トウリが『獣化』の果てに、死んだ。
わたしは確信している。
今以上の地獄なんてどこにもない。
「狼の檻に単身乗りこむなんざ、いい度胸じゃねぇか」
ゆっくりと、鍵を差しこむ。――震えるな。
怖くない。なにも怖くない。
トウリはもっと、怖かったはずだ。
「アスカこそ後悔しているんでしょう? わたしを乱暴に扱ったせいで、こんなところにひと月以上、入れられて」
鍵を回し、扉を開けた。
アスカは動かない。わたしの動きを、じっと見ている。
「今夜は、蒼月だよ」
「知っている。ゲル中、おまえの淫乱な匂いに満ちてる」
「……。わたしが、解放してあげる」
一歩、牢獄内に入る。
「長老たちは、アスカが『闘士』に戻ることを望んでいるけれど。族長と、リオウとユーマが反対してるから、アスカはここから出られない」
「そうだろうな」
「でもわたしがあなたを『闘士』に望めば、状況は一変するわ」
「それをおまえがするのか?」
アスカは訝しげに眉を寄せた。わたしはうなずく。
「うん、そうよ。アスカをもう一度、『闘士』に迎え入れるわ」
「――何があった?」
アスカの目が鋭く光る。
わたしは体の横でぐっと、両の拳を握りしめた。
「なにも。ただ、巫女としての義務をまっとうしようと思っただけ」
アスカは注意深く、わたしを観察している。
彼の視線に曝されることは、何よりも恐ろしい。震えを抑えるように、自分の両腕で体を抱く。アスカが口の端で笑った。
「ガタガタじゃねぇか。なるほどな。『獣化人』でも出たか」
「……っ。ち、ちが」
「いいぜ。抱いてやるよ。こっちに来い」
座ったまま、アスカは右手を差しのべる。この手を、自分で取らなくてはならない。きつく眉を寄せて、息を吸いこんだ。
「最近やっと、あなたにつけられた傷が綺麗になったところなの。でももし、もう一度、同じように傷がついたらみんなが怒るわ。アスカを『闘士』に戻すことが、難しくなる。だから乱暴なことは、しないで」
「ふっ、いろいろ考えるなおまえ。ただの阿呆女だと思ってたが、まあ、単身で檻に入ってくるようじゃ、まだまだ頭は弱いか」
「約束して」
「悪いが、女を優しく扱ったことなんざ一度もない。おまえのいう『乱暴』のレベルがどんなんだか知らねぇが、いいだろう。おまえの勇気に免じて、できる限り丁重に扱ってやるよ」
青白い指先をのばす。小さな燭台が、鉄柵の外で揺れている。ここにはストーブさえない。吐く息が白く舞う。もう少しでアスカの手に触れる、という距離で、無意識に動きが止まった。瞬間、強い力で手首を引かれ、アスカの膝の上に倒れこんだ。
「あ――」
「ずいぶんと着こんでるんだな。もう雪は降ったか?」
「まだ……、っん」
アスカは片膝を立てたまま、わたしを足の間に落とし、後ろから抱きしめた。
毛皮を縫いつけたぶ厚い上衣の上から、やわやわと胸をもむ。
――嫌だ。
おぞましさに体が震える。けれど双丘の肉は、アスカの指に応えるように自在に形を変え、ゆるやかな刺激を感じ始めている。
「あっ……ふ」
「ずいぶん大きくなったな。さぞかしあいつらに可愛がってもらってンだろ。誰が一番お気に入りなんだ? ユーマか?」
「そ、んなの、考えたこともな――、ひぁっ」
「嘘つくなよ」
上衣の上から、きゅうっと乳首をつままれて、わたしの口から嬌声が上がった。感じたくないのに、感じてしまう。わたしは自分の体を呪った。
腰の帯が引きぬかれ、上衣のボタンをすべて外される。アスカの指がわたしの髪をかき上げて、ねっとりと耳に舌をからませた。
「……っぁ、や……っ」
「嫌いな男に嬲られて悦んでんじゃねえ。いやらしい女だな」
「ちが……、ひっ――」
背中に固く屹立するものが当たり、血の気が引く。アスカはわざとらしくそれをこすりつけてきた。
「早く入れてほくてたまらないんだろ」
「アスカ……!」
顔だけ後ろに向けて、苦々しく睨みつける。アスカの表情は飄々として笑みさえ浮かべているが、青い目の奥は狂気の炎が踊っていた。
背筋がゾクリと粟立つ。
「難しいな、優しくするってのは」
「ぁ、だめ……っ」
下へ伸びるアスカの手を、わたしは思わず両手で押さえた。けれどあっさりと彼の手はズボンの中に入りこむ。アスカの二の腕をつかむが、抵抗にすらならない。
「馬鹿かおまえは。ここに入れるんだろうが」
二本の指でふにふにと、恥丘をもむ。そのもどかしい動きに、思わず腰が浮いた。アスカの腕に縋りつくように、頬を押しあてる。
「ん、ぁ……っ」
「あ? なんだおまえ、ずいぶんと感度がいいな。最初の時は泣きじゃくるだけだったのに、今は女の動きができてるじゃねえか」
「や、だめ、――ひぁあっ」
花芯をむかれ、押しつぶすようにこねられて、背中が弓なりになった。逃がさないように、アスカの腕がぐっと腰をおさえ、さらにもう一方の指で花芯をこすり続ける。じゅう、と熱い液体が溢れ出て、太ももを伝うのを感じた。
「あ、あ、あ、や、だめぇ……っ!」
「――ちっ、匂いがキツくなりやがる」
アスカは指をズボンから抜き、わたしの肩を床へ押し倒した。固く汚れた敷物の上に、髪が広がる。刺激が途切れ、膣が不満げに疼いた。自分への嫌悪感に、吐きそうになる。涙さえにじんで、唇をかんで耐えた。
上にのしかかり、わたしの様子を見ていたアスカは、ふいにいった。
「――気が変わった」
ふっと、身体が浮遊して、気づいた時にはアスカの肩にかつがれていた。すぐ目の前に、逆さになったアスカの背中がある。
「え、なに……っ、アスカ離して!」
「うるせえよ」
ズボンの上から、アスカが的確に花芯をくにゅりと押しつぶした。突然の刺激に、わたしは喉を引きつらせる。
「優しくはしてやる。だがこの体をひと月に1度しか抱けないなんざありえねえ。しかも他の野郎どもと共有するなんてことはもっとありえねえ」
「な――にそれ、ぁ……んっ、ふ――」
くにゅくにゅと芽を揉みこみながら、アスカは牢を出た。それは幻術を阻む結界から解放されたということだ。アスカが意味の伝わらない言葉の羅列を唱えると、幕の向こう側でドサリと大きなものが倒れる音がした。
見張りの人だ。わたしは蒼白になる。
「どうして――やめて、アスカ」
「殺しちゃいねえよ。眠らせただけだ」
「いや、降ろして! 約束が違う!」
「約束は、乱暴にしないってことだけだろ」
幕を開ける。集落の最奥に位置するここは、篝火が届きにくく、うす暗い。見張りがうつぶせに倒れている。地面に落ちているたいまつを取り、アスカはいった。
「いつ見てもイラつくぜ、この陰鬱な集落(クラン)は」
見張りを足で転がし、刀と弓矢、革袋を奪う。
わたしは震えた。
アスカはここを出る気だ。――わたしを連れて。