20 番う(1)

 ぞくりとした。熱い湯の中に、あるというのに。

「父君との約束に背くことになるが」

「子ども、が、できる行為ですか……?」

「いや。人間同士の睦み合いをなぞっても、子はできない。竜には竜のやり方がある」

「それなら、いれてみても、問題ないのでは、ないのですか」

 ほとんど無意識に、ローゼは言った。どうしてそのようなことを言ってしまったのか、自分でも分からない。けれど、ヴァルのものを体内に入れるということを想像した瞬間、指で愛でられている膣がずくずくと疼いた。欲しいと、思ってしまったのかもしれない。

「怖いことを言う」

 ヴァルは笑ったようだった。軽い振動が耳に触れて、ローゼはぴくんと身を震わせる。

「おまえは今、俺をどれほど煽っているか分かっていないだろう?」

 ゆっくりと胸を揉み上げられた。淡雪のような官能に、ローゼの体から力が抜けていく。

「あ……っん」

「かわいい声を上げて、魅惑的な匂いをまき散らして。肌だってこんなに甘いのに、その上――」

 ゆっくりと、耳孔にヴァルの熱い舌が入ってきた。奥をぴちゃりと舐め上げられて、抜き出される。
 それに、怖いくらい感じた。
 お腹の奥から熱いような冷たいような、よく分からない何かがせり上がってくる。

「挿れてみても問題ないと?」

 ヴァルの声に、情欲が凝っている。男の色香に濡れた指先が、ローゼの花芯を擦り上げた。
 ヴァル様、とローゼは呼びかけたはずだった。けれどそれは言葉にならず、夕闇に溶け消えた。

 お湯の中にあってなお、蜜のまとわりつく膣口に、固い何かが押し当てられる。
 その感触は確かに剥き出しの皮膚で、つまりヴァルは、いつのまにか腰布を開いていたのだ。

 ヴァルは、片胸を揉みながらゆっくりとローゼの体を持ち上げた。もう片方の手で、ローゼの陰唇を優しく割り開く。

「あ……」

「ローゼ」

 絹糸のような髪に鼻先を埋めるように、ヴァルは唇を押し当てた。

「苦しかったら言ってくれ」

「ヴァル、様」

「愛してるよ」

 とろとろに蕩けた蜜口に、ヴァルの性が押しつけられた。その瞬間、ローゼは入らないと思ったのだ。絶対に入らない、こんな大きなもの。けれどゆっくりとヴァルが、ローゼの体を押さえるように沈めていくと、ぐぷりと滾りの先端が、ローゼの中に入ってきた。

「ひ……っ」

 ローゼの舌がわなないた。狭い蜜口を、大きな熱杭で無理やり押し開かれていく感覚に、まず恐怖が先に立った。

「ぁ、……っ」

「苦しいか?」

「わ、分からな……っ、ひぅ」

 さらに押し下げられて、ぐぷっと太い先端部分が完全に埋まったのが分かった。あのゆらゆらが、こんな風になるなんて。ローゼは混乱しきって、ひくひくと浅い呼吸を繰り返した。

「ローゼ」

 肩口に、ヴァルの唇が押し当てられる。彼の息が荒い。片腕で、ローゼの両胸を押しつぶすように抱きしめられた。

「おまえの中は、本当に――ああ、くそ」

 熱い吐息がローゼの肩に触れる。

「たまらない」

 劣情に満ちた囁きに、ぞくりとする。ローゼの奥からまた蜜が染み出たような気がした。

 ずりゅ、とまた彼が奥へ入ってくる。押し開かれ、暴かれる感覚に、震えが走った。
 夜ごと男の指と舌に愛され尽くした膣は、やわらかく潤んで柔軟性を増していた。それでも竜の性は長大で、小柄なローゼの隧道は、ぎちぎちに埋め尽くされていく。

 熱いお湯の中にいるのに、温度が遠い。自分のものではない熱源が、体内にあるからだ。

「は……っ、あ、ぁ」

「大丈夫か、ローゼ」

 気遣わしげに――けれど彼自身も何かに耐えているように苦しげに、ヴァルが聞く。ローゼは首をたてにも横にも振れない。

「分から、な……、ぁ、っん」

「番いが竜を……受け入れる時、痛みを感じないという。ただおまえの中は、とても、狭くて。苦しくさせていないか、心配だ」

 耳の裏側に唇を押し当てられる。震える視界で水面を見たら、ごく薄い赤いリボンのようなものが、下の方から揺れ昇ってきた。

(血……?)

 もやの張った意識で、そう知覚する。

(わたしの、血……? でも、痛く、ない……。苦しい?)

