11 一夜の記憶(3)

 それがせつなげにすがめられて、シュゼットの頭のうしろをつかむように、彼のてのひらが差し込まれる。
 口づけが深まり、みだらな水音を立てながらフィンの舌が入ってくる。飢えを満たすかのように口腔内をなめしゃぶられ、貪られた。

「んん……ッ、ん、ァ……っ」

「は――、シュゼット」

 舌を吸い上げて甘く噛んで、フィンはささやく。

「好きだよ、シュゼット」

 ずきりとシュゼットの胸が痛んだ。
 フィンに言葉を返せない。

(まだ――わたしは)

 覚悟が足りていないのに、彼に抱かれようとしている。

「フィン……、あ」

 フィンの熱いてのひらが、ふとももをなであげた。その奥にある濡れた花びらを、指でなぞられる。とろとろと愛液のこぼれる蜜口に、指先がふれた。
 ぬくりと彼の指が入ってくる。

「っん、……ぁ、あ……!」

 感じやすい襞をなであげられる感触に、シュゼットは背をしならせた。
 フィンの長い指が、膣壁をゆっくりと往復する。初めて受け入れる男の指に、固くしまっていた処女孔は、少しずつとろけるようにほぐれていく。

「あ、ぁん……っ」

「きみのなかは、あたたかくて気持ちがいいな……」

 陶然と告げて、フィンは、別の指で花芯をぬるぬるとなでまわした。

「っひ、ア……! やぁ、ああ……っ!」

「ああ、締(し)まった。素直でかわいい体だ」

 夜の静けさに、ふたりの息づかいと、くちゅ、ぐちゅ、というみだらな水音が溶けていく。
 フィンの巧みな指は、シュゼットのなかの弱いところを確実に探りあてた。そこを甘くこすり立てられて、シュゼットはせつない熱情に身をよじらせる。

「あ、ん、んー……ッ! フィン、だめ、そこばっかり……っ」

 フィンはシュゼットの頬に口づける。それで、彼のくちびるが笑みのかたちをとっていることに気づいた。
 直後、激しい快感につらぬかれてシュゼットは目を見開く。

「ッ、あ……!!」

 何度も愛でられいた弱い箇所を、ぐしゅりとえぐるようにされながら、外側の花芯を押しつぶされたのだ。
 視界が白く染め上げられる。大きく腰が跳ねて、それからがくがくと震えた。それをなだめるように、フィンのもうひとつのてのひらが腰をゆっくりとなでていく。

「上手に達(い)けたね」

「あ、ア……っ、だめ、いま、そこ、さわっちゃ……」

 フィンの指はゆっくりと引き抜かれたが、彼の親指の腹はぬるぬると肉粒を転がしている。さやをむかれて、ひりつくほどに感じやすくされてしまった。
 とまらない快楽に、シュゼットの体は指先までしびれていった。

「は――、ぁ……ッ、もう、だめ、だめ……っ」

「こんなにも濡らして。俺の手首まで、きみの蜜が滴っているよ」

「やぁぁ……っ」

 ぐちゅり……とふたたびフィンの指が押し込まれる。今度は二本だ。

「ア、あ……っ」

「そんなふうに恥じらうくせに、俺の指をおいしそうにくわえ込んでいるじゃないか」

 きつくしまる膣肉を押し広げるように、じっくりとかきまわされる。

「あ、ん……っ、フィン、フィン……っ」

「っ、くそ――」

 眉をゆがめて、フィンは指を引き抜いた。シュゼットの上で上体を起こして、ウエストコートを脱いでいく。シュゼットは息を弾ませながら、指淫にとろけた肢体をくったりとシーツに預けている。

 彼は、劣情に濡れた瞳でシュゼットを見下ろしながら、シャツを脱ぎさっていく。青い月光にたくましい上半身が照らしだされた。涼しげな顔立ちをしているのに、体つきは固そうな筋肉に覆われている。
 思わず目を奪われたシュゼットを見つめながら、フィンは、下履きの前をくつろげた。

「嫉妬に焼きつくされそうだ」

 押し殺した声でそう言って、シュゼットのくちびるに口づける。

「あ……ッん」

「シュゼット……」

 熱くて固いなにかが、陰唇に押しつけられる。ぬちゅ……と茎の部分ですり上げて、フィンは、とろみのある愛液を自身に塗りつけた。
 固い凹凸に敏感な花びらをすられて、じんとした快楽に満たされる。体が自分のものではないみたいにとろけて、シュゼットは甘く啼き声を上げた。

「あ……フィン……」

「ん?」

「気持ち、い……、ッあ、あん……っ」

「ああ、俺も――」

 熱い先端で、ふくれ上がった花芯をぬちゅぬちゅと愛でながら、フィンは余裕のない声でささやいた。

「一秒でも早く、きみが欲しい」

 そのまま口づけられて、じっくりと舌をからめとられながら、ずくりと、フィンの性が押し込まれてきた。

「ッ――」

 その、圧倒的な質量にシュゼットは息を飲む。真ん中から体を割り裂かれるようだった。

「やっ、あ、ァ……!」

「っ、せまいな」

「い、たぁ……っ、フィン、いたい……!」

 シュゼットの反応に、フィンは動揺したように眉をよせた。しかし、すぐにそれを抑え込んだ様子で、シュゼットの頬を優しくなでる。

「大丈夫だよ、シュゼット。力を抜いて」

「ん……ッ、いや……いや……っ」

「キスをしようか、シュゼット」

 言って、シュゼットのあごをつかみとり、しっとりと覆うように口づける。甘やかなくちびるの愛撫に、シュゼットはぴくんと肩を震わせた。

 そうしながら、フィンのてのひらが、まろやかにはりつめた乳房を包み込んだ。官能を引きだすようにゆっくりと揉み上げられ、ときおり先端をつままれて、こりこりとすりあわされる。

「ぅん……っ、んー……」

 甘ったるい快感が体内を浸していく。彼の欲望を食んだままの下肢へその熱が少しずつ広がって、じんとした疼きに膣壁が蜜をにじませ始めた。
 それを感じ取ったのか、フィンがふたたび腰を動かし始めた。負担をかけないように、ゆっくりと抽挿をくり返していく。

「あ、ア……っ」

 ぴくんと小さく、シュゼットの腰が跳ねた。
 胸の愛撫と口づけは続けられていて、彼の舌がくちびるを割って入り込み、じっくりと口淫をほどこされていく。
 やがて、ぐちゅ、くちゅ、と、シュゼットの下肢からみだらな水音が立ち始めた。

「ん……フィン……フィン――」

「もう痛くない、シュゼット……?」

 くちびるをふれあわせたまま、甘い声でフィンがささやく。彼の青い瞳は、とろけるような恋情に満たされていた。

「ん……、いたく、ない……。気持ちいい……、っあ、ん……!」

 ずくっと奥まで押し込まれて、シュゼットの背がしなった。

「ぁああっ……!」

「っ、シュゼット」

 上体を起こしたフィンが、シュゼットの両胸をてのひらでつかんだ。柔肉を味わいながら、いやらしく上向いた先端を指先で刺激する。

「ッ、あ、やぁぁ……っ」

「は、きみのなかはすごいな。すぐに持っていかれそうだ……!」

 半ばまで引いていく肉身を、シュゼットの濡れ襞が、いかないでとでも言うようにきゅうっと吸い上げる。
 自分の体がしめすみだらな反応に、シュゼットは、恥ずかしくて顔を覆った。

「っあ、あ、……も、やだぁ……!」

「隠さないで、シュゼット。きみの感じてる顔が見たい」

 両手首をつかまれて、シーツに押しつけられた。同時に、奥の感じるところにぐちゅっと突き込まれて、シュゼットは体を震わせる。

「きゃああっ……! だめ、そこ、だめ……ッ」

「かわいい――かわいいよ、シュゼット」

 淫情に満ちた吐息をつきながら、フィンが覆いかぶさってくる。くちびるを重ねられて、甘くすりあわされた。
 やわらかく濡れた感触にぞくぞくする。下肢では、ぐちゅっぐちゅっと弱いところをくり返し愛でられて、体内で凝りきった熱がいまにも弾けそうになっていた。

「ぅん……っ、ん、フィン……、もう、イっちゃう……」

「これ以上に俺をしめつけるつもりなの、シュゼット。悪い子だな」

 甘ったるい口づけをくり返しながら、フィンは感じ入ったように微笑する。

「じゃあ、きみのイった少しあとに、俺も終わるから――」

「ん、――っあ、ああ……!」

 ふたりのつなぎ目に、フィンが手首をねじこんできた。ぱんぱんにふくれあがった花芯を器用に探りあて、ぬるぬるとなでまわす。

「待っ――あ、あぁぁ……ッ!」

「きみのなかに出させて。きみが欲しいんだ、シュゼット」

「っ、だめ、なかは、だめ……!」

 反射的にシュゼットはそう返していた。熱くたぎりきった男の性で、蜜肉をぐしゅぐしゅとこすりあげながら、フィンはシュゼットに口づける。

「愛してるよ、シュゼット。きみが好きだよ」

 情熱的なささやきが、シュゼットのくちびるにとけていく。

「結婚しよう」

「な――、え……?!」

 前世でも、ついぞ聞いたことのなかった言葉に、シュゼットは頭のなかが真っ白になった。
 一瞬快楽すら忘れそうになり――しかし、ぐりっと花芯を転がされる刺激に、また愛欲の底につき落とされる。

