舌が離れていって、彼の目が見えた。漆黒のそれは獣性の光を帯びて、フランセットだけを映している。
中に指を埋められたまま、尖りを親指の腹で撫で上げられた。びくりとフランセットの体が跳ねる。
「あ、ア……!」
のけぞった視界の端に、メルヴィンの赤い舌が自身の唇を舐めたのが映る。
「まだあげられないよ、フランセット。湯に入らないと、体が冷えてしまうでしょう?」
彼の指が、取りすがる襞を振り切って抜き取られた。その無慈悲な瞬間にさえ愉悦を感じてしまう。だから、体内の空隙がフランセットを切なく喘がせた。
「や、いや、メルヴィンさま」
涙を零しながら首を振る。髪に彼の唇が押し当てられ、体が浮いた。メルヴィンに横抱きにされたまま、浴槽の中に降ろされる。
火照りきった体に、お湯はなお熱い。揺れるそれに肌を撫でられるだけで、感じてしまう。
大きなてのひらがフランセットの頬を撫で、熱のこもった視線が肌を辿っていった。
「濡れているあなたは、ずるいな」
メルヴィンは唇の端で笑んだ。フランセットを背中から包むようにして、湯船に身を沈める。
なみなみとしたお湯が琺瑯の先から流れ出ていく。フランセット一人だと広く感じた浴槽だが、今は狭い。
「っあ、も、だめ……っ」
後ろから回っていた両手が、フランセットの胸をつかんだ。いやらしく揉み込まれ、てのひらで先端を擦られる。浴室に入ってから一度も触れられていなかったのに、色づくそこはすでに芯が通っていた。
彼の唇が、フランセットの髪に押し当てられる。淫らに濡れた声で、囁かれた。
「こんなに固くして。胸も触ってほしかった?」
「そ、んなこと……っ、ぁあ、っ」
指先で何度も擦り上げられた。ビリっとした刺激が、少しずつまろやかな甘みに変わっていく。
お湯に半分だけ沈んだ二つのふくらみから、丸い水滴が滑り落ちて、メルヴィンの指の間に染みていった。
「ひぁ……っ、あ、ぁあん……ッ」
男のてのひらによって自在に形を変える双丘が、ひどくいやらしい。吐息混じりの声は、抑えようとしても唇から零れていく。
淫らな自分から逃げたくて、琺瑯の床を蹴る。けれど、しっかりと抱え込まれているせいで動けなかった。
水面が、大きく揺らめく。
「無理に動こうとしないで。危ないよ。僕に身を任せていて」
ひどく優しい声だった。
フランセットの意識が、朦朧としていく。
二つの先端をつままれた。乳房ごと引き上げられ、つるりと彼の指から逃げ落ちる。その刺激に、フランセットは喉を震わせた。
愛撫をもらえない下肢が、切なく疼く。
「や、ァ、ああ……っ」
宥めるように優しく揉まれる。
耳朶に、メルヴィンの唇が触れた。笑みの形をしているように、思えた。
「あなたの胸は、本当にやわらかい。こうしていると、僕の指が沈み込んでしまいそうだ」
淫らに揉み込まれながら、指の腹で先端を撫でさすられる。気持ちよさに全身が痺れた。
「あ、ん、ん……っ」
それでも本当に欲しい場所には、くれない。
胸への愛撫だけで小さく達しても、下肢に熱くわだかまる焦燥感が煽られるばかりだ。
「ぁ、や、もう……、ひあっ!」
首すじに熱い舌が這う。赤く色づいた二つの先端をコリコリと揉まれて、また達してしまいそうになる。
中に欲しいのに。
苦しいほどの快楽が、溜まっていくだけなのに。
(わざと、くれない)
焦らされている。
「や、ッあ……っ! メルヴィンさま……!」
頬を固い胸板に押しつけて、彼にねだる。無意識に自分の腰が揺れて、そうしたらお尻のあたりに固くて熱いものが擦れた。
興奮している。
彼も。
そう思うと、体の奥がさらに切なく疼いた。
メルヴィンが、小さく笑いを零すのが聞こえる。耳朶に甘く歯を立てられる。肩がびくんと震えた。耳朶を熱い舌でくるむように、ぬるぬると愛撫される。
「ア、ああ……っ、だめ、だめ……っ」
「妃の役目は、夫を癒やすことだよ」
片方の胸から離れたてのひらが、太ももの上をじっくりと這う。
「ひ、う……っ」
「ねえ、フランセット。あなたはこうして僕にかわいがられること以外、なにもしなくていいんだ」
熱に濡れたような、低い囁きが耳に直接そそぎ込まれる。
「なにもしないで。ただ僕の腕の中だけにいて。あなたの望むものすべてをあげる」
ドレスも、宝石も、綺麗な宮も、美しい庭園も、気の置けない友人も。
そんな囁きが、フランセットの中に落ちる。
(なにもしない、だなんて)
そんなこと、できない。お人形のような妃には、なりたくない。
フランセットが首を横に振ろうとした時だった。太ももを愛でていたてのひらが、這い上がった。
彼の両手で腰を浮かせられて、ゆっくりと落とされる。固く膨れ上がったものが、襞を舐め上げるようにして押し込まれていく。
「あ、あああっ!」
待ち焦がれていた熱塊に、フランセットはぞくぞくと身を震わせた。指の先まで凶悪な快楽に犯される。
根元まで沈んだ直後に、強く突き上げられた。
「ッあ、や、待っ……っ、ひぁあっ」
「っ、欲しいと言ったり、待てと言ったり、フランセットはわがままだね」
断続的に揺すり上げられ、水分を含んだ長い髪が水面を乱す。
メルヴィンになにかを言われた。それに返事をしなくてはならないのに、ただ気持ちいいという感情だけで体内が塗りつぶされていく。
「ア、ひぅ、ああ……!」
「っ、ほら、フランセット。気持ちいいでしょう? ずっとこうしてあなたを抱いていてあげる」
「メルヴィン、さま、は」
喉が震える。酸素を求めてフランセットは喘いだ。
「わたしを、心配、しておられるのですね。っ、だから、人前に……出なくていい、と」
平気なのに。
メルヴィンの支えになれるなら、それだけで嬉しいし、がんばれるのに。
背後で彼が、笑った気がした。