく張りつめた乳房が零れ出た。それを大きなてのひらで掬い上げ、ヴァルは弾力を愉しむように揉み上げていく。
 その淫らな様子を見ていられなくて、ローゼは頬を赤らめヴァルを見上げた。

「はしたなくはない。なぜそんなことを?」

「っあ……、だ、って、出会ったばかりの、男性に、肌を見せて……こんな、ことを」

 薄赤く立ち上がりかけた乳首を擦り上げられる。びくっとローゼの腰が跳ねた。

「やっ……ん」

「ローゼはそういうことに罪悪感を覚えるのだな」

 もう片方の手が下がって、腰の辺りにわだかまるドレスを取り去った。残っているのは七枚重ねのドロワーズだ。昨日は脱がされることのなかった絹に、ヴァルはためらいのない仕草で手を掛ける。

「こう思えばいい。おまえは肌を見せているのではない。俺に見られているのだと」

 ドロワーズがまとめてずり下げられていく。春の夜気に下肢が晒されて、寒くないのにふるりと震えた。

(見られている?)

 確かに、焼けつくような彼の視線を肌に感じている。
 受け身でいれば、罪悪感や羞恥心を覚えずに済むのだろうか。

(でも……だけど、わたしは)

 七枚のドロワーズを取り払われた。ヴァルが布の束をシーツの上にそっと置くのが見える。その手前に、不安げに揺らめく自分の素足が視界に入って、ローゼは羞恥に唇を噛んだ。

(でもわたしは、ヴァル様の手を、口づけを、気持ちいいと)

「不安そうな顔をしなくていい。ちゃんと約束は守ろう」

 太ももを撫で上げながら、ヴァルはローゼに口づける。優しく食むように、何度も。

(子ができるような抱き方はしない)

 けれど、淫らに触れられ、舌で愛撫される行為は、父と叔父に絶対に言えないことだ。

 うっすらと肉付いた太ももの奥に、ヴァルの手が触れた。固く閉じた谷間を指先で揺すられると、粘性のある蜜が染み出てくる。優しく媚肉をかき分けるようにして、ヴァルの指先がそれを掬い上げた。まだ乾いている部分に塗りつけていく。

「あっ、ん……ッ」

「ああ、ほら……さきほどのはちみつミルクなど比べ物にならない。とろけそうなほど甘くて、頭の奥が痺れてしまう。気を抜くと危ないな」

「え……? っあ」

 愛液の染み出るあわいを、指の腹で優しく撫でられる。ぞくぞくとした愉悦が下腹を溶かしていくようだった。少しずつ媚肉がゆるんで、蜜がとろりとあふれだし、いやらしい水音を立て始めた。

 初めて触れた男の指は、固くて力強く、それていて優しく、ローゼを辿る。とろけるような心地よさが腰の辺りを満たしていく。だからこそローゼの中で、羞恥と罪悪感が深まっていった。その裏側には、体を開かれていく恐怖もある。

「ぅん……っ、や、だめ、ヴァル様……」

「怖がらなくていい。おまえを愛しているんだ、ローゼ……」

 綺麗な碧玉に見下ろされる。窓からは月光が差していた。
 たおやかで儚い光の束。

「あ、ヴァル様……っ」

「そのかわいい声を、もっと聞かせてくれ」

 低く掠れた声が、熱を帯びている。蜜源に浅く指を押し込まれた。

「ひ……っ」

 強烈な異物感に、ローゼの喉が震えた。

「っあ、やぁ……っ」

 ピンク色に濡れる襞を撫でられ続ける。優しい愛撫にとろとろと蜜が流れて、指の動きを助けているようだった。やがて異物感が薄れて、そうするとねっとりと折り重なるような快感が、お腹の内側に溜まり始めた。

 ヴァルはゆっくりと上体を起こし、もう片方の手でローゼの太ももに手を掛けた。外側に押し開き、淫らに男の指を食むそこを露わにしていく。
 ローゼは息を呑んだ。

「や、やめ……っ、見ないで……!」

「大丈夫だ、とてもかわいい」

 じっくりと襞をなぞり上げ、引き抜いていく。抜き差しを繰り返されて、少しずつ膣の奥へ押し込まれていった。

 襞をこすりあげられるたびに、ローゼの体内はせり上がるような快楽に犯された。花びらがほころんでいくように、ローゼの奥深いところが、甘くゆるんでいく。

「こんなに濡らして。俺の手はおまえの蜜に濡れきってしまった」

「そ、んなこと――」

「濃いピンク色に染まって、俺の指を咥え込んで。なんて淫らなんだ」

 陶然とした視線が、ローゼのそこに注がれている。焼けつくような羞恥を感じて、ローゼは口もとを指で押さえた。

「やぁ……っ、もう、やめてくださ……っ」 

 それなのにヴァルは、あろうことかローゼの足の間に顔を伏せてきた。足を閉じようとするローゼを、てのひらだけで抑え込んで、指を食んでいるところを固くした舌先でなぞり上げる。

