52

 猿轡(さるぐつわ)を噛まされ、後ろ手に縛られて、馬に乗せられた。鞍もたずなもない裸馬(はだかうま)は不安定で、アスカの御し方は荒々しい。けれど、腰を抱くアスカの腕は強靭で、振り落とされる心配はなかった。彼は右手でたてがみをつかみ、左腕でわたしの腰を抱いている。
 ひたすら襲歩(しゅうほ)で草原を駆けた。たいまつは持てないから、炎を消して見張りから奪った革袋に詰めこんでいる。満点の星々がたよりだった。

 やがて荒れた岩場に辿りつき、それさえも抜けて、木がまばらに生える林に入る。貧弱な木と、岩にこびりつく苔。ひづめが滑るため、アスカは馬を降りた。革袋から長縄を取りだして、適当な木に馬を繋ぐ。

「ここまでこればひと晩は大丈夫だろ。来い。外してやる」

 もう逃げ出さないと踏んだのか、アスカは猿轡と手縄をほどいた。

「絶対に見つかるわ。スオウたちは絶対に、追いかけてくる」
「見つかったらおまえを盾にするだけだ。目の前で犯してやろうか。奴ら歯ぎしりして悔しがるぜ」
「最低……!」

 それでも、と思い直す。
 今夜、アスカと儀を結べば、ひと月は『獣化』が出ない。次の蒼月までににスオウたちがわたしたちを見つけてくれれば何とかなる。狼たちは容易に匂いを辿るだろう。
 アスカは円状になっている窪地に革袋を置いた。枯草が敷きつめられて、やわらかい。誰かがここで野営したのか、たき火のあとがある。とたんに火が恋しくなった。外は寒すぎる。

「まあ、少しなら見つかることもないだろ」

 アスカはたき火のあとに枯れ枝を足した。革袋から麻縄をほぐした火口(ほくち)と火切(ひき)りを取り出し、火種を作る。それをたき火のあとに移動させれば、やがて赤々と燃える炎ができあがった。
 激しい炎に冷気が追い出されてゆく。たき火近くに座り、息をついた。

「何ほっとしてやがるんだ?」

 アスカがすぐ隣に腰を下ろした。全身が強張る。上衣のボタンはさっき外されたままで、腰ひもも牢屋に置いてきてしまった。心もとなく、前合わせをきゅっと握りしめる。
 たき火の方を見ていると、アスカにあごをつかまれた。青い双眸が間近にある。

「何だかんだ言って、おまえのあの一族が心底嫌いなんだろ。ゲルの中にいる時より、頬に赤みがさしてやがる」
「そ、そんなことない。わたしはあそこで産まれたんだもの」
「オレは大嫌いだぜ。あんなクソったれな一族、とっとと滅びちまえばいいんだ」
「自分も、その一員でしょ」
「ああ、そうだ。オレもクソだ。だがおまえはいい。おまえからは狼の匂いがしない。淫乱な雌豚には変わりないがな」
「わたしは……! ――んっ、」

 あごをつかまれたまま、深く口づけをされた。彼の舌が噛みしめた歯列をなぞり、背筋が震える。そのままゆっくりと、枯れ葉の上に寝かされた。

「口開けろよ」

 キスの合間に、アスカが囁く。わたしは睨み上げながら首を振った。彼は軽く笑んで、上衣を開き、下着を首元から引きちぎった。

「な……やめて! っむぅ」

 抗議の声ごとアスカの口に飲みこまれ、いとも簡単に舌の侵入を許してしまった。幾度も角度を変え、口腔内を貪られる。口の端から唾液が伝った。舌をからめとられ、引き出されて甘く噛まれる。

