36 花嫁には勝てません

 とっさに閉じようとするそこへ、手首をねじ込んでいく。指先でなぞり上げた薄い布は、すでに濡れ始めていた。

「かわいいのはどっちかな」

「殿下、です……、っん」

 ショーツの上から指の腹で丸くなぞった。くたりと力が抜けていく肢体が、いっそう甘く匂い立つ。
 強弱をつけながら何度も愛でると、やがてショーツがひたひたになり、彼女のそこにぺとりと貼り付いた。

「っや、ぁ」

 フランセットのこめかみが、メルヴィンの肩に押しつけられた。メルヴィンは頭のてっぺんにキスをして、ショーツの上から粒をつまんだ。すでに熟れているそれを、コリコリと刺激する。フランセットの体はここが好きなようで、綺麗な瞳が蕩けていくのだ。

「ぅん、ん……ッ」

 声を恥じるように、フランセットは手の甲で口もとを抑える。それでもゆるむ唇の端から唾液が零れて、白い肌を伝うのを、メルヴィンは見つめた。

「ねえ、フランセット……」

 舌を伸ばして甘い唾液を舐め取る。下肢の尖りを弄りながら、絹のショーツ越しに、濡れた内部へ指を突き立てていった。

「僕は、あなたの所有物になっても構わないんだよ」

「え……? っあ、いや、殿下、もう、お願い直接、触っ……」

 いやらしいおねだりも、きよらかな唇から紡がれればただかわいい。

 ショーツのクロッチ部分から、指を滑り込ませる。蜜でぬるぬるして、熱い。指先で割開いた粘膜を、別の指で繰り返し撫でた。やわらかくて弾力のある肌触りが心地よく、淫らな水音にメルヴィンの熱が煽られていく。

 そうでなくても、充分体は彼女を求めているのに。
 涼やかな声を聞くだけで。かわいい姿を見かけるだけで。

「あ、あ、ん……殿下ぁ……」

 メルヴィンのシャツをきゅっとにぎる小さな手が愛おしい。

 撫で上げた先の、ぷっくりと膨らんだ粒をくすぐった。ぴくんと跳ねる肩を抱いて、ひたいに口付ける。

 下肢の尖りの、薄い包皮をゆっくりと剥きあげる。ぬめって滑るそれを摘まんで小刻みに揺すると、フランセットから甘く蕩けきった声が零れた。

「ぁあっ、あ、ん、待っ、そこ、だめ……っ」

「好きなくせに」

 強めに扱けば、フランセットの体が大きく震えた。後ろ頭を支えて唇を奪う。華やかに弧を描く髪が揺れた。

 赤い口腔内に舌を差し入れると同時に、舌の隘路にも指をねじ込んでいく。

「ん、んぅ……ッ!」

 彼女の吐息が熱かった。下肢を複数の指で抉りながら、メルヴィンはフランセットをシーツの上に押し倒す。
 寝台にやわらかく沈む愛しい体。純白のリネンに広がるプラチナブロンド。

