「ん、――ふ、ぅ……」
全身の力が抜けてゆく。
シンのものはまだ中にあって、ゆっくりとしごくように抽送をくりかえし、最後まで吐精した。ゆるりとこすられ、揺すられるたびに、わたしは甘い疼痛のまま声を上げる。
やがてずるりと引きぬかれた。とろりと、陰唇から精液と愛液が垂れて内ももを伝う。
息が上がったまま、シンは熱い腕でわたしを横向きに抱きよせた。
「……楓子」
うん、と返事をしたはずが、かすれて声にならなかった。シンは頭のてっぺんにキスを落とし、抱きこむ。
「すまない。激しくしてしまった。正直途中から記憶がない。痛くなかったか?」
「痛くなかったけど、ちょっと怖かった」
「……!」
シンはショックを受けたように息をのんだ。
「すまない……本当に。オレは馬鹿だな」
シンが大きなてのひらで髪を撫でる。
優しい感触に、つい眠気が打ち寄せてくる。
「楓子? 眠いのか」
「……うん」
「まだ深夜だ。ゆっくり眠れ」
シンがわたしの前髪をかきあげて覗きこみ、ひたいにキスを落とした。ゆるくからむ腕の中で目を閉じる。素肌と素肌がこすれあう感触が、気持ちいい。わたしはけだるい体から力を抜き、シンの胸にひたいをよせて、眠りに落ちた。
*
目の奥がうっすらと明るい。暖かい手で、皮膚を優しく撫でられている。徐々にまぶたを開けると、シンが寝台に腰かけて、上体だけをこちらに向け、わたしの胸のふくらみを片手でゆっくりともんでいた。
「しん……? っん」
「おまえの肌はすべすべで気持ちがいい。特に胸はやわらかくて、いつまでも触れていたい」
愛しげに見下ろされて、もう何もいえなくなる。もみこむ過程で、指の腹が頂きをこするたびに、甘い疼きが広がる。天井の窓から光が降りそそいで、わたしの裸身をあますことなく曝け出している。痛々しい、傷だらけの体。でも、どうしてか今は、昨夜までのように悲痛な思いが生まれなかった。
シンの顔がゆっくりと下がり、立ちあがった赤い果実を口に含む。舌で転がされ、わたしは肩を震わせた。
「あ……っ、シン、だめ、もう、朝――」
「あのあとすぐに服を着せればよかった」
シンのてのひらが腹部をたどり、太ももの間にたどりつく。起き抜けから愛撫をほどこされて、力が全然入らない。簡単に足を割り広げられて、指先が秘所の入り口を撫で上げた。
「あ、ああ……っ」
「まるでぬかるみのようだ」
くちゅ、くちゅ、と音が生まれる。清浄な朝に似つかわしくない淫らな音だ。シンの指は入り口を円を描くようにこねまわし、時おり少しだけ中に沈みこむ。
「楓子――」
シンの顔がゆっくりと降りてきて、唇がわたしのそれに押しあてられる。簡単に歯をこじあけ、舌が侵入して口腔内を甘く撫でた。くたりとしたわたしの舌を味わうようにからめとる。
駄目、朝なのに。でも頭がぼうっとする。なにも考えられないのに、シンが与えてくる愛撫に体が反応する。浅黒い指が体内に侵入する。粘膜をくるりとなでられて、愛液が滴り落ちる。途方もなく気持ちがいい。わたしは手をのばしてシンの首を抱きしめた。
「シン、気持ちいい。もっとして。……っん」
シンの指が軽く折り曲げられ、関節が内部をする。ふにふにと胸を揉まれ、指の間にぷくりと立ちあがった蕾が舌に捕えられた。
このままずっと、シンの腕の中に囚われていたい。
シンがずっと、こうやってわたしの中に入ったままでいたらいいのに。
そうしたら、ずっと安心したまままどろんでいられるのに。
「楓子、愛してる」
耳もとで囁かれ、ぴくんと肩がはねた。
シンのたくましい体がのしかかり、すでに固く熱くなった先端が、愛液をたらす入り口にこすりつけられる。
「っん、ぁ、シン……」
ずぶずぶと、熱量が押し入ってくる。びくびくと腰が跳ねる。あまりにも強い快感が広がって、わたしはシンにしがみついた。
「シン、ずっとそばにいて、シン。――っあ」
がん、と強く抉られた。わたしの願いにこたえるように、シンが熱く激しい口づけを与える。
「ん――、ぁ、しん……っ」
「――楓子」
かすれた声で低く呼んで、シンはさらに強く、最奥へ腰を打ちつける。
大きな波は、もうすぐそこまで来ていた。
*
