シンは紙幣を何枚か、おばさんに手渡した。
その後あたしは奥の試着室に連れていかれた。されるがままに、いろんな服を着せられた。
基本的にはシンと同じ長い上衣を、帯で結ぶといったスタイルだった。立ち襟(えり)で、右の肩と脇をボタンでとめる。シンのものよりラインが細い。帯(おび)も細かった。チャイナドレスみたいだ。裏地には、白い毛がもこもこしている。
上衣の色を見るようにいわれて、鮮やかな青をえらんだ。シンはチャコールグレーだったが、女性用は華やかな色が基本らしく、赤や緑もあった。
「あんた、変わった服を着てるね。なんだいこれは?」
おばさんがキャミソールとブラを見て怪訝な顔をした。たしかに、このぶ厚い上衣と下着があれば、キャミもブラも必要ないだろう。しかも、昨日からの汗で汚れている。あたしは少し考えて、おばさんに引き取ってもらうことにした。「上等な生地だね」と喜んでいた。
グレーのズボンと、ブーツをはく。ムートンブーツに似ている。今まではいていたスニーカーより断然あたたかい。このスニーカーにもおばさんは怪訝な顔をした。キャミと同じく、ひきとってもらった。
そして毛皮のショールを首に巻き、帽子をかぶった。円柱型の帽子は耳まで隠れてとても暖かい。手袋もムートンのような素材だった。
「これでどうだね、旦那」
試着室から出て、シンの前に立つ。彼は椅子から立ちあがった。
「とても似合う」
青い瞳にじっと見つめられて、いごこちが悪い。
あたしは彼のショールと帽子を返した。ついでに、今まで着ていたカーディガンとスカートも。
「これは?」
「あたしが日本で着てた服。戻ったときのために、この2着だけはとっておきたい。そのカバンに一緒に入れてくれないかな」
「……。ああ、いいだろう」
シンは複雑な表情をしたのち、右肩にかけていた革製のカバンに入れた。大きな巾着袋のようなカバンだ。
おばさんに見送られつつ、外へ出た。着こんだだけあって、寒さが先ほどと段違いだ。
いろいろ買ってもらったけど、もしかしてかなり高かったんじゃないだろうか。シンはパッと見お金持ってなさそうだけど、大丈夫なんだろうか。
「これから雪原を駆けて、30分以内に次の集落に入り、暖を取る」
シンは道を歩きながら言う。雪はいつのまにかやんでいて、子供たちが外に出て遊び始めていた。どの子も雪だるまみたいに着こんでいる。
「雪原を駆けるって、走るの?」
「いや、あれで行く」
昨夜泊まった宿の脇に、ひさしを設けたスペースがあった。数頭の馬がつながれている。
「あたし、馬なんて乗ったことない」
「相乗りする。初日はつらいかもしれないが、じきに慣れるだろう」
初日……。
あたしはこれから何日、この場所にいなければならないんだろう。