38 王太子様は、最愛の花嫁に誓いのキスを贈る。

終章

 叔父が捕らえられたのは、それから五日後のことだった。

 王太子メルヴィンの名で王弟が捕縛されたという事実は、宮中の一大スキャンダルとなり世間を駆け巡った。王弟が王太子妃に偽の情報を流し、これを害そうとしたという容疑である。「これは王室の権威を揺るがす醜聞だ」と方々から非難された。

 しかし当の王太子夫妻は冷静だった。
 民からの突き上げを真摯に受け止め、貴族らの中傷を微笑みで受け流し、確かな証拠を揃え、事実だけを淡々と語り続けた。

 そうすることによって、非は全面的に王弟側にあるということがゆっくりと浸透していった。宮中を席巻したヒステリックな罵声は波が引くようにやんでいき、一ヶ月後にはもとの穏やかさを取り戻していた。まもなく司法の裁きが始まるが、世論は冷静な目で事件のなりゆきを見つめているようだ。

「今日国王陛下に拝謁したんだけど、その時に『できれば早めに譲位したい』って言われてしまったよ」

 あかるい満月の夜。
 ベッドの中でフランセットを抱き寄せながら、メルヴィンは言った。フランセットはたくましい腕の中で口を開く。

「そうですか。弟君の失態にかなりこたえていらっしゃったようでしたものね」

「みたいだね。でも困ったよ。まだ二十年は先だと思ってたから」

「殿下の戴冠に、反対する者は誰もないと思いますよ」

「それもどうかと思うけれど」

 メルヴィンは困ったように笑う。

「でもさすがに、あと十年は欲しいな。外交も含めて、地盤固めをもっとしっかりやらないと」

「相変わらず用意周到ですね」

 フランセットがクスクス笑うと、メルヴィンはくるりと彼女を組み敷いた。

 青い月光に照らされる、綺麗な顔立ち。少しだけ切なさを含んだような瞳に、フランセットはどきりとする。
 メルヴィンのこういう目に、フランセットは本当に弱い。

「本当は、分かってるんだ。あなたを攫うように連れてきてしまったこと」

 サラサラした黒髪の下で、漆黒の瞳が月の光に溶けていた。

「十四年前の約束を――他愛ない子供の約束を盾に、結婚をさせてしまった」

 フランセットは胸を突かれた。それから唇に浮かんだのは、小さな笑みだった。

(本当に、メルヴィン様は)

 思わず頬がゆるむ。

「今さら、ですか?」

「うん、ごめんね。今さらだね」

「殿下のそういうところ、かわいいですよ」
「まいったな」

 メルヴィンのキスが、ひたいに落ちる。フランセットはそれを受け止めながら、ぽつぽつと語り始めた。

「十四年前、初めて殿下を拝見した時に思ったんです。なんて綺麗でかわいらしい王子様なんだろうって。でも、言葉を交わしてみたらものすごく生意気で、だから結婚の約束も、子供の言うことだからって適当にお返事をしてしまって」

 けれどそれから、花が届き続けた。とても綺麗な花が、毎日、フランセットの手の中に。

「少しずつ殿下が、わたしの心に入ってきたんです。花びらの分だけ、降り積もるみたいに。十四年後に再会したときは、本当にバッタバタだったけれど……一目見て、びっくりしました。なんて素敵な王子様なんだろうって思ったから」

 メルヴィンの唇が頬を滑る。彼の手が、丁寧に夜着を脱がしていった。花びらを一枚一枚、広げていくように。

「こんなに素敵な方、わたしは絶対に釣り合わないって思ったんです」

「そんなこと、あるわけがないよ」

 なめらかな裸身を愛しむように、メルヴィンの手が滑る。

「僕が贈ったどの花よりも、あなたは綺麗だ」

 ふっくらした乳房を片手に収められて、ゆるく握られる。形を変えて突き出た色づきを、指の腹でくすぐられた。

「ん、……っ」

「ねえ、ほらここも。ピンク色の薔薇の花びらでできているんでしょう?」

 メルヴィンは、薄い皮膚の輪郭を指先で辿りながら、凝り始めた先端を口に含む。熱く濡れた舌がねっとりと絡む感触に、フランセットは体を震わせた。

「ぁ、あん……ッ、殿下……っ」

「僕も薔薇が好きだよ。誇り高く愛らしい、まるでフランセットみたいだ」

 メルヴィンは、自身の唾液に濡れた頂きを、指先で弄ぶ。うっすらとぼやける視界に、男の愛撫を受けて立ち上がるそれが映った。

 もう片方を、口の中に含まれる。ぬるりと熱く舌に捕らえられ、いやらしく嬲られた。

「だ、め……、っあ」

「夜露に濡れた花を見たい」

 すべらかな太ももを這い上がってきたてのひらが、両脚の奥へ触れる。そこはすでに潤みを帯びていた。
 ピンク色の粘膜を指先で暴かれる。空気に触れてヒクつくそこを、彼の指先が這っていった。