「ん、んん……! ふ、ぁっ」

 唇が解放されたと思ったら、アスカのそれは下にうつり、首すじにきつく吸いついた。あとをつけないでと言ったのに――。彼の胸を押しかえそうとするが、びくともしない。

「おまえのここから、匂いが出てんだよ」

 低く囁きながら、彼の舌が耳の後ろをゆっくりと舐め上げる。熱くぬめる感触に、びくりと肩が震えた。

「ア――スカ、いや……もう、――ぁあっ」

 下着の破れ目から、冷たい手が入りこんだ。胸を下から持ち上げるように揺する。

「いや……、ぁっ、つめた……っ」
「寝転がっててもこの肉量か。どれだけ男どもにもませてンだ」

 下着の破れ目から大きく広げられ、白い双丘が夜気に曝された。冷気と羞恥が肌を刺して粟立つ。アスカの大きなてのひらが片方を自在にもみこみ、赤く主張した頂きを指先でこすった。
 わたしは嬌声を上げて背をそらせた。下腹部に疼痛が走り、内またを擦り合わせる。けれどアスカはわたしの膝をわって片足を侵入させた。片方の胸をこねながら、もう片方の乳輪のまわりをじっくりと舐める。

「あ、や、ぁ……っ!」
「――物たりねぇんだろ」
「ちが……っ、ひ、あ、ぁっ」

 カリ、とアスカの歯が頂きを噛んだ。噛んだまま、チロチロと舌でくすぐられる。もう片方は痛いほどにギュっと握られ、色づいた乳首が痛々しげに尖っている。アスカは上体を猫のように折り曲げて、割開いた膝をぐっと秘所に押しつけた。淫芽にゴリゴリとこすりつけられ、腰が浮く。

「いや、あ、は、ぁあっ」

 あまりの痴態に、涙があふれた。
 ――酷い。
 こんなの嫌だ。

「やめ、て――んっ、乱暴なこと、しないって、言ったのに……っ」
「あ? これのどこが乱暴なんだよ。優しくご奉仕してやってんだろーが。おまえ普段からスオウにどんだけ可愛がってもらってんだよ」
「――んんっ」

 膝をぐっと押しつけられて、のけぞった。アスカは薄く笑む。

「めんどくせー女。おまえみたいな甘ったれた奴、巫女じゃなかったら絶対抱いてねえ」
「い、たぃ……!」

 乳房をつかむ腕に力がこもる。アスカの指が肉にくいこんで、痛みに悲鳴を上げた。

「だが体は最高なんだよな。――啼き声もいい」
「や……! いや……!」

 乱暴にズボンを引き下げられ、わたしは喉を引きつらせた。太ももの裏とお尻に枯れ葉がこすれて、ぞわりとする。
 大きな手が焦らすようにお腹を撫でまわし、その上で、アスカの歯が乳首にきつく食い込んだ。

「ひっ……!」
「おいおい、ずいぶん嫌がってるわりにはグチョグチョじゃねぇか」
「ぁ、あ、いや、やだぁ……っ!」

 涙があふれる。貧相な木々の間から、青い月がわたしを見おろしている。
 男の指が胎内に入りこみ、ぐしゃぐしゃに中をかき回す。卑猥な水音が、たき火の爆ぜる音の合間を埋めてゆく。

 のけぞる喉に、アスカが食らいついた。きつく吸い、歯をたてて、肉食動物のように肌を嬲る。傷つけないという約束は反故にされた。やっと傷の癒えた肌に、ふたたび蹂躙のあとが刻まれてゆく。あらゆるところを爪で裂かれ、歯で破られ、きつく掴まれて、激痛に苛まれる。けれどその合間に、淫壺をかきまわし、花芯をこねまわす刺激に、背筋を快感が走り抜ける。吐き気がするほど、おぞましい。

