彼女たちの姿が見えなくなって、シュゼットの脚から力が抜けた。かくんと崩れそうになる体を、まわしたままだった腕が抱きとめてくれる。
「大丈夫?」
声が振ってきて見上げると、心配そうな顔をしたフィンが映った。
「ごめん。もっと早くにあのこたちの口をとめられればよかったんだけど、あまりやりすぎると、きみへの悪意が逆にふくれ上がってしまうと思ったんだ」
フィンはいつも、知恵をまわしてシュゼットのいちばんいいようにしてくれる。シュゼットはゆるく首を振った。
「大丈夫。ありがとう、フィン」
「あの子からなにを言われた? よく聞こえなくて、けれど険悪な雰囲気だということは伝わってきたんだけど」
「うん……」
シュゼットはうつむいたあと、ほほ笑んでフィンを見上げた。
「大丈夫。たいしたこと言われてないから、気にしないで」
「……。シュゼット。今日は来てくれてありがとう」
フィンは、心配そうな色を瞳に残しながらも表情をゆるめた。それから冗談めかして言う。
「てっきり振られてしまったかと思っていたよ。昨日突然、そっけない手紙が届いたものだから」
「うん――わたしも、もうフィンには会わないつもりでいたよ。でも」
「でも?」
フィンの指がシュゼットの頬にふれる。心地よい熱がそこから広がっていくようだった。
「でも、フィンに会いたくて。フィンにどうしても会いたくて、ここへ来たの」
春の花が香る。
風が吹いて、優しい色をした花びらがさざ波のように揺れていく。
「フィンが好き」
胸の奥からあふれんばかりだったこの想いは、言葉にすればすんなりと春の風にほどけた。
「フィンが好きなの。それなのに昨日、あんな手紙をだしてしまってごめんなさ」
声がとぎれた。くちびるがふさがれたからだ。
見開いた目に、狂おしいような感情を宿した青い瞳があった。しかし、それはすぐにまぶたを下ろして隠れてしまって、代わりに力強く両腕で抱き込められる。
「んぅ……っ」
ここは外だ。しかも、ひと通りが多い。
とっさにシュゼットは、フィンの胸を押し返した。けれどフィンは力をゆるめてくれない。
深く口づけられたまま、熱い舌でくちびるをなめられた。ゾクリとした快感にうなじがあわ立ち、それからゆっくりとキスがほどかれていく。
「……シュゼット」
微熱にかすれた声が、シュゼットの肌をなでていくようだった。
「少しの時間でも待てそうにない。きみを抱きたい」
「フィン――」
「ごめん。あんな手紙をもらっても、引く気なんてさらさらなかった。でも、さすがに今日は会えないだろうと思っていたんだ。それなのに、まさかこんな」
すぐ間近で熱くささやかれて、シュゼットは心臓が壊れてしまうかと思った。
「きみはずるいな。大好きだよ」
ふたたび口づけられたときにはもう、シュゼットは、フィンにさらに深く恋をしていた。
フィンの部屋に来るのはこれで二度目だ。けれど一度目は大混乱のさなかにあったので、内装をよく覚えていない。
そして二度目の今日も、部屋を見まわす余裕など持てそうになかった。
「あ、……っ!」
室内に連れ込まれるなり、閉めた扉に背を押しつけられるようにしてくちびるを奪われた。
フィンの舌がねじ込まれて、シュゼットのそれにからみつく。じゅくじゅくとこすり立てられて、ふたりの唾液と吐息がまざりあう。
ぞくぞくとした愉悦が背すじを駆け下りていき、たまらず顔をそむけようとしたら、フィンの手にあごをつかみとられた。
「ん……ッ! フィ――、っんぅぅ……!」
舌を甘噛みされた。彼の歯先が、やわらかく埋まっていく感触がたまらない。
シュゼットの腰がびくんと震えて、その上をドレス越しに、フィンのてのひらが這っていく。
彼の、みだらな体熱が腰をなで下がり、小さなお尻をじっくりと揉み込んだ。分厚い布越しだというのに、フィンの手の動きがはっきりとわかる。
激しさのやまない口づけをされながら、布越しに体を味わわれるいやらしさに、シュゼットは羞恥で焼かれそうになった。
「っあ、ん、フィン、今日は、だめ……っ」
「ここまでついてきて?」
フィンは、喉の奥で笑う。
それもそうだ。これについては、フィンが正しい。
「でもわたし、さっき公園で汗をかいて、きたないから……っ」