 それも分からない。
 ただ、膣の襞を押し広げ、ざらざらと舐め上げていく、大きな情欲が鮮明で。
 ゆっくりと体の真ん中を貫いていくそれにしか、意識がいかない。

 やがて、ローゼの蜜をたっぷり纏った先端が突き当たりに辿り着いた。ぐっと押されて、ローゼは大きく背を跳ねさせた。

「い……っ!」

「すまない、痛いか?」

「ち、が……、あ、ぁ」

 めまいがする。指の先まで痺れていた。
 湯に濡れた髪が、頬に貼り付いている。その感触すらぞくりとした愉悦に取って代わる。

 ローゼは息もつけないような快感に襲われていた。苦しいという表現を使うなら、そうなのだろう。

「きもち、よすぎて」

 声が掠れて、震えた。目裏が明滅する。

「気持ちよすぎて、おかしく、な……」

 震える唇から、熱い吐息と唾液が伝い落ちる。
 狭い膣筒をこじ開けられ、繊細な襞をこすり上げられ、処女膜を押し破られても、ローゼには痛みなどなかった。

 痛覚は消え失せていた。あるのはただ、凄まじい快感だけだった。

「あ、も、っあ、イっちゃ……」

 びくびくと体が小刻みに震えた。ぎちぎちに満たされた膣が蠢動する。ヴァルが一瞬息を呑んだようだった。
 一度引いた腰を、また奥へ押し込まれる。

「ぁ、あああっ!」

「っ、ローゼ」

 ぐっと両腕で抱きしめられる。ローゼが大きく背をしならせたから、水しぶきが立って、上気する頬を濡らした。

 ローゼは達していた。湯の中で折り曲げた膝が震えて、膣壁がきゅうきゅうに締まり、ヴァルの欲望を捕らえ込んだ。

「ア……あ、ヴァル様、ヴァルさま」

 ローゼはぽろぽろと涙を零していた。体の震えが止まらない。絶頂から降りられないからだ。
 ヴァルは動いていないのに。

「気持ち、い……っあ、こわ、い、いや、やぁぁ……っ」

「ローゼ、大丈夫だ。なにも怖くない」

 ヴァルの声にも余裕がなかった。彼が動かなくても、ローゼの膣がうごめいて、彼を奥へ奥へと促しているようだった。
 もうこれ以上、奥はないのに。

 けれどヴァルの性は、根元まで埋められていない気がした。ローゼの小さなお尻は、まだヴァルの太ももの上に乗っていないからだ。

(もっと奥に)

 もっと気持ちよくしてほしい。けれど過ぎる快感が怖い。

「ゆっくり息をして」

 大きなてのひらで、震える喉を撫でられる。誘われたように春の夜気が入り込んで、肺を満たしていった。

 幾分か落ち着いたが、それでもヴァルの滾りを食んでいる箇所はどくどくと脈打って、ローゼが少しでも身動きすると毒のような快楽を全身に流し込んでくる。

「ひ、っあ、あぁ……!」

「ローゼ」

 てのひらが撫で下がって、まろやかに張り詰めた乳房を包んだ。膣内に過集中する快楽を散らすように、じっくりと揉み上げられる。体の大きなヴァルが、安心させるようにローゼをすっぽりと抱き込んだ。

「ローゼ、大丈夫だから」

「ぅ、ん……っ、あ、ぁ……っ」

「おまえが間違いなく、俺の番いだという証拠だ」

 けれどヴァルの言葉は、ローゼの溶けきった脳内に入ってこなかった。ヴァルのたくましい胸板と、力強い腕と、熱い欲望だけが、今のローゼを支配するすべてだった。

 くらりとめまいがして、頭が揺れた。前へ倒れ込みそうになるのを、ヴァルの手が受け止める。

「風呂の中はまずかったか」

 ヴァルはそのままローゼのひたいを押して頭を自身の肩にもたせかけた。それから一息ついて、いっきに己の性をローゼの中から引き抜く。
 撫で退る熱と、突如空虚になった蜜筒に、ローゼは混乱した。

「や……っ、いや、抜かないで……!」

「少し待っていてくれ。――俺だって、つらい」

 ヴァルはローゼを横抱きにして、ざっと湯船から立ち上がる。体にまったく力の入らないローゼを軽々と室内へ運んだ。その間、ローゼの視界は点を結ばず、湯気と薄い紺碧に阻まれて、ヴァルの表情すら確かめることができなかった。

 けれど、雄々しく端整な面差しの、浅黒い肌の上で、白銀が煌めきを引いていた。薄い夜闇の中で、その光は美しくローゼの目に焼き付いた。

(ヴァル様の、鱗)

 猫足の長椅子に掛けてあったバスタオルを、ヴァルは無造作に取り上げた。椅子にローゼを座らせ、バスタオルで包み込み、水滴を拭う仕草はひどく優しい。

「ヴァル、様……」

「寒くないか?」

 ヴァルは自身の体もざっと拭き取ったあと、片膝をついてローゼの頬を包んだ。
 碧玉の瞳は優しげだが、奥に情欲の炎が灯っている。ここからは見えないが、きっとヴァルの性は、滾りを失っていないだろう。

 しかしそれはローゼも同じだった。胸の方に引き寄せた両脚の間から、とろとろと熱い蜜が蕩け出ているのが分かる。

「ヴァル様」

 ローゼは赤い唇を震わせた。ふるりと潤ったそこに、ヴァルは誘われるように親指を這わせ始める。

「ヴァル様……」

 ローゼは手を伸ばした。そして彼の頬に触れた。そこには白銀に輝く鱗ががくっきりと浮き出ていて、肌触りはするするとしていた。それでいて、ひんやりと冷たかった。
 ヴァルがびくりと肩を震わせる。そして愕然と、両の目を見開いた。

「ローゼ。鱗を」

 鱗に触れているローゼの手に、大きな手が重なる。

「鱗が、怖くないのか?」

 それには答えず、ローゼは熱い息を吐いた。もうこれ以上、少しも待てる気がしなかった。

「ヴァル様。もう一度、抱いてください」

 噛みつくように荒々しく、唇が奪われた。