「ひぁ……ッ! やっ、やめ……!」

 狭い膣を押し開くように抜き差しを繰り返しながら、ヴァルは舌を使って周囲の襞を開き、丁寧に舐め上げていった。ぴちゃ、くちゃ、と羞恥心を刺激する水音が、清浄な月光に溶けていく。

「あ、ん、ん、あぁ……っ」

 高く甘い声が、抑えきれずに唇からこぼれ落ちた。のけぞった視界に入った窓、その先に星空が広がっている。
 綺麗だと、感じることもできなかった。ヴァルが舌先で、上の方にある快楽の塊を根元から舐め上げたからだ。

「や、やぁ……っ、ぁああっ」

 飴玉のように舐め転がされ、たまらない快楽に思考が崩れ落ちていく。膣肉が蠢動して、彼の指をきゅうきゅうに締め付けた。それをこじ開けるようにして、ヴァルがさらに奥へ進んでくる。

「ァ、ああ、ん、ん……っ」

 びくびくと腰が震えた。小さく跳ねて、やわらかなシーツに沈む。内もものやわらかいところに、赤銅色の髪が擦れる。それさえも快楽になった。彼の吐息が襞に触れて、その熱さが気持ちよかった。

 ローゼは視線を下げられない。あまりにも淫らな光景に、耐えられそうになかったからだ。ローゼはずっと、枕を握り込んだ自身の手を見ていた。涙で霞んでいく視界に、白く震える指先が映る。

 ヴァルの舌が動くたび、節くれ立った指がぬちゅぬちゅと膣を抉るたび、その指がひくんと跳ねて震えるのだ。まるで自分の体ではないみたいに、コントロールが効かない。

「もう、だめ……ヴァル様、もう……っ」

 ぱんぱんになった玉をきつく吸い上げられて、頭の芯まで甘い痺れが走り抜けた。ぐしゅりと奥を掻き回され、感じるところをこすり立てられて、ローゼは膨れ上がる愉悦に耐えきれなくなる。

「だめ、だめ……っ、あ、ぁああっ!」

 体が一度、大きく跳ねた。達したのだ。それなのにヴァルは、内側から粒を押し上げるようにして、ぬるぬると膣襞を撫で回してくる。ぷっくりと存在を主張する尖りの、薄く巻かれた皮を舌で丁寧に剥きあげて、また吸い上げられた。

「ひぅ、あ、ああっ」

 びくびくと体が何度も跳ねた。月光で薄められた闇に、ローゼの白い肢体が震える。なめらかなその肌を愛しげに撫でながら、、ヴァルは最初の指に沿うようにもう一本、彼女の中にねじ込んでいく。

「や、ぁ、苦し……、ぁ、あん……っ」

「快楽に耽り、淫らに震えるおまえは、本当にかわいい」

 顔を上げて、ヴァルは伸び上がるようにしてローゼの頬に口づける。ぐしゅぐしゅとローゼの体内を弄りながら、ローゼのひたいやまぶたに、狂おしく何度も唇を落とした。

「かわいい、かわいい……。ずっとこうしておまえの甘い匂いを嗅いだり、甘えるような声を聞いていたい」

 透明感のある彼の双眸が、愛しさに溶けている。その奥に淫靡な熱がどろどろと籠もっているのが見えて、ローゼの愉悦が煽られてしまう。

 指の動きが激しくなる。中だけでなく、外側も愛でられて、ローゼはまた喉を引き攣らせた。

「ヴァル、様……っ、わたし、もう……、もう……っ」

「おまえが達すれば、また濃く甘い香りが部屋に満ちる。ローゼ、愛してる。かわいいローゼ……」

 ぐっと束にした指を押し込まれた。赤く腫れた粒をこすり立てられて、ローゼはまた絶頂に達してしまう。

 自分の声が遠い。引きつれた下肢がくたりと力を失い、震える赤い唇に、彼のそれが重なる。じっくりと貪られながら、膣から指が引き抜かれた。

「あ、ん……」
 ひくんと腰が震えた。そこを優しく撫でて、ヴァルはローゼを胸の中に引き込んだ。
 ローゼの頭に唇を押し当てながら、掠れた声で囁く。

「好きだよ、ローゼ。おまえはずっと、俺の唯一だ」

 その囁きは、どこか切なさを帯びていた。疑問に思う前に、たくましい彼の腕の中で、ローゼの意識は眠りに引き込まれていった。