「ん……っ」
上唇を舌でなぞられ、熱い疼きがせり上がってきた。思わず身を引こうとすると、腰に回された腕に力強く抱き寄せられる。
ローゼの胸に、ぴったりとくっついた彼の胸板は、固く熱い。そこに当てていた手を、ローゼは握りこんだ。
「ヴァル、さま……」
口づけの合間に呼んだ声は、ふたつの吐息に溶け落ちる。
舌が絡み合った。キスに翻弄されているうちに、するするとドレスが脱がされていく。コルセットが落ちて、シュミーズとドロワーズが取り払われた。
やがてヴァルは口づけをほどき、ローゼの裸身を見つめる。なめらかなローゼの素肌を、赤い夕日が艶めかせている。
「とても綺麗だ」
熱い感情を込めて呟かれた言葉に、ローゼは恥ずかしくてうつむいてしまう。首すじにヴァルの手が伸ばされた。うなじから胸もとまでを撫で下ろされる。
「あ……」
羽で触れられるような感触に、ローゼは甘やかな疼きを覚えた。腰を優しく抱き寄せられて、ローゼから抵抗の意志がほどけてしまう。
ヴァルは自身の首飾りを取り払い、ローゼを軽々と横抱きにした。岩張りの洗い場を横切り、ローゼごと湯に身を沈める。足先から胸の上あたりまで、じんわりとした熱に包み込まれた。
「ああ、やはり熱いな。そんなに長くは浸かっていられなさそうだ」
屋敷で使う湯よりも温度が高い。ぬるついたような手触りがするからだろうか。不思議な匂いもする。
初めての温泉に興味は尽きないが、この時ローゼの注意を引く事柄は別にあった。
「あの、ヴァル様。いつも腰布を身につけたままお風呂に入られるのですか?」
「いや、そういうわけではないが。脱いだらまずいだろう、その……いろいろと」
彼の意図することに気付いて、ローゼはほんのりと頬を染めた。
「大丈夫です、ヴァル様。わたし男性のそれを何度も目にしたことがありますから」
「な、なんだと?」
どうしてかヴァルの声が真剣さを帯びている。
「いつ、どのような状況で、誰のモノを目にしたんだ?」
「幼い頃、父と叔父のものを。一緒にお風呂に入っていましたので」
「ああそういうことか、びっくりした。参考までに聞きたいのだが、何歳くらいまで叔父君とお風呂を?」
いまだ真剣さが損なわない様子のヴァルである。ローゼは首を傾げた。
「さあ、覚えていないからかなり前のことだと思います。ふふ、わたし、男性のゆらゆらがとっても不思議で、つい触り心地を確かめてしまって、お父様に叱られてしまったこともあるんです。男性のゆらゆらはとってもデリケートだから、扱いには注意が必要だと教えられました。だから大丈夫ですよ、安心してください。わたしはヴァル様のゆらゆらを何があっても決して触りません」
「……」
「絶対に触らないです」
ローゼは意気込んで言った。しかしヴァルは浮かない顔だ。
「どうしたのですかヴァル様?」
「なんでもない。深い邪念に囚われそうになっただけだ」
ヴァルはごまかすように夕焼け空を見上げた。つられてローゼも目を上げる。東の方は紺碧が染み込みつつあった。
「ひとつ、確認しておきたいのだが」
沈黙のあと、ヴァルがぽつりと零した。
「はい、なんでしょう?」
「ローゼは男女の睦みの方法を知っているか? 子作りの方法だ」
「し、知っています」
突然なにを言い出すのだろう。ローゼは恥ずかしくなってきて、胸もとを両腕で押さえた。裸身で男の膝の上に横抱きされているのだから、そんなことをしても意味がないと分かっているが。
ヴァルは視線を下げて、注意深そうにローゼを見つめた。
「具体的にだぞ。本当に分かっているのか?」
「分かっています、ちゃんと教わっています」
「では言ってみてくれ」
「……。裸になって抱き合い、か、下半身を、交わらせる行為だと」
「下半身のどの部分を?」
「えっ」
ローゼは固まってしまった。
「そ、それは、その」
「知らないのだろう。そうでなければゆらゆらを絶対に触らないなどという残酷な言葉が飛び出るはずがない」
「し、知っています!」
「じゃあなんだ? どことどこを交わらせる?」
父がドロワーズを重ね履きさせたということは、その部分を交わらせるということだろう。つまり、太ももから上の部分だ。なんとなく足の付け根の部分が怪しいと思っている。けれどそこをどう交わらせるのか想像も付かなかったので、ローゼは最も無難だと思われる回答を返した。
「あ、足と……足? を、絡ませ合う、感じの……」
「……」
「……」
ヴァルはため息をついた。
「父君は絶対に教えないだろうし、叔父君から教わっていたとしたら若干こちらの腹が立つ。だからまあ、これでいいのだろうな」
「ど、どういう意味ですか?」
ちらりとヴァルはローゼを流し見た。綺麗な形の双眸に、ローゼはどきりとする。
「そもそもおまえを前にして、俺のモノがゆらゆらのままでいると考えている方がおかしい。確かに今までおまえを怯えさせてはならないと思っていたからアレをおまえに押しつけるようなことを極力、極力抑えてきたが、ここまでくると屈辱だな」
「屈辱、ですか? ゆらゆらが?」
ローゼは首を傾げた。火照った頬に、絹糸のような髪がひっつく。ヴァルはそれを指でどかして、頬に口づけた。
「……例えば」
湯の中にあったローゼの手を取り、ヴァルは細い指先を、自身の下肢に導いた。
「今のような触れ合いだけで、俺はこんなふうになってしまう」
「……?!」
びくっとローゼは肩を跳ねさせた。予想してなかった固さが布越しにあったからだ。
小さい頃お風呂で見たのは、ふにゃふにゃしたゆらゆらだった。けれどこれは固い上にやたら熱いし、そしてなにより大きい。
「あ、あの、ヴァル様。なんですかこれは」
腰布の上から、形を確かめるために造形をなぞってみた。するとヴァルが大きく身を引き攣らせた。
「ま、待て。触るな」
「えっ、でもヴァル様が触るようにと」
「そうだったな。すまない」
ヴァルは慌てた様子でローゼの手を湯の上に引き上げた。ローゼはなんだか残念に感じてしまう。
「不思議な手触りでした。もう少し触ってみたかったです」
「ぜ、絶対に触らないと言っていただろう」
「でもヴァル様がお許しくださるなら別です」
「……怯えるどころか、関心を示すとは。あなどれん」
ヴァルは顔の下半分を覆いつつ、困り顔で目を伏せている。ローゼが首を傾げていると、ヴァルはなにやらぶつぶつと呟き始めた。
「しかし、これを機に慣れさせておいた方が……せっかくの好機……いやまて落ち着け……そもそも鱗が出たらどうする」
「そういえば以前バルコニーでヴァル様に抱きしめられた時、こういうものを腰の辺りにぐりぐりと押しつけられたような記憶があります」
「その表現はやめてもらおうか」
ヴァルは真顔になった。ローゼはくすくす笑う。
「さっきからヴァル様、表情がくるくる変わって面白いです」
「複雑な男心が表情に出てしまっているのだな」
「でもレイ叔父様が、男はみんな単純だって言っていました」
「そこが俺たちの愚かなところだ」
ヴァルとの他愛ない会話が楽しい。彼は二十も年上で、竜王という立場だから、普段からローゼは彼に遠慮してしまう。けれど今日は旅先の解放感からか、いつもより距離を縮めてヴァルと話せている気がした。
紺碧と夕焼けが溶け合うあたりは、不思議と白く澄んでいる。それを見上げながら、ローゼはこてんとヴァルの胸に頭を寄せた。
「ヴァル様」
湯気が睫毛をくすぐる。あたりはとても静かだった。
「好きです」
ぽつりと零した言葉がどうしてか切なくて、目の奥が痛くなる。
ヴァルが腕を回して優しく抱きしめたから、ローゼはよけいに泣きたくなった。
「俺もだ」
「好きです。大好き」
そう伝えた声が、掠れた。琥珀色の瞳から頬を伝って、涙がこぼれ落ちてしまう。お湯の中に小さく跳ね落ちて、けれどローゼは波紋を目で追うことができなかった。
ヴァルの手にあごを掬い上げられる。唇に、しっとりと口づけられた。
「ローゼ」
優しく食まれて、舌でなぞられる。彼の声が、ぞくりと腰の辺りまで伝い降りた。
「愛してる」
口づけが深くなる。
どちらからともなく舌を絡め合い、深く探り合った。体が動くたびに湯が揺らめき、耳に心地いい水音を立てる。けれどキスに耽っていたローゼには、別の音の方に意識を取られた。 溶け合う息づかいや、絡みつく唾液の音に。
「ん……、ヴァルさ、ま」
やがてキスは貪られるように激しくなり、後ろ頭をヴァルのてのひらで支えられた。もう片方の手がローゼの胸をつかみ、揉みしだいていく。
パシャリと大きく水面が波打った。
「ア、ん、ん……っ」
ローゼはヴァルの腕をつかむ。筋肉で固く鎧われて、ゴツゴツと固い。それに比べて自分はどうしてこんなにも頼りない体つきをしているのだろう。
節くれだった指に、乳房がやわらかく形を変える。突き出た色づきを指の腹で撫でられて、甘い疼きが下腹まで届いた。とろりとした蜜が流れ出るのを感じて、ローゼは身をよじる。
「だめ、ですヴァル様……お湯が、汚れちゃう」
「あとで湯をすべて替えておく」
端的に告げた後、ヴァルの手が下肢に伸びた。彼の指が届く前に、熱い水圧が下腹に掛かる。それを気持ちよく感じたローゼの花びらが、ゆらりとわずかにほころんだような気がした。
「おまえのかわいらしいここにも、触れれば固くなるところがある。知っているか?」
二本の指で割り開き、そっと襞をなぞり上げられる。突き当たりにあるわずかな尖りを軽く押し上げられて、ローゼの腰が引き攣った。
「あ……っ、ん」
「ほら、ふくらんできた」
指先でぬるぬると転がされる。温泉のお湯よりももっと粘ついた蜜が絡んでいた。それはローゼの体内から染み出たものだろう。
転がされ、摘ままれて軽く引っ張られる。腰の中がとろけそうだった。湯気で薄らいだ視界は、ヴァルから与えられる快楽のせいでもっと曖昧になっていく。
「ぁ、あ……っ、ヴァル様……っ」
彼の腕に爪を立ててしまいそうになる。気持ちがよくて、背すじが引きつれるように甘く痺れた。
他の指が入ってくる。きゅっと締まった襞をかき分けるように、ねじ込まれていった。
「やぁ、だめ……だめ……っ」
ローゼの感じるところを、軽く折り曲げた指で擦り上げられた。ふくらんだ粒は、親指の腹で撫でられ続けている。二つの快感を追い切れなくて、ローゼはびくびくと身を震わせた。
耳朶に押し当てられた彼の唇が、笑みの形を取る。
「ここでやめることはできないだろう? おまえがかわいそうだ」
もう一本の指が差し入れられた。これ以上入らないと思うのに、ローゼの膣は、それをくぷくぷと呑み込んでいく。
「美味しそうに咥えて」
「ちが……っ、ぁ、あ……ッ」
甘すぎる愉悦に、体の芯が溶けてしまう。お湯のせいもあり、体が熱くて仕方がない。少しでも涼を得たくて、ローゼは上へ伸び上がろうともがいた。その時、お尻のあたりに固く屹立したそれが触れた。
びくっとヴァルが身を震わせる。その弾みでローゼの体が崩れて、彼のそれをよりいっそうお尻に擦りつける形になってしまった。
「っ、ローゼ、待て」
「え? ――っあ」
彼の指を、ローゼの下肢はまだ食んでいた。偶然感じるところを擦り上げられてしまい、ローゼは花びらのような唇を震わせる。
「あ、ん……っ、ヴァル様」
「おまえは――本当に俺をどうする気だ」
噛み殺した声が耳朶を打つ。火照った体を快楽にゆだねて、ふとローゼは気付いた。
ヴァルの指を咥え込んでいる、ローゼのそこ。そして、ヴァルの固く突き立ったもの。
「も、しかして」
熱と愉悦に揺らめく中、ローