「どうしたのフランセット? 今夜はずいぶんと大人しいね」
初夏の夜に、メルヴィンの囁きが溶ける。
涼を得るために細く開かれた窓から、ゆるい風が吹き込んでいた。ブロケードのカーテンは半分まで引かれ、間から淡い月光が差している。
青みを帯びた光が届くか届かないか。
その位置に、四柱式の寝台が置かれている。
「ねえ、フランセット?」
艶を帯びた彼の声が、わずかに笑みを含んだ。フランセットは、やわらかなシーツに両の乳房を押し付けるようにされて、剥きだしの背すじを彼に食まれている。
熱い舌でつうと舐められ、くちびるで吸い付かれ、それから軽く歯を立てられた。彼のくちびるは、腰のくびれあたりの位置から、少しずつ上に移動してくる。メルヴィンは、フランセットのさらさらした金髪を片手で寄せて、あらわれた白いうなじに口づけを落とした。
「あ……っん」
甘く吸い上げられて、フランセットの体内をもどかしい疼きが駆け降りる。身をよじると、メルヴィンの熱い肌に自身の背を擦りつける形になった。鍛え上げられた胸筋は、普段の優しげな様子からは想像できないほど野性的だ。
素肌とシーツの間に彼の両手が滑り込んで、赤く色づく二つの果実に触れた。円を描くように撫でられて、フランセットの吐息に熱がこもる。
「や……っ、だめ、そこ」
「背中に触れていただけなのに、もうこんなに尖らせて」
笑みの形をとったくちびるが、フランセットの耳に触れる。
「きみはいやらしいね、フランセット」
つままれて、感触を楽しむようにコリコリと揉まれる。さきほどとは比べ物にならないほどの熱い快感が、下腹部まで走った。同時にねっとりと耳殻をしゃぶられて、体の奥に愉悦が重く溜まっていく。
「っあ、ん、あぁ……っ」
「ほら、言ってごらん。僕に触れてほしいところを」
羞恥を煽る言葉に、フランセットは首を横に振ろうとした。けれど、それをぐっとこらえる。
「フランセット?」
てのひら全体を使って、ゆっくりと乳房を揉みこまれている。そのもどかしいほどの心地よさは、的確に見計らった先端への淫戯によって、熱く刺されるような愉悦になる。
「ぅ、ん……、ァ、ああ……!」
「いつもならここで、僕への悪口が飛び出すところだけど。本当に今夜はどうしたの?」
メルヴィンの問いは、疑問に思っているというよりは、この状況を愉しんでいるような色を孕んでいた。
動けないように背後から覆いかぶせられ、敏感な耳と乳首をじっくりと愛撫されている。フランセットは、淫らに喘ぎながら答えた。
「悪口、なんて、そんなこと。言ったこと、ありませ……、っあぁ!」
熱く滾る彼自身に、下肢のあわいを擦り上げられて、フランセットはびくんと背をしならせた。
ずちゅりと、聞くに堪えない水音が聞こえたのは、気のせいではないだろう。
「ああ、ほら。こんなに涎を垂らして」
まだ一度も、触れられていないのに。
硬く膨れ上がったメルヴィンの性が、じっくりと舐め上げるように、フランセットの花びらを繰り返し擦り上げていく。
息をすることも忘れてしまうような快感に、攫われた。彼の先端が蜜口に引っかかり、ぐっと力を込めて通りすぎる。一瞬のもどかしさに震えた直後、上部にある粒をぐちゅりとつぶすように押し上げられて、フランセットは目を見開いた。
「っひぁ、あ、ああん……!」
「ここも膨れて、硬くなっているよ。乳首とどっちが硬いかな」
確かめるように、両の乳首を指先でくりくりと揉まれる。同時に下肢の粒を小刻みに擦り上げられて、フランセットは喉を震わせた。
「は――、っ、あ、や、ぁああっ!」
淫らな熱に、体内が溶かされる。びくびくと意志に反して体が震えて、それからフランセットはあっけなく達してしまう。
