「いやだなぁ楓子。今回はとってもイイものだよ。ほら、そろそろ入ってこいよ」
「え? 人? ……え?」
遠慮がちに幕を持ち上げて中に入ってきたのは、見慣れたはずの、でも懐かしい姿だった。わたしが目を真ん丸にして見つめるせいか、彼は困ったように苦笑した。
「久しぶりだね、楓子。同じ集落にいて久しぶりっていうのも、変な話だけど」
「……トウリ」
「うん。ごめん。ずっと、会いに行かなくて。楓子ちょっと痩せた? ちゃんと食べなきゃ駄目だよ」
楓子って、呼んでくれてる。
敬語じゃなくて、いつもどおりの、昔みたいな口調で。
リオウが嬉しそうに笑う。
「ほら泣いたー。オレの言ったとおりだったろ?」
「だから言ったんだトウリ、立場なんて気にしないで早く会いに来いって」
「いやおまえらはそう思うかもしれないけど、オレみたいなのは長老方に睨まれたら集落にいずらくなるんだよ。オレの母さんも気が弱い人だから、そうなったら困るんだ。――楓子ごめん。泣かないで」
トウリが慌ててわたしの前にしゃがみ、顔をのぞきこむ。ユーマとリオウと、トウリ。昔みたいに戻れたような気がして、胸がつまって熱くて、しばらく涙が止まらなかった。
でもこの後、わたしは地獄に突き落とされることになる。
――もっとも最悪な形で。
*
「露骨に倦(う)んだツラしてンじゃねぇよ」
青い月がかかる夜。
アスカの言葉に、わたしは立ちすくんだ。
ゲルに入るなり、彼は馬鹿にしたように見下ろしながらいった。ほとんど初対面の相手に、開口一番で罵られたのは生まれて初めてだった。
「……そんないい方しないで。緊張してるだけだよ」
「緊張?」
アスカは片眉を上げた。
「ヤることだけがお仕事の巫女サマが何しおらしいこと言ってやがる。スオウとリオウと――ユーマだったか。これで何回目だ? 男の体には慣れきってんだろ」
「な……っ! 失礼なことをいわないで!」
「ああ、そういやスオウはまだっていってたな。てことはオレで3回目か。初宵はどいつとヤった?」
唇を引き結んだ。
――最低な男だ。
「あなたみたいな人が『闘士』だなんて、信じられない」
「一族内で幻術はオレが一番強い。生身だとスオウには敵わねェが、そのうち追い抜かすさ。最初にオレに声がかからなかったのがおかしいんだよ。オレの幻術がどれだけのものか、試してやろうか」
「試すって何を、っ」
声が、出なくなった。
両手でのどを押さえる。
ぎゅうう、と見えない力でしめつけられている。声だけではない。ゆっくりと、呼吸までままならなくなってくる。
「か……は……っ」
血の気がひく。ぱくぱくと、空気を求めて口が動く。
混乱に陥り、敷物の上に膝をついた。
「苦しいだろ? 命乞いしろよ」
アスカは片膝をついて、あたしの頭をつかみ上向かせた。
「オレを侮辱したことを、謝罪しろ」
「……ぐっ……」
完全に息を止められたわけじゃない。
細く薄く、空気は肺に入ってくる。けれど量が極端に少なくて、苦しい。視界がチカチカしてきた。
アスカが酷薄に笑んだ。
「声すら出ないか。ま、仕方ねェな。さっきからおまえの匂いが強烈なんだよ。このままだと啼き声も聞けないだろうしな」
フッ、と唐突に、酸素が肺に送りこまれてきた。激しく咳き込む。
「寝台はあっちか。めんどくせえな、このままヤっちまうか」
「――ぃや……っ!」
無造作に突き倒され、敷物の上に転がった。そのままのしかかられ、アスカの右手がわたしの上衣を首元から引きちぎった。
「やだ、やめて!」
「キンキンうるせーよ」
冷酷に見おろし、いう。
アスカの青い目は、氷のようでいて、最奥に炎が踊っていた。
「蒼月の巫女とやらがどんな具合か、たっぷりと味わってやる。いい声で啼けよ」
*
どれだけ罵っても、泣いても、アスカの凶暴性は止まらなかった。
制止を訴える声は、やがて懇願になった。
けれどすべては彼を悦ばせる燃料になるだけだった。
早く朝が来ないかと、そればかりを願った。
体のあらゆるところに、指や爪のあと、口づけや噛みあとを残され、赤い疵(きず)となった。
行為はやわらかな寝台ではなく、固い敷物の上でなされた。そのため擦過傷があちこちに刻まれた。
幾度となく貫かれた秘所からは、彼の精とわたしから染み出す液がぐちゅぐちゅと音をたて、したたり落ちた。
やがて待ち焦がれた朝がやってきても、アスカの杭は打ちこまれたまま、けして抜かれはしなかった。
そのころにはもう、わたしはただ涙を流し、小さく声を上げ続けるただの人形と化していた。
「いいな――すげぇいい、おまえ。こんな体初めてだ」
わたしを膝の上に乗せ、背中から抱きしめて何度も揺すり上げながら、アスカが言う。彼の手は両方の胸をもみくちゃにし、首すじに噛みつくような口づけをする。
「あ……ぁ、い……っ。や、あ……」
「28日に1度しか抱けないだなんて、ありえねぇ。蒼月関係なく、何度でも抱きに来てやる」
「……っあ」
彼の指が、花芯を激しく擦る。
体中がビクビクと震える。
もう何も考えられなくなっている。
アスカの肌と、声と、肉棒だけが、わたしの五感すべてを支配していた。
どれくらい経っただろう。
やがてアスカが舌打ちし、入り口に目をやった。
「スオウだな」
その時わたしは向かい合わせになってアスカの上に座らされていて、胸を苛むてのひらと、、容赦なく突き上げる肉棒だけを感じさせられていた。
アスカは無造作にわたしを放って手早く衣服を整える。床の上で、魚のようにヒクヒクと、わたしの体は痙攣した。
と同時に、幕が開かれた。濡れ淀むゲル内に、清浄な風が吹き抜ける。
「――楓子」
愕然と、スオウは目を見開いた。
あたしは仰向けに寝転がりながら、薄れた視界の中で、彼を見ていた。