「フランセット……」

 唇を貪りながら、その合間に彼女を呼ぶ。その響きを舌に乗せるだけで、頭の芯が溶けていくようだ。

 彼女の中にある、一番感じるところを指で抉る。膨らみきった花芯をじっくりと撫でていると、フランセットは泣きそうな声でメルヴィンを呼ぶのだ。

「メルヴィン様、メル……、っあ」

 メルヴィンの背すじがぞくぞくする。甘いと息が唇に触れて、フランセットの潤んだ瞳がたまらない。

「ごめん、もう、我慢がきかない」

 メルヴィンは眉をきつく寄せて、彼女の両脚を割り開いた。
 まだ彼女のなめらかな肌を愛でていたいのに、メルヴィンの欲望は滾りきっている。

「フランセット」

 だからせめて、ゆっくりと。
 フランセットの薄い腹部が震える。そこにてのひらを当てて、宥めるように撫で上げた。その動きに沿うように、自身を埋めていく。

「ひあ……ッ、あ、ぁ……っ!」

「っ、フランセット、そんなに締めたら駄目だ」

 腹部に置いた手を、今度は撫で下げていく。淡いしげみの奥、震えて光る尖りに親指を掛けた。

「っひ、や、だめ、一緒にしたら、だめ、です……!」

「あんまりきついと、あなたを傷つけそうで、怖いよ」

 自分の吐息に、切なさが混じるのを止められない。
 フランセットはこちらの感情に、ひどく敏感だ。メルヴィンが微笑で隠しても、彼女はすぐに見つけてしまう。

「大丈夫、ですよ。わたしは」

 愉悦に喘ぐ息の下で、だからフランセットは、メルヴィンの頬に優しく手を触れる。

「一番奥まで、ください。メルヴィン様を」

 そうやって、甘やかされる。
 片頬を包むやわらかなてのひら、メルヴィンはそれに頬をすり寄せた。このまま目を閉じて、彼女の中で眠りたい。
 けれどメルヴィンはそうせずに、微笑んだ。

「まったく、僕の奥さんは、とんでもない策士だな」

「っん、なんで、そうなるんですか」

 彼女のくびれた腰をつかんで、引き寄せる。ぐっと自身の腰が進んで、彼女の中を開いていった。
 吸い付くように絡む濡れた襞は、甘い毒のように気持ちいい。

「だって僕は、いつもあなたに言葉や仕草に翻弄されて、結局夢中になってしまうんだ」

「翻弄、って、それは殿下の方が、――ッ」

 ヌチュヌチュと律動して彼女を味わいながら、二つの胸をつかむ。そのまま覆い被さるようにして、片方の頂きを口に含んだ。

 凝り始めている右の色づきに、舌を絡みつかせる。グミのように歯触りのいい弾力を、甘く噛んだ。

「ひう、ぁ、あぁっ」

「夫婦は鏡と言うけれど、僕とあなたは全然似ていないような気がするよ」

 固い滾りを押し込みながら、胸の先端をじゅっと吸い上げた。体の下で、フランセットが華奢な肢体を震わせる。
 メルヴィンは、脳内を甘く溶かす声を聞きながら、左胸の頂きにも指先を這わせた。
 てのひらの部分でやわらかな乳房を押し上げる。

「ん、ぁ、やぁ……っ」

「僕の心臓をあなたにあげたい」

 奥の膜を強く穿って、ぐりぐりと押しつける。彼女の中がきつく絞まり、メルヴィンをいやらしく締め付けた。
 肌が粟立って、息が詰まる。ぞくぞくとした快楽に、体内が犯されていく。

 立ち上がった乳首を何度も甘噛みした。反対をつまみ上げて、指先ですりあわせる。
 また、彼女が啼く。中が絞まって、奥へと誘うように、甘く吸い付かれて。

 胸の先から白い喉まで、ざらりと舐め上げていった。晒された薄い皮膚に歯を立てると、びくんとフランセットが震える。

「僕から離れるときは、僕の鼓動を止めてから行って」

 淫らな酩酊に、脳の機能が奪われる。五感すべて、フランセットのことしか感じられない。
 奥を叩くように、穿った。

「ア、も、あぁあ……ッ!」

「ねえ、フランセット……」

 うなじを吸い上げて、花を散らせる。白い肌が点々と、赤で穢されていく。

(ああ、ダメだ)

 細い鎖骨を指で辿る。
 これ以上彼女に入れ込んだら。
 それは、執着だ。
 息もつけないほどの。

 メルヴィンはギリギリの微笑を、唇に浮かべる。

「一緒に達(い)こうか」

「ふ、ぅ、……んんッ……!!」

 激しく口付ける。舌をねじ込んで、震える彼女のそれを絡め取り、吸い上げる。細い腰をつかむと、汗で滑りそうになったから、もう一度つかみ直して。

「愛してるよ、フランセット」

 原初の欲望を、やわらかな肉の中に、叩きつけた。
 
 

