06

 シンは紙幣を何枚か、おばさんに手渡した。
 その後あたしは奥の試着室に連れていかれた。されるがままに、いろんな服を着せられた。

 基本的にはシンと同じ長い上衣を、帯で結ぶといったスタイルだった。立ち襟(えり)で、右の肩と脇をボタンでとめる。シンのものよりラインが細い。帯(おび)も細かった。チャイナドレスみたいだ。裏地には、白い毛がもこもこしている。
 上衣の色を見るようにいわれて、鮮やかな青をえらんだ。シンはチャコールグレーだったが、女性用は華やかな色が基本らしく、赤や緑もあった。

「あんた、変わった服を着てるね。なんだいこれは?」

 おばさんがキャミソールとブラを見て怪訝な顔をした。たしかに、このぶ厚い上衣と下着があれば、キャミもブラも必要ないだろう。しかも、昨日からの汗で汚れている。あたしは少し考えて、おばさんに引き取ってもらうことにした。「上等な生地だね」と喜んでいた。

 グレーのズボンと、ブーツをはく。ムートンブーツに似ている。今まではいていたスニーカーより断然あたたかい。このスニーカーにもおばさんは怪訝な顔をした。キャミと同じく、ひきとってもらった。
 そして毛皮のショールを首に巻き、帽子をかぶった。円柱型の帽子は耳まで隠れてとても暖かい。手袋もムートンのような素材だった。

「これでどうだね、旦那」

 試着室から出て、シンの前に立つ。彼は椅子から立ちあがった。

「とても似合う」

 青い瞳にじっと見つめられて、いごこちが悪い。
 あたしは彼のショールと帽子を返した。ついでに、今まで着ていたカーディガンとスカートも。

「これは?」
「あたしが日本で着てた服。戻ったときのために、この2着だけはとっておきたい。そのカバンに一緒に入れてくれないかな」
「……。ああ、いいだろう」

 シンは複雑な表情をしたのち、右肩にかけていた革製のカバンに入れた。大きな巾着袋のようなカバンだ。
 おばさんに見送られつつ、外へ出た。着こんだだけあって、寒さが先ほどと段違いだ。
 いろいろ買ってもらったけど、もしかしてかなり高かったんじゃないだろうか。シンはパッと見お金持ってなさそうだけど、大丈夫なんだろうか。

「これから雪原を駆けて、30分以内に次の集落に入り、暖を取る」

 シンは道を歩きながら言う。雪はいつのまにかやんでいて、子供たちが外に出て遊び始めていた。どの子も雪だるまみたいに着こんでいる。

「雪原を駆けるって、走るの?」
「いや、あれで行く」

 昨夜泊まった宿の脇に、ひさしを設けたスペースがあった。数頭の馬がつながれている。

「あたし、馬なんて乗ったことない」
「相乗りする。初日はつらいかもしれないが、じきに慣れるだろう」

 初日……。
 あたしはこれから何日、この場所にいなければならないんだろう。