「ぁあ、ッん、ひぁ……!」

 長くて形のいいメルヴィンの指が、中に深々と差し込まれていく。ぞくぞくとした愉悦に、下肢がとろけてしまいそうだ。

「僕は美味しい? フランセット」

「そ、んなこと……っ」

「だって吸い付くみたいに絡んでくる。もっと奥に欲しいって、言っているみたいだ」

 膨らんだ肉粒を、指の腹で辿る動き。彼の指が抜き差しされるたび、淫らな水音がフランセットの鼓膜を撫でていく。
 緩慢で優しい愛撫に、体内が甘く崩れていく。

「あ、ん……、ん……っ、メルヴィン、様……」

「気持ちいい?」

「ん……きもち、いい……、っあ」

 敏感な尖りを守っていた包皮が、ゆっくりと優しく剥きあげられた。夜気に晒されて震えるそれを、メルヴィンの指は根元から丁寧に撫でることを繰り返していく。

「ひ、ぁ、あああ……っ」

「かわいい、フランセット……」

 陶然とした呟きとともに、唇に口付けが落ちた。甘く擦り合わされたのち、口腔内を深くじっくりと貪られていく。

 その間も、下肢の奥を指が抜き差しされ、淫らな尖りは慰められ続けていた。

「ぅん、ん、……ッ」

 絡みつくような水音が、どちらから生まれているのかわからない。

 甘く切ない愉悦に呑み込まれる。上気した胸をやわらかく揉み上げられて、立ち上がった頂きを摘ままれ、擦り合わされた。それでフランセットは、全身を震わせて達した。

「……っ、は、メルヴィン、様ぁ……っ」

 びくびくと意志に反して体が何度も震える。なにかに縋りたくて、フランセットはメルヴィンの引き締まった胸板に手をついた。そこがしっとりと汗ばんでいることに気づいて、フランセットの胸が高鳴った。

 メルヴィンの指は、まだフランセットの下肢で蠢いている。目尻から零れそうになった涙を、愛おしげに彼は舐め取った。

「あなたを、もっと気持ちよくしてあげたいな」

 指が抜き取られた。唐突に空いた隙間に、フランセットのほっそりとした足が震える。声を出すまもなく、フランセットはメルヴィンによってくるりとうつぶせにされた。

「や、なに……っ」

「いつも思ってたんだ。フランセットのお尻は小さくてかわいいなって」

 両膝をシーツにつかされて、お尻を上げさせられる。フランセットは片頬を枕に埋める格好だ。

「で、殿下っ!」

 上げた抗議は、ぬかるみをするりとひと撫でする動きに阻まれる。メルヴィンはゆっくりと指を二本埋め込みながら、白くて丸いお尻に口付けた。

「っ、やぁ……! 殿下、恥ずかしい、です……!」

「可愛いピンク色が、奥の方まで見えるよ。ほら……僕の指を、美味しそうに食べてる」

「だめ……っ、音、立てちゃ」

 ぬちゅ、くちゅ、と抜き差しされている。フランセットの感じるところを擦り上げては押し回して、ギリギリまで引き抜いて。

 腰が砕けそうなほどの羞恥と快楽に、フランセットの膝が震えた。枕の端をぎゅっとつかんで、足に力をこめる。

 でもそうすると、今すぐにでも達してしまいそうだ。

「メルヴィン、様ぁ、もう……っ、あ」

 息を呑んだ。メルヴィンが唇を滑らせて、ぬかるみに舌を這わせたからだ。

「や……っ、いや、やめ……っひぁあ!」

 蜜を飲むように、きつく吸い上げられた。彼の両手がお尻に掛かり、フランセットの奥を押し開いている。
 あまりの羞恥に、肌が焼かれるようだった。それでもフランセットの体は、持ち主を裏切るように快楽に震え、たっぷりと蜜を垂らし続ける。

「どんどん溢れてくる。フランセットの匂いだ。甘くてとろけそうになる……」

 入り口を這っていた舌が、ぬるりと奥へ押し込まれた。蜜を掻き出すように舌が動く。指で襞を撫で上げられ、ぐちゃぐちゃにしゃぶりつくようにされて、フランセットは枕を抱きしめてむせび泣いた。