 鳥の声が、フランセットの耳をくすぐった。小さな窓から見える空は青い。
 さんざん愛された翌朝は、体が重くて起き上がるのも一苦労だ。

 メルヴィンはフランセットの髪を撫でてから部屋を出て行く。その姿を、ベッドにしどけなく横たわったまま、フランセットはぼうっと見送った。

(殿下はどうしてあんなにシャキっとできるのかしら)

 白いシャツにグレイのウエストコート。スーツの上着を羽織って立つ姿は、昨夜の乱れをみじんも感じさせない。

(殿下って爛れてる……爛れてるわ……)

 ここに閉じ込められて十日近く経つのだから、そろそろフランセットに治癒魔法を掛けてくれてもいいのではないだろうか。
 こちらにはもう、逃げる意思なんてないのだから。

(あんな風に切なげに毎晩抱かれていたら、逆らう気もなくなるわ)

 フランセットは息をつきながら、自分の手首に残るキスの痕を見る。
 きっと首すじなどのやわらかい皮膚には、もっとたくさん残っている。

 それを鏡で見るたびに、メルヴィンの余裕のなさが思い出されて、いたたまれなくなるのだ。

「このままじゃ、きっとダメだわ」

 ここに閉じ込められていると、頭がぼうっとして無気力になってくる。その上メルヴィンにも余裕がないときたら、二人でどんどん暗い方向に沈んでいってしまうだろう。

「ちゃんと引き上げないと」

 前を向かないといけない。
 フランセットはゆっくりと上体を起こして、寝台から降りた。一度伸びをして、息を吐いて、小さな窓の外を見る。

「いい天気」

 きっと吉兆だ。

 その日は、珍しく昼過ぎにメルヴィンがやってきた。まだ外は明るい。
 このチャンスを逃す手はなかった。フランセットは長椅子から立ち上がり、メルヴィンに駆け寄る。

「メルヴィン様、今日はどうしてこんなに早いんですか?」

「うん、収束の目処がたってきてね。もうすぐフランセットを自由にしてあげることができそうだよ」

「それなら今すぐ出して頂けませんか?」

「ええ?」

 メルヴィンは目を丸くした。フランセットは綺麗な顔を覗き込む。

「今日はいい天気ですね、メルヴィン様」

「うん、そうだね」

「わたし、久しぶりにメルヴィン様とお庭デートがしたいです」

「お庭デート」

 メルヴィンは身を心持ち後ろに引きながら、困ったように首を傾げた。

「でもそれはまだ難しいよ。大本を捕まえたわけじゃないから……」

「こんなに素敵な春のお庭に出られないのは悲しいわ。きっとローズガーデンはとても綺麗な光景でしょうね」

「それはそうだけど」

「メルヴィン様、わたしは」

 フランセットは慣れない上目遣いでメルヴィンを見つめた。自分のこういう仕草にどこまで効果があるのか分からなかったが、メルヴィンの耳がほんのり赤くなったので、一定の戦果は得られたようだ。

 フランセットは慎重に、一押しした。

「メルヴィン様の贈ってくださったお花の中で、薔薇が一番好きでした。もう一度あの綺麗な薔薇を、今度はメルヴィン様と二人きりで、見たいです」

「……。いや、でも」

「すぐにここへ戻ります。一度だけ、外の空気を吸わせてください。ここは息苦しくて、気分が塞いでしまうわ」

 メルヴィンは言葉を詰まらせたようだった。じっとフランセットを見下ろして、それからふと笑った。

「そうだね、僕もそろそろいろんな意味で限界かな。ずっと出すことはできないけれど、一度外へ行こうか。一緒に散歩しよう」

 フランセットは心の中で、飛び上がって喜んだ。メルヴィンは苦笑する。

「最近は負けてばかりだなぁ」