「あぁ、ん……っ!」

「っ、シュゼット。きみのすべてを、俺にくれないか。俺のすべてをあげるから」

 腰の動きが早められていく。最奥まで何度も激しくつらぬかれて、高まりきった体内の熱が大きく揺さぶられた。

「きみが――シュゼットが、優しいと言った、俺のそういう部分をきみだけに全部あげる」

「フィン……フィン、あ、ぁぁぁッ」

 奪うように激しく口づけられて、打ちつけるように深く子宮の底をえぐられた。
 喘ぎ声がキスにのまれて、絶頂に達してビクンビクンと跳ねる体を上から押さえつけられて、シュゼットは、助けを乞うようにフィンを抱きしめた。

 弾けた熱に蜜肉がきゅうっとしまり、フィンを引き絞る。シュゼットの言葉に反し、ねっとりときつく吸いついて、彼の精を飲み干そうとしている。

 フィンが短く息をつめた。シュゼットのかすむ視界に、彼の快楽にゆがんだ表情が映って、だから、もう一度「だめ」と言おうとしたのに。

「シュゼット」

 こちらの胸がしめつけられるようなせつない声で、フィンが呼ぶから。

「好きだよ、シュゼット」

 だからなにも言えなかった。
 シュゼットにも、罪はあった。

「フィン……っ」

 このときシュゼットが、彼の名を呼びながら抱きしめなかったら――お願いやめてと訴えていたら、フィンはきっと、意思の力で己の欲望をとめてくれただろう。

 熱い情欲につらぬかれて、とろけるような快楽に侵されて、シュゼットが発した言葉はまったく逆のものだった。

「フィン、ちょうだい、もっと……っ」

 がっしりとした両腕が、白い肢体に巻きついて力強く抱き込められる。
 フィンの熱く烈しい熱情がたたきつけられ、弾けた情動に体の奥が濡らされた。

「……っ、く」

 耳もとで、フィンがうめく。
 淫情に満ちた欲望を吐ききるまで、シュゼットの最奥にぐっと押しつけたままとどまって、それからふるりと身震いをした。

「……シュゼット」

 かすれた声で呼びながら、フィンはシュゼットの頬に熱いくちびるを押しつける。

「きみをもう、離したくない……。いますぐにでも結婚して、俺のそばにとどめ置いて、毎日きみを抱きたい」

「あ……っ、ん、ん……」

 くちびるに口づけられて、ぴくんとシュゼットは肩を震わせる。
 快楽の余韻が色濃く残る体は、フィンにすこしでもふれられるだけでざわめいてしまう。
 しかも、まだフィンは、シュゼットのなかに埋められたままだ。

「すまないシュゼット。体、つらいか?」

 朦朧としながらも、シュゼットはゆるくうなずいた。
 フィンは、きれいなかたちをした眉をよせつつ、いたわるようにシュゼットの頬をなでた。

「むりをさせてごめん」

 そっと口づけながら、ゆっくりと自身の性を引き抜いていく。とろとろにとろけた粘膜がすれあう感触に、シュゼットは淡く息を乱した。

「ん……」

「俺を見て、シュゼット」

「あ……フィン……」

「今夜はこうして、きみを抱きながら眠っても?」

 いとしさに溶けた青色の瞳で、フィンが聞く。
 ゆっくりを髪をなでる大きなてのひらが心地よかった。

「……うん」

「ありがとう」

 ひたいに口づけて、フィンは、乱れた上掛けに手を伸ばし、かけ直そうとしたようだった。
 しかし、その手は途中でとまってしまった。見れば、たくましい上半身を中途半端に起こしたまま、フィンは表情をこわばらせている。

(どうしたのかな)

 上掛けやシーツに、おかしなところでもあったのだろうか。

 聞いてみようかと思ったが、重しのように睡魔がのしかかってきて、まぶたが閉じてしまう。
 みだらな熱の残滓と、ひりつくような下肢の痛みを感じながら、シュゼットは眠りに落ちていく。

(ああ、そうだ。この痛み)

 もしかしたら、フィンが動揺したのは、シーツに処女を散らした証が染み込んでいたからかもしれない。
 この夜は、シュゼットにとって初めての一夜となった。

 明日には、今夜のことを死ぬほど後悔してしまうかもしれない。けれどいま、確かにシュゼットは、あたたかな幸福感に満たされていた。あれほど恋愛を避けて生きてきたのに、矛盾しているとは思うけれど。

(なかに出されちゃって……、でも、このひととの赤ちゃんならきっと、ものすごく……)

 いとしいにちがいない。
 理屈でなく本能でそう感じると同時に、上掛けがかけ直されて、ふたたびフィンの腕のなかに抱きしめられた。先ほどよりも、心なしか強く。

 これ以降の思考は眠りにのまれ、シュゼットは、フィンの力強い腕のなかで意識を手放した。