14 先に、いなくなってしまうのは

「相手があってのものだからな。竜がどれだけ望んでも、無理なことはある。やっと見つけた番いが、すでに人間と結婚して幸せな家庭を築いているケースだってある。そういう時はどうしようもない。竜は番いの幸せを第一に考える生き物だ。番いを無理やり大陸へ連れ帰ることはない。断腸の思いであきらめる。そういう竜はごくまれにいるが……その者の様子は、あまりに可哀想で見ていられないほどだ」

 最近リムからも、同じような話を聞かされたことを思い出した。あれはヴァルに対する言葉だった。
 ヴァルは美しい湖に目を映した。

「生殖本能と、番いを思いやる感情。本来この二つは繋がっているものなのに、二つを天秤に掛けられた時、竜は番いの気持ちを選んでしまう。だから数が少しずつ減っていくのも、仕方のないことかもしれないな」

 弱肉強食の頂点に立つ世界の覇者、竜族。彼らはその深い愛情ゆえに、この世からいつか姿を消してしまうかもしれない。その未来を思うと、悲しかった。

 ふと、いつかのレイの言葉を思い出した。竜は番いに執着する生き物だと。ヴァルは、ローゼが家に帰りたいと訴えても帰してくれないかもしれないと。

(きっとそんな竜は、ひとりもいないわ)

 ローゼの思いをなぞるように、ヴァルが言う。

「ローゼ。たとえばおまえに、他に想い人がいるのなら、俺はおまえをあきらめなければならない」

「わたしには、そういう男性はいません」

 ローゼはわずかに眉を寄せた。ヴァルは笑みをかみ殺すようにしながら、ローゼの眉間にトンと人差し指をつく。

「お父上や叔父上は、形は違えど想う相手だろう?」

「それは……そうですけれど。お父様はお母様を亡くされてからずっと精神的に不安定でいらっしゃるし、レイ叔父様は兄代わりのような、大切な存在ですから」

「レイ殿は兄代わりか。なるほど」

 ヴァルの、クセのない赤銅色の髪に、春の日差しがきらきらと踊っている。碧(みどり)色の瞳はまるで宝石だ。生気に溢れ、凜々しさを孕む輝き。ローゼは魅入られるように、彼の双眸を見つめていた。
 黄色い蝶が、ひらひらと舞う。

「……番いは」

 ヴァルの腕が伸びて、ローゼの髪に指先が絡んだ。唇に優しいキスが落ちる。

「番いは、竜に比べてひどく弱い。少しのことで傷ついてしまう、脆い存在だ」

「そんな、大げさです。わたしはそれほど弱くはありませんよ。風邪だってめったに引かないし、怪我をするような危ないこともしないですし」

 ヴァルは苦笑する。切なさが彼の瞳に溶けていた。

「けれど、寿命は短い。俺たちは百以上の年(とし)を生きる」

 ローゼは目を見開いた。

「だから竜は、番いを全力で愛し続け、守り続ける。リーヴェローゼ。俺にとって、おまえのことだ」

 もしかしたら、惹かれたのはほとんど同時だったのかもしれない。
 彼の熱い口付けを受け入れながら、ローゼはそう思った。

(目が合った、瞬間に)

 彼に囚われた。
 視界を覆い尽くす黒い翼に、根こそぎ奪われた。

 それが幸せだと直感してしまったから、もうローゼは彼から逃れられない。分かっていたことだった。どんなに父が嘆こうとも、鱗が怖ろしかろうとも。

(この方(かた)が、好き)

 ヴァルのような、番いの魂ごと抱き込んでしまうような、烈しく深い愛しかたはできないかもしれない。

 けれど、今の自分ができる限り、体中で、心のすべてで精一杯、彼を好きだと叫んでいるのだ。

「っあ、ん……っ」

 細い両腕で、男らしい首もとを抱きしめる。絹糸のように繊細なローゼの髪が、春の日差しにキラキラと舞った。

 ローゼの体をひと周りしてなおあまりある腕。その手がローゼの胸のふくらみを覆っている。 ゆるぎない力強さに包まれながら、ローゼは彼を抱きしめる腕に力を込める。

 ドレスはすでにはだけさせられていた。不安定な丸太の腰掛けに、ローゼの体はほとんど触れていない。ヴァルの膝に座り、正面で向き合いながら抱き込まれているからだ。

 ドレスの胸もとはずり降ろされ、二つの白いふくらみを露出させられている。華奢な肩にひっかかった布地はところどころ引き裂かれていた。情欲に濡れたヴァルの手が、勢いよく引き下ろした結果だった。

「ァ、あ……! ヴァル様ぁ……っ」

 胸の片方をつかまれて、うなじに熱い舌が這う。耳朶をも含めて繰り返し激しく舐られて、ローゼの腰が浮いた。

「や、あ、ぁああ……ッ」

「っほんとうに……おまえの肌は甘すぎて、おかしくなりそうだ」

 ぐっと胸に五指が沈む。もう片方のてのひらは性急にドレスの裾を擦り上げて、白くなすべらかなふとももを撫で回していく。

「今日は――ドロワーズを履いていないのか」

「ちが……っ、最近、暖かくなってきたから、短いショーツにして……、あぁんっ」

 ぐちゅりと指が突き立てられた。ショーツのクロッチ部分から、ヴァルが潜り込んでいる。

 彼の、淫らで熱い舌先や手によって、ローゼのそこはすでに熟れ始めていた。いまだ破瓜を迎えていない箇所は、夜ごと繰り返される愛撫に、ひどく感じやすくなっている。

「ぁ、ああ……っ」

 浅い部分をぬちゅぬちゅと弄られて、ローゼは身もだえた。薄く開いた視界に映るのは、残酷なほどに穏やかな春の景色だ。

「ヴァルさま――ヴァルさまぁ……っ」

 ヴァルの首もとに縋りつく。ヴァルの片腕はローゼの背中をひと周りして、ふっくらと盛り上がった胸を揉みしだいていた。色づく先端を固い指の腹で擦り立てられて、体の芯に甘い痺れが走り抜ける。