この時から、もともとわたしにべったりだったシンが、さらに酷くなった。男の労働である狩りに行くことすら渋るありさまである。他の人たちは『鋼の王』だからと寛大だったが、ユーマは気に入らないみたいでいつもイライラしていた。わたしにはいつもどおり優しいから、それをちょっとだけシンにもわけてほしいなと思う。
変化はわたしにもあった。
ちゃんと心の底から笑えるようになったし、肌をなでる風をきちんと実感できるようになった。隔世の感が消えて、今ここに生きていると思えるようになっていた。
そうして7日が過ぎ、月が青く染まる日がやってきた。
朝からリオウは気まずい表情でため息をついていた。
「あーオレ、今日こそ死ぬかもしれない。今までありがとう、楓」
「どうしたのリオウ、何かあったの?」
リオウは狼の柵のすみで座りこんでいる。小屋の影になっているところだ。見るからに暗い。わたしは心配になって、リオウの隣に腰を下ろした。シンはユーマに無理やり引っ張られ、狩りに出ているから近くにいない。
「どうしたのじゃないって。今日は蒼月でしょ。オレの番。もう昨日あたりからシンのオレを見る目つきがすごいんだよ。ああオレ絶対殺される。楓、オレのこと忘れないでね」
「やだなリオウ、シンはそんなことしないよ」
軽く笑いながらも、のどのあたりが引きつってしまった。
シンに抱かれてから、初めての蒼月がやってくる。今までなるべく考えないようにしていた現実が、押し迫ってきた。
憂鬱な表情でわたしをじっと見つめていたリオウは、ふいに口もとをやわらげた。
「ねえ、楓」
「なに?」
「キスしていい?」
「えっ」
わたしは思わず後ずさった。リオウの右手が後頭部を捕まえて、唇に小鳥がついばむような軽いキスを落とす。
「り、りおうっ」
「真っ赤になっちゃって、可愛い」
「もう。いつもそうやって、からかってばっかり」
リオウを押しのけて睨みつける。ひ弱なフリをしていつもサボってる、世渡り上手なリオウは、わたしに負けるフリをしていざという時にはしっかりと勝ってくるのだ。
「からかってなんかないよ」
「嘘。『闘士』は強くなきゃ選ばれないんでしょ。だったらリオウは、少なくともユーマの次に腕がたつはずじゃない。サボってないで早く狩りに行ってきなよ」
「お、楓鋭い。でも残念、オレは狩りが『できない』んだ」
「どうして?」
「どうしてだと思う?」
いつの間にか、リオウの体が近い。気づいたら小屋と柵の角に追い込まれていた。座ったまま、再びリオウの腕が腰にからんでくる。
「ちょっとリオウ……!」
「最近シンが四六時中目を光らせてたから、楓にさわれなかったんだよね」
引き寄せられ、こめかみにキスが落とされる。ショールの下に手が入りこみ、手際よく上衣のボタンが胸元まで外された。抵抗する間もなく、下着ごしに、ふくらみをリオウの手がやわやわともむ。
「……っ、リオウ! ここ、外……!」
「誰もいないよ」
耳もとでささやき、耳殻を舌でなぞる。ゾクリと背すじに熱い何かが走った。
「駄目リオウ、や……!」
「――もし、今夜、楓が泣いて嫌がっても」
こり、と爪先で頂きを引っ掻かれて、びくりと肩が震えた。何度も往復されるうちに、下着ごしでも先がぷくりと赤く立ちあがっていくのがわかった。疼痛が下肢に伝わり、息が乱れ、視界が揺れる。
「力ずくで押さえつけて、オレのをここに入れるよ」
もう片方のてのひらが、腰を回ってズボンの上から足のつけ根をぐっと押さえる。リオウは小柄なはずなのに、わたしの体の自由を奪うくらいの大きさがあるのだと、身にしみて理解する。
「あ……っ、や、ぁ……!」
「だからなるべく、抵抗しないでね。痛がることしたくないから」
にこりと屈託なく笑って、リオウはスっと両手を離した。息を乱すわたしの髪に軽くキスをして、ボタンをとめてショールを直す。震えながらまばたきすると、涙が一粒頬に零れた。リオウの人差し指の背が、それを拭い取る。
「楓は泣いてる顔が一番可愛いなぁ」
「リオウ、最っ低。もうあっち行って……!」
「はいはい」
リオウは立ちあがって、ズボンについた草をはらい落とす。わたしを見おろして、爽やかに笑った。
「ごめん、楓。今のは冗談だよ」
わたしは絶句した。「じゃ後でね」と悪びれもせず手を振って、リオウは立ち去った。
うずくまったまま、身の置きどころも、感情の持っていき方もわからずに、わたしはただ途方に暮れていた。