蜜がどっと溢れて、膣口が切なくひくついた。そこにメルヴィンが触れて、甘い声で囁く。
「欲しい?」
「……ッ」
フランセットは、とっさに拒絶の言葉をぶつけようとして、しかし再びその声を飲み込んだ。
くちゅ……と蜜口に浅く押し込まれる快感を、唇を噛んで耐える。それ以上動かないメルヴィンを、フランセットは肩ごしに振りかえった。
漆黒の髪が汗に濡れている。彼は、甘く整った顔立ちに笑みを刷いているが、欲情し興奮した獣の匂いを隠しきれていない。いや、きっと隠そうともしていないのだろう。
この人は、甘く優しい獣だ。
狂暴ではない。強欲でもない。
それでも、欲しいものは手に入れる。
だからこそ、厄介だ。
(本当に……もう。こっちの気も知らないで)
視線を合わせていると、くちびるを重ねられた。
すぐに入り込んでくる舌に、翻弄される。ぐちゅぐちゅと下肢の尖りを嬲られて、両の乳首を揉みこまれる。
フランセットはすぐに、快楽の熱に溶かされてしまう。
「んん……ッ、ふ、ぅ……っ!」
好きになりすぎてしまう。
彼から甘い言葉を送られて、優しく抱きすくめられて、狂おしく体を求められても、まだもっと欲しいと願ってしまう。
それでもフランセットは、愛を乞うことが苦手だし、男性に媚びを売ることはもっと苦手だ。だから今までどおり、「しっかり者のフランセット」のままでいたのだけれど。
(アレットが――性悪の従姉妹が、そしてメルヴィン殿下、あなた自身が、あんなことを言うから!)
潤った蜜口を、彼の情欲が弄ぶ。
絡みつくような口づけ。ちゅくちゅくと互いの唾液がまじりあい、舌がきつく絡み合い、熱い吐息が溶けあった。
いやらしい快楽に熱くとろけていく。淫らな自分を見せるのは恥ずかしくてたまらないのに、潤んでいく瞳と喘ぎ声を止められない。
気づけば、うつぶせになっていた体は、仰向けに組み敷かれている。片手であごをつかまれながら激しく口づけられ、片方の胸をてのひらで揉まれ、蜜のあふれる箇所をくちゅくちゅと嬲られた。乳首をきゅっとつままれ、引っ張られた瞬間、フランセットはまた達してしまう。
悲鳴は、激しい口づけにすべて食べられた。
膣口がひくつき、浅いところをかき回す雄に、絡みつこうとする。
「あなたが僕を、欲しがる前に――」
口づけの合間、余裕がなさそうな笑みを刷いて、メルヴィンは囁く。
「僕があなたを欲しくて、気が狂いそうだ」
漆黒の双眸が淫欲に濡れていた。彼は、乳房を揉みしだきながら、今にも暴走しそうな欲望をフランセットの花びらにこすりつける。
「あ、待っ――、お、願い、ゆっくり……っ」
「っ、ひどいな」
狭隘な蜜道に、熱杭が埋め込まれていく。半ば強引に押し入ってきた熱杭が、濡れて蠢く襞をきつくこすりあげていく。目がくらむほどの快楽に、フランセットは全身を震わせた。
「ア、あ――」
「ひと息に、食べてしまいたいのに」
彼のくちびるが、耳朶に触れる。メルヴィンが、喉の奥で笑った。
「ねえ、お腹が空いてるんだ。丸呑みにはしないから、全部僕に食べさせて」
奥の奥まで穿たれて、フランセットは声にならない声を上げる。
熱くざらついた舌で耳朶を嬲られて、ぞくぞくとした官能が背すじを駆け降りた。
「あ、っん、あぁ……ッ」
「フランセット――」
甘く掠れた、けれど余裕のない声が、フランセットを呼ぶ。
「あなたが好きだよ、フランセット」
獣のような欲望を、瞳の奥に凝(こご)らせて。
ウィールライト王国王太子メルヴィンは、この夜、いつもと少しだけ様子の違う、けれど愛しいことにかわりない妻を、何度も貪った。