「ひ、ァ、あああっ……!」

「なんてかわいい声で啼く」

 吐息ごと奪うように口づけられた。ヴァルの舌がすぐに押し入ってくる。ローゼのそれが絡めとられ、激しく求められるヴァルの恋情に、つたないながらも彼女は必死で応えた。

 ぐしゅぐしゅと唾液が絡み合い、互いをより淫らに塗り込めていく。開けた場所で抱き合っているのに、こんなに明るい場所なのに、世界に二人だけで存在しているように感じた。

「ヴァル、さま……っ」

 激しい口づけの合間に、ローゼは涙混じりの声を出す。

「誰か、に、見られたら……っ」

「俺の気配は竜族の誰もが気付く。近づく者は皆無だ。第一――」

 胸の先端を手折られる。熱い刺激が、弄られ続ける下腹にまで伝わって、ローゼはびくんと背をしならせた。

「長(おさ)の蜜事(みつじ)を邪魔するような無粋な輩は、竜族にいない」

「っア、だめ、そこ……っ!」

 下肢の蜜源をぐちゅぐちゅと弄んでいた指が、するりとずり上がって存在を主張し始めた粒をひと撫でした。腰が砕けてしまうような快感に、ローゼはひきつった声を上げる。

「や……、あん、ん……!!」

 高い声を上げてしまいそうになって、ローゼはとっさに口をヴァルの胸に押しつけた。そうしてなんとか声を抑えたが、逆にマシュマロのように柔らかな胸を、彼に押しつける形になってしまう。

 きゅうきゅうに押しつけられた初々しい片胸をじっくりと揉みしだきながら、ヴァルは形いい唇をローゼの耳朶に触れさせた。

「夜よりも明るいから、おまえの肌がほんのり上気しているのがよく分かる。やわらかそうで、余すところなくしゃぶりついてしまいたいくらいだ」

「そ、んなの、ダメ……っ」

 耳朶を唇でくすぐられて、それからぬるついた口腔内に含まれた。ちゅくちゅくと甘噛みされたりしゃぶられたりして、ぞくぞくした熱が下腹部にまで伝わってしまう。 

「っあ、ァ、ヴァルさま……ヴァルさま……っ」

 切なく啼くローゼの声に、淫らな水音が混ざり合っていった。ほっそりした両脚の奥から、そして彼の口の中で弄ばれる耳朶から。

「ずいぶんとショーツが濡れてしまった。帰り道が困るな」

 ふくらみきった花芯を、指の腹が優しく揉み込んでいく。ローゼは喉を震わせて喘いだ。
 彼の指はクロッチ部分から侵入しているため、ショーツは脱がされていない。きっとものすごく濡れているだろう。

「最初に脱がせば良かったのだが、そこまで頭が回らなかった。すまない」

 謝罪を口にしながらも、ヴァルの指は淫らな蜜を掻き出すように抜き差しを繰り返している。とろけてしまいそうな気持ちよさに耽っていたローゼに、やっとヴァルの言葉が入ってきた。

「それとも今から脱いで、乾かしておくか? いや、もちろん冗談だが――」

 ぼんやりしていたローゼは、ヴァルの軽口に頷いてしまう。愛液に濡れたショーツを履いたまま移動するなんて、嫌だ。気持ちが悪いし、なにより恥ずかしい。

「お、ねがいします。ショーツを、脱がせてください、ヴァル様……」

 数秒の空白があった。その後、ヴァルがいっきに赤面する。

「っそれは駄目だローゼ!」

「えっ?」

 ヴァルはローゼを抱き上げて、くるりと湖の側を向かせた。ヴァルの顔が見えなくなる。

「あ、あの、ヴァル様」

「今顔に鱗が出ている。振り返るな」

「ええ?! ど、どうして今なんですか」

「分からんが……恐らく、おまえから積極的な行動を取られたときに出るようだ。これまでのパターンからするとそうに違いない」

「わたしから? 今、何かおかしなこと言いました?」

 ローゼは心当たりがなくて、不安になる。しかし、太ももを這い始めたてのひらによってそれどころではなくなった。

「ヴァル様、まだお話が……!」

「いや、いい。おまえはなにもおかしなことなど言っていない。俺が阿呆なだけだ」

 耳殻を熱い舌でなぞられる。耳朶に吸い付かれて、ローゼの腰が跳ねた。

「やぁん……ッ!」

「本当に……不甲斐ないな。自己嫌悪に陥っている真っ最中でも、おまえの匂いをかぐと体が熱くなる」

 ヴァルの指が両脚の奥に触れた。ぺたりと貼り付いた布の上を、ゆっくりと円を描くように揉み込まれる。

「ぁ、あ……! ヴァル様、濡れちゃ……っ」

「こんな風で、いつおまえに愛想を尽かされるかと日々恐々としているよ」

 耳朶に甘く歯先が沈む。舌でちろちろと嬲られて、ローゼの体がさらに熱くなっていった。