 あまりの恐怖に、視界が定まらない。逃れたいと首を振れば、涙で濡れた頬に枯れ葉のカケラがひっついて気持ち悪い。ガクガクと、腰が、肩が、歯が震えた。

「ぁ、あ、あ、や、いやぁ……! たすけ、たすけて。やだ、ぁあ……!」
「助けなんて来ねえよ」

 アスカは冷たく言い放ち、ガリっと花芯に爪を立てた。声にならない悲鳴が上がる。

「も……やだ、や……っ、入れて、もう、はやく、いれて……!」

 絶対に、死んでも、この男にだけには言わないであろう言葉が、口をついて出た。
 アスカが驚いたように、手をとめる。
 涙で濡れる目で、わたしはアスカに懇願する。

「お願い、あすか、もう……、っん、」

 三本の指に、奥の襞が揺らされる。

「なんだよ。もう一回言ってみろ」
「は……っ、ア、スカ、……っ」

 言おうとしても、さらに強く体内の粘膜をこすられて、言葉にならない。

 ――早く終わらせて。
 アスカの欲望を胎内に受け入れたら、蒼月の儀は終わる。
 恐ろしく、おぞましい狂夜を、終えることができる。

 わたしは震える指をのばして、彼の乱れた襟もとをつかんだ。

「アスカのを、早くちょうだい……!」
「――は。すげえ、破壊力」

 彼は自分の唇をちろりと舐め、薄く笑んだ。目の奥の情欲が、いっそう深さを増したように見える。
 アスカの顔が近づいて、欲情にまみれた口づけが与えられる。ねっとりと口腔内を犯す間、彼の青眼はじっとわたしに注がれていた。
 必死で受けとめているうちに、蜜壺から指が引きぬかれ、代わりにもっと太く固いものが押しあてられる。びくりと体を強張らせた。彼の肉棒は怒張し、熱を孕み、陰唇を上下にこすりながらゆっくりと味わっている。
 自分でねだっておきながら、彼の欲情をまの当たりにすると、恐ろしさに全身が粟立った。

「ひ――ぁ、や、やめ……っ」
「遅えよ」

 無慈悲な言葉とともに、陰唇を割り開いて、肉棒がじっくりと侵入してきた。激しく突き上げるのではなく、襞のぬめりを味わうように、進んでは戻ってをくり返しながら徐々に沈んでゆく。アスカが腰を動かすたびに、ぐちゅ、ぐちゅ、と卑猥な音が、秘所から生まれた。

「ふ……ぅ、すげえ、気持ちいい」
「ん、あ、や、いや……」

 熱く太い肉が襞をかきわけ、こするたびに、わたしの中は歓喜して蠢き、じゅくじゅくと蜜を垂らす。まとわりついてもっと奥へと、男を誘い込んでゆく。
 ――悦楽。
 恐怖と、嫌悪と、そして悦楽に、脳内を黒く塗りつぶされ、わたしは涙を流し、声を上げ続ける。
 アスカがわたしの両足首を持ち上げて、ぐっと胸の双丘に寄せ、さらに奥へと進んでゆく。もうこれ以上入らない、と思ったところで、さらに奥へ、ガンと突き上げられた。

「あぁっ!」
「はっ……、これで、全部だ」

 ゆるりと、中をゆすられた。
 それだけの刺激で、全身が悦ぶ。

「すげえやわらかくて、熱くて、まとわりついてくる。たまんねえな」
「っん、や、うごかないで……っ」
「こんな気持ちのいい肉のなかで動かなくてどーすんだよ」
「いた……っ! あ、ああ、やぁ……っ」

 ガリ、と耳たぶを噛まれた。
 と同時に、激しい律動が始まる。がつがつと、角度を微妙に変えながら、幾度も奥をえぐられた。逃げようとする腰をがっしりとした腕に捕えられ、ゆれる乳房を鷲づかみにされる。痛いと泣けば、ねっとりと濡れた舌で乳首をからめとられ、甘い疼きに蜜壺が悶え、彼の杭をしめつけた。

「――っく、油断すると、簡単に持っていかれるな」

 眉をしかめて、アスカが内壁の上の方をえぐる。その時わたしの口からいっそう高い嬌声が走った。

「あああっ! や、いや、だめ、こわい……っ!」
「――なんだよ、ここがイイのか」

 ぐっ、ともう一度その場所をえぐられた。背中が弓なりにそってビクビクと震える。あまりに強い快感に、わたしはアスカの服をつかんだ。

「あ、だめ、あすか、いやあ……!!」
「駄目じゃねえだろ?」

 口端を引きあげて、アスカは何度もそこをえぐったり、円を描くようにこねたりした。
 全身を快感が走り抜け、身体が震えてつま先まで力が入る。怖い、怖い、怖い。視界が真っ白になり、やがて――

「――イっちまえ」

 耳朶へ低く囁くとともに、アスカが深く突き上げた。
 声にならない声を上げて達するとともに、彼の熱い精が体内に放たれた。