09

「あんまり他人に関わることをしない子なんだけどね。だからこそ、あんたみたいな娘さんを連れてきたから驚いたし、期待したんだよ。なにしろ、あんたを見るシンの目が優しいじゃないか。もともと優しい子だったけど、初めてみたよああいう目」
「……そうなんですか?」

 聞きかえしたけど、あたし自身も気づいていた。きっとあたしは、シンにとてつもなく大切にされている。
 理由は全然わからないけれど。

「まあ、本当にいい子だからさ。くっつくくっつかないは別にして、安心して旅を楽しんでおいでよ」

 どうやら外国からの旅行者だと思われているようだ。

「このジルハ国には何もないけど、美しい景色だけはどこにも負けないからさ。そうだ、星空を見たかい?」
「あ、いえ。昨日の夜はその――。すぐに、寝ちゃって」
「そうかい。とても美しいよ。旅の人はみーんな感動するんだ。今夜にでも見てみるといい。夜はどこに泊まるんだい?」
「いえ、あたしはなにも知らなくて」
「うちで泊まってもらうと旦那も喜ぶんだけどねぇ。急ぐ旅なら、もう少し移動するかもね。まだ昼前だし」

 そのあとしばらく、アルトゥさんの旦那さんのことや、子供たちのエピソードなどを聞いた。バイト先のセンパイと話しているみたいで、楽しい。昨日からずっと、緊張していた心がほぐれていく。女子トークってやっぱり大事だ。
 しばらくすると、シンと子供たちが戻ってきた。子供たちは頬を真っ赤にして、目をキラキラさせている。

「ママ、シンってすごいんだ! こーんな大きなワラをひょいって持ち上げられちゃうんだよ」
「水も運んでくれたよ。いーっぱいあるよ」
「ママー、僕もシンみたいな馬がほしいよー」

 どうやらシンは人気者らしい。帽子をかぶっていなかったから、鋼色の髪に雪がかかっている。

「ありがとう、アルトゥ。そろそろ行こうと思う」
「あら、もう? 旦那がもうすぐ狩りから帰ってくるのに」
「すまない。急ぐ旅なんだ」
「じゃあ、これ持っていって」

 アルトゥは奥から布の包みを持ってきた。

「そんなに多くないけど、昼ごはんにはなるだろう?」
「チーズにベイズか。ありがとう、助かる」

 包まれていたのは、白いチーズと平べったいパンのような食べ物だった。おいしそう。あたしもお礼をいった。

「水はあるかい?」
「少し補給させてくれ。感謝する」
「今日は吹雪かないとは思うけど、気をつけるんだよ。最近狼が増えている気がしてね。まあ、シンの腕なら大丈夫だろうけど」

 アルトゥさんと子供たちに見送られて、あたしたちは再び馬に乗った。さっきまのぶ厚い雲はすっかり晴れて、素晴らしい青空が広がっていた。あたしは思わず息をのんだ。

「空って、こんなに広かったんだ……」
「ちゃんと前を見て、鞍(くら)をつかめ」

 あたしは慌ててそうした。

「また来てねー!」

 子供たちの声に見送られながら、黒毛の馬は軽快に走りだした。