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「おまえ気づいているか。この、匂い――」
「え?」

 ユーマの息が乱れている。顔も苦しそうだし、風邪でも引いたのだろうか。わたしはなんとか上体を起こそうと、寝台に両手をつき力をこめた。途中までは成功したけど、やっぱり力が入らなくて、崩れる。それをユーマがすぐに支えてくれた。
 思わぬ間近に、ユーマの顔がある。色素の薄いサラサラした髪と、繊細な青い目。わたしは微笑んだ。

「ありがとう、ユーマ」

 ユーマの眉が歪む。
 わたしは首を傾げた。次の瞬間、強くベッドに両肩を押し倒された。

「っゆー、んんっ」

 面食らって開けた口に、ユーマの唇が押しあてられた。やわらかく濡れた、熱い感触に息をのむ。

(嘘)

 わたしはとっさにユーマの胸を押しかえした。けれど両手首を大きな手でつかまれ、顔の両側に縫い止められた。動けない恐怖を飲みこむように、さらにユーマが唇を貪った。

「ん……っ! ふ、ぅ……っ!」

 逃れようと身をよじっても、解放してはくれなかった。やがて熱い舌が口内に侵入し、わななく舌をからめとった。逃れたくて首を振ろうとすると、後頭部をつかまれて動きを封じられる。

「ゆー、ま……っ、ん」
「楓子、オレは」

 息の継ぎ間に、ユーマがかすれた声でいう。

「今宵、『闘士』に選ばれた」
「と、うし? ――あっ」

 ユーマの手が下着に入りこみ、ふくらみをなぞるように触れ、押しつぶす。色づく頂を、指先で擦った。

「あ、ぁん……っん、や……!」

 無意識に、甘さのにじんだ声がもれる。体の奥が熱くうずいて、わたしは内またをすり合わせた。

「ユーマ、やめ……っ、なんか変、変なの……っ」
「何も変じゃない。とても綺麗だ」

 熱にうかされた目でささやき、ユーマはわたしに深く口づけた。

 服はすべて脱がされた。
 気づいた時にはユーマも脱いでいて、素肌がふれあい、こすれあって、熱く昂ぶった。
 わたしはなにがなんだかわからなかった。
 こういうことは知識としては知っていたけれど、実際に経験したことなんてもちろんない。

 狩りで鍛えたユーマの体はなめらかな筋肉に包まれたくましく、指と舌がわたしの体を弄ぶたびに、体内に熱を生んだ。
 ねっとりと、双丘の頂を舌にからめとられて、わたしは高く甘い声をあげる。

「ぁあっ……! ユーマ、やぁ……っ。そこ、やだぁ……!」

 ユーマはわたしの懇願を、聞いてくれない。頂きを嬲りながら、ユーマの指先が下に伸びた。すでに熱くなっているそこを、上下にこする。

「ひ、ぁ……! だ、だめっ……そんなとこ、だめ……!」
「すごく濡れているが……つらかったら、いってくれ」

 耳もとでささやいて、ユーマの指が花芯を丁寧に剥き、押しつぶした。今までとは段違いの波に襲われて、背が弓なりにはねる。

「あ、ぁあ……! ユーマ……っ」
「いい子だ、楓子」

 ユーマはわたしのまぶたにキスを落とし、そして親指で花芯をこねながら、中指を蜜にあふれるそこへ差し入れた。
 じゅくり、と水音が響く。

「ふ、あああっ。 あ、やぁぁ……っ!」

 ユーマの指はたまに後退しつつも、ゆっくりと襞をかき分けて押し入った。ただ押し入るだけでなく、襞をこすったり、軽く振動させたりする。そのたびに、わたしの口から嬌声がもれた。
 ――嬌声。わたしはユーマの与える刺激に、快楽を感じ始めていた。

「想像以上に狭いな」

 眉を寄せながら、ユーマは指を引きぬいた。それすら刺激になり、わたしは肩を震わせる。引きぬいた手で胸をもみこみ、自在に形を変える。ユーマの指の間で、赤い頂きがツン己をと主張している。わたしの蜜で濡れた指先が劣情をあおる。頂をきゅっとつままれて、わたしはのけぞった。