「大丈夫。きみはきれいだ」
熱くかすれた声でささやかれて、うなじのあたりがゾクリとする。布越しに腰のあたりを愛でられながら、情熱的に口づけをくり返された。
「ん、ぅ……っ! ァ、も、やぁ……っ」
「やめてほしいの? キスを? それとも、体にふれるのを?」
熱い息をつきながら、口づけのあいまにフィンは問う。
そうしながら、彼の手はスカートをたくしあげて、その内側に手をもぐり込ませてきた。ドロワーズにフィンの指先がふれて、優しくなで上げられる。
「……ッ」
「ほら、教えてシュゼット。俺はきみの奴隷だ。なんでも言うことをきくよ」
フィンの瞳が情欲に濡れている。彼の手がドロワーズをつかんで、ずるりと引き下ろしていくのがわかる。
そのときの、フィンの指の背がふとももをなで下がっていく感触にすらひどく感じてしまう。両脚が震えて、シュゼットは立っているのさえつらくなった。
「そこ、を、さわっちゃ、だ――、ッぅん……!!」
頭を抱きよせられて、くちびるを深く貪られた。
訴えたはずの言葉はいやらしい水音にとって代わられ、口内を、フィンの思うさまになぶられていく。
強引なことをされているのに、息が乱れてもう立っていられないほどなのに、どうしてかシュゼットの全身は、快楽の熾火にあおられていた。
それはフィンが乱暴でないからだ。
強引だけれど、巧みな舌とくちびるがシュゼットの弱いところを確実にとらえて、シュゼットを熱くとろけさせていく。
「は――、ッあ、んん……っ」
「触ることをやめてほしい?」
熱い舌先で、シュゼットのくちびるをフィンはなめていく。その感触にぞくぞくする。
ドロワーズを足首まで落とされて、無防備になった花びらにフィンの指がふれた。ゆっくりとなぞり上げられるその感触がぬるりとすべって、すでに蜜を垂らしていることを自覚させられる。
シュゼットは羞恥にかぁっと頬を熱くさせた。けれど、恥ずかしさを上まわる快楽が、蜜を塗り広げるような指の動きから与えられていく。
「あ、ぁあん……っ! や、ぁ、フィン、だめ……っ!」
「もうこんなふうになっているのに?」
グチュ……といやらしい水音が立った。フィンが、蜜孔の入り口ところをじっくりとかきまわしたのだ。
熱い快楽に侵されて、シュゼットの脚がついに崩れてしまった。それを、力強い片腕で抱きとめて、フィンは隘路を浅くえぐった。
「ひぁ……っ!」
「キスだけでこんなにも濡らしてしまって、シュゼットは感じやすいね」
「ち、が……ッ、だって、フィンが」
「俺?」
上気した頬に舌を這わせながら、フィンがほほ笑む。
「そう、俺も、きみにキスをしただけで昂ぶってしまった。早くここにいれたくてたまらない」
「ぁああッ!」
ぐしゅっと指を根元まで埋められた。ふくらみつつある肉粒を親指ですり上げられて、シュゼットは激しい快楽につらぬかれる。
「この指もいらない?」
先日散らされたばかりの狭隘な蜜孔に、グチュグチュと、男の指が抜き差しをくり返す。震えるような愉悦に、シュゼットは、フィンのスーツをにぎりしめた。
「っあ、あ、……ッ!」
「ほら、きつくしめつけて、吸いついてくる。もっと欲しいだろう、シュゼット?」
劣情に満ちた声で問われて、シュゼットはとっさに首を振った。
「い、らな……っ、いらない、からぁ……っ!」
「そういう強情なところがたまらないな」
フィンは、耳朶を甘噛みしながら低く笑う。
みだらな水音を立てながら、節くれ立った指が蜜肉に埋められていく。その快感に、耐えられない。
シュゼットは、乱れきった呼吸に胸をせつなくさせながら、フィンにすがりついた。
「っあ、ァ、フィン……ッ。だめ、気持ちよすぎるの、だめ……っ!」
「シュゼットはおねだりがとてもじょうずだね」
フィンはシュゼットの頬にちゅっと口づける。
「どうしてほしい? 言ってごらん」
「もう、何度も、言ってるのに……っ!」
「ああ、そうだったね。あんまりかわいいからついかまいたくなってしまった」
言って、フィンは、下肢から指をゆっくりと引き抜いた。愉悦にとろけきった襞をさすられるその刺激に、崩れ落ちる腰を抱きとめる。
耳もとでささやいた。
「うしろを向いて」