「ぁ、あああっ! あっ、ん、あ、ひ、も、だめ、だめぇ……ッ!」

 崩れ落ちそうになる腰を、力強い片腕で抱えられた。反対の指がぐずぐずになった入り口を弄り、上部にある膨らみを探り当てる。

 フランセットはいっそ、恐怖すら感じた。

「っや」

「あなたのかわいい声が聞きたい」

「あ、っん、ぁあああッ!」

 すでに剥き出しにされていた快楽の塊を、抉るように押しつぶされた。同時に三本の指を深々と穿たれて、フランセットの体が大きく跳ねる。

「っあ、あ、いや、も、あああっ!」

 達したのに、終わらない。彼の指をぎゅうぎゅうに食い締めているのに、メルヴィンは三本のそれをさらに奥へ押し込んでいく。

「っひ、あ、ああ、待っ……!」

「ああ、そう、ここだ。このやわらかいところ。フランセットが好きなところ、僕もさわり心地が大好きだよ」

 一際弱いその場所を、繰り返し揉み込まれる。出し入れされる時の擦過に耐えきれない。膨らみきった尖りはずっと撫で回されていて、達している最中の体を責め苛んだ。

 フランセットはだらしなく開いた口もとから唾液を垂らし、白い枕を濡らしていく。定まらない視界で、必死で首を動かして、背後のメルヴィンを振り仰いだ。

「は、ァ、も、っめ、殿下ぁ……ッ!」

「かわいい顔」

 情欲に滾った漆黒の双眸に、フランセットはぞくりとする。

「もっと欲しい。あなたの声も、表情も全部」

 指が引き抜かれて、代わりにあてがわれたものに、フランセットの喉が震える。

「全部僕のものだ。ねえ、そうでしょう?」

 淫らに掠れた彼の声が、鼓膜を撫でる。
 突き出した白いお尻をてのひらでゆっくりと愛でながら、メルヴィンは腰を押し進めた。

 ぞくぞくと背すじを駆け上がる、甘すぎる熱。

「ア、あ、あああ……っ」

「っ、は。フランセット……」

 力の入らない腰をつかむメルヴィンの手。それが熱い。半ばまで差し込まれた昂ぶりに、一息に奥まで貫かれた。

 枕に押しつけた頬がずり上がる。フランセットはリネンの端をつかんだ。また突き当たりを穿たれて、脳内が快楽に溺れていく。

「っあ、ん、ひ、う……っ!!」

 メルヴィンの性に掻き出されたフランセットの蜜が、内股を濡らしていく。グチュグチュと、いやらしい水音が、清浄な月光に絡みついていく。

 腰をつかんでいたメルヴィンの手が、くびれた部分を撫で上げながら、シーツとフランセットの間に差し入れられた。寝台につぶれた胸のふくらみを掌中に収められ、揉みしだかれる。赤く凝った先端を意図を持って擦り上げられて、フランセットはぞくぞくとした快感に身を震わせた。

「や、だめ、そこ……、っんん……!!」

 ぐっと腰が押しつけられた。一番奥の感じるところを抉られて、そこから彼が引いてくれない。
 執拗に固い先端を押しつけられ、フランセットは愉悦に喘いだ。自分の腰が動く。気持ちいいところに当たると、めまいに襲われるほど。

 だから、みだりがましく彼の腰に押しつける動きが、止まらない。

「っあ、メルヴィン様ぁ……、ひ、ん、ああぁ……っ」

「いやらしい」

 乱れた息の下、彼が喉の奥で笑う気配がした。羞恥を感じる間もない。胸の先を摘ままれながら、快楽に震える子宮の底を抉られた。

「――ッ!!」

 びくんと体がおおげさに跳ねる。目の前が真っ白になり、思考が断ち切られた。
 自分の声すら遠い。けれど彼の体温だけは鮮明で。

「かわいすぎてたまらない」

 肩をつかまれて、くるりと体勢を変えられた。見上げた先に、メルヴィンの瞳がある。情欲しきった獣の目だ。
 ぞくぞくする。

「愛してる、フランセット」

 抜き掛かった滾りが、またじっくりと埋められていく。襞をざらりと舐め上げていく熱の感触に、フランセットは息を詰めた。メルヴィンのたくましい腕に、爪を立ててしまう。
 彼の顔が歪んだのは、けれど痛みのせいではないだろう。

「愛してるよ」

 その言葉を告げるとき、いつもメルヴィンの瞳は、切なさを孕むから。

 彼の熱い吐息が、唇に触れる。口付けが落ちた。擦り合わされて、食まれて、甘く噛まれる。彼の腰がぬちゅぬちゅと、律動を繰り返している。

「ん……っ、ぅん、ァ……」

「フラン……」

 一度離れて、フランセットの唇を指先で愛しげに辿る。緩慢に出し入れされる熱が、体内に溜まる熱を押し上げていった。

「ずっとあなたのものでいたい。離れたくないんだ。好きだよ、フランセット。僕のフランセット」

 メルヴィンの漆黒の瞳が、月の光に照らされている。それがとても綺麗で、悲しかった。

「メルヴィン様……」

 愛情と、愉悦と、切なさと。いろんなものが溶け合って光る彼の瞳が、愛しかった。

(この人は、決して、特別なんかじゃ)

 光の中をずっと、歩いてきたのかもしれない。
 けれど、明るい場所だからこそ、あらゆるものが見えるのだろう。
 見えてしまうのだろう。

「好き、です、メルヴィン様。大好き」

 ぐ、と押しつけられて、フランセットはやわらかい場所で彼の情動を受け止める。理性の及ばない熱量をやわらかく抱き込むように、メルヴィンの全身を包んであげたかった。

 両腕できつく抱き込まれる。その体の奥に押し込まれたメルヴィンの性が、フランセットを抉った。情欲に濡れてやわらかく潤みきったそこは、愉悦にむせびながら絶頂に達した。

「っア、あああっ!」

 大きく震える体をたくましい両腕で抱きしめられる。メルヴィンの熱い肌が隙間なく押しつけられて、体内に彼の情動が放たれる気配がした。

 熱い息を吐くメルヴィンの背中が、荒く上下している。ゆっくりと抜き差しを繰り返し、それからメルヴィンは、フランセットの中から己を抜き取った。愛しげにフランセットの背を撫でて、乱れる息の下、彼はフランセットに口付ける。

「ん……っ、メルヴィン、さま」

「フランセット、もっと。口を開けて」

 渇(かつ)えた獣のように、メルヴィンはフランセットを求めた。舌を差し入れて、あらゆる場所を舐め取り、彼女からあふれる唾液を呑み込んでいく。
 その激しさは、悲しさに似ている。

(夫婦を教えてと、殿下は言った)

 僕には分からないから、と。

 メルヴィンはきっと、手探りでつかんで抱き寄せて、深く口付けている間も、確かなものを感じられなかったのだろう。

「メルヴィン様から、ずっと、離れないから……これ以上、不安にならないで」

 失う予感に囚われているから、そばにいてと訴えるのだ。
 そばにいてくれるだけでいいと、願うのだ。

 メルヴィンがゆっくりと目を見開いた。汗の流れ落ちる彼の頬に、フランセットはてのひらを添える。

「ずっと、一緒にいるんです。ずっと手を繋いで、隣に。それが、夫婦でしょう?」

 メルヴィンが自身の唇を噛んだ。綺麗な瞳が切なく歪む。
 もしかしたら彼は、父親の裏切りを、許せなかったのかもしれない。
 けれど、メルヴィンが腹違いの弟をどれほど可愛がっているか。
 それが分かるから。

(きっと、わたしが教えなくても)

 家族を、夫婦を、メルヴィンはちゃんと、知っているのだろう。

「死ぬまで。死んでからも永遠に。だからなにも怖いことなんてないわ」

 ぽつんと、フランセットの頬に落ちたものがあった。それに触れようとした彼女の指を、メルヴィンはつかんで留めた。

「……これまで、どうやって」

 掠れた声で。自身の指で、フランセットの頬に落ちた涙を拭って、メルヴィンは言う。

「これまでの一四年間、あなたが隣にいないで、どうして生きていられたのか、分からない」

 彼のてのひらが、フランセットの頬を撫でる。

「フランセットなしでは、生きられない」

 喉の奥から絞り出すように言って、メルヴィンはフランセットの首筋に顔をうずめた。震える吐息が、フランセットの肌に触れる。
 フランセットは両腕を伸ばして、メルヴィンを抱きしめた。

「愛しています、メルヴィン様」

 想いを込めて伝える。メルヴィンの唇が頬を滑り、唇にやわらかく重なった。

「フランセット」

 愛しみに満ちた囁きが、唇に触れる。少しだけ離れて、メルヴィンはフランセットを見下ろした。フランセットの大好きな、穏やかで優しい微笑みだった。

「愛してるよ、フランセット。十四年前からずっとあなたを愛してた。だからもう一度言わせて。愛しいフランセット、僕の最愛の花嫁になってくれますか?」

「喜んで」

 再び唇が重なる。
 きっと今夜は、これまで生きてきた中で一番すてきな夜だ。

 fin.

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