「あ、あっ! ユーマ、だめ……っ、もう、……っもう、やぁ……!」

 秘所の奥が熱く疼く。襞が物欲しげにうごめいている。でも何を欲しがっているのかわからない。自分の体なのに、そうじゃないみたいだった。
 ユーマは逡巡の顔を見せたあと、わたしの頬を優しくなでながら、耳の裏にキスをした。

「痛むかもしれない。……すまない」
「……っあ」

 とろとろに溶けた蜜壺に、熱くて太い何かが触れた。入り口を確かめるように上下にこする。その刺激だけ、わたしの中がきゅうっと締まったのがわかる。
 そしてユーマの灼棒がゆっくりと、わたしの中に分け入ってきた。
 熱い鉄を差しこまれたかのような激痛に、わたしは目を見開く。

「い……っ、いた、い……っ! ゆーま、いや、抜、いて……っ」
「……っく、楓子」

 ユーマがわたしの髪をかきあげ、ひたいにキスをする。反対の手で胸をすくいあげるようにもみ、親指でてっぺんを円を描くようにこねた。
 その甘い刺激と、熱杭の激痛が溶けあって、わたしは恐慌に陥った。

「や、あっ! ユーマ、や、やだぁ……っ。いたい、痛いよぉ……!」

 涙がこぼれる。それを舌ですくいとり、ユーマは切なげな青い目でわたしを見おろした。

「すまない楓子。やめることは、できそうない。――っ」

 ぐ、とユーマがさらに腰を押し進めた。わたしは悲鳴を上げる。ユーマのたくましい腕が、シーツと背中の間にまわり、わたしの腰をしっかりと抱きとめる。体が密着する。わたしの胸が、ユーマの厚い胸板に押しつぶされる。それすら甘い刺激となり、鼻から声が抜けた。
 ゆっくりと、ユーマは進んでくる。彼も息を乱している。そうしている内に、激痛の裏から別の感覚が染み出てくるのを感じた。

「あ、ぁあ……っ。ん、ふ……っ」

 わたしの変化を感じとったのか、ユーマは一度動きを止めたあと、一息に最奥まで貫いた。

「ひ、あああああっ! あ、あっあっ、ん、あ……!」
「っ、楓子、あまり締めるな……っ」

 ユーマが苦しげに眉を寄せる。でもわたしには、彼がなんのことを言っているのかわからない。さっきよりも質量の増した熱い塊が、蜜壺の最奥を穿ち始めた。

 わたしとユーマは汗で濡れた肌をからめあっていた。時おり彼の杭がある場所にあたると、わたしは酷く乱れた。ユーマはそこを重点的に抉った。そのたびに嬌声と蜜があふれ、ユーマの熱杭を濡らした。ユーマの舌と指が体のあらゆるところを這い、舐り、揺すりあげた。

 そしてそれは来た。追い上げられるような焦げつきに蜜筒がうねる。ユーマがわたしの腰をがっしりと抱え、後頭部をつかんだ。そうして逃げられないようにして、激しく腰を振った。

「あ、あ、あ、ぁあああっ。や、いや、ああっ!」
「――楓子」

 ユーマの唇が激しく、わたしのそれを貪った。舌に蹂躙され、さらに激しく突かれ、目裏が激しく明滅した。

「あああっ!」

 体が大きく、弓なりにしなった。
 ユーマは低くうめき声をあげて、わたしの中に熱いものを放った。
 わたしは息ができないほどの熱に貫かれ、意識を手放した。

 気を失っていたのはどれくらいだろうか。数分くらいだったかもしれない。膣内を揺すられて、わたしは目を覚ました。

「ん……っ。ゆーま……? ――あっ」

 奥の方を軽く突かれ、わたしは声をあげる。ユーマの肉棒はずっと中に入れられたままだったことに、そこで気づいた。

「ユーマ、何……? ん……ふ……っ」

 ねっとりと口づけられる。 
 再び熱い杭が内壁をこすり始め、わたしは肩を震わせた。

「ユーマ、もう、わたし……っ。ああっ。――や、ぁ……!」

 もうだめ、もうこれ以上揺すられたら、どろどろに溶けて壊れてしまう。
 それでも熱にうかされたユーマの目の奥には、狂気とも呼べる欲情が宿っていて、わたしは身を竦ませた。
 彼の動きはやがて早急になり、わたしを責め苛んだ。
 零れる涙を掬い取る舌と指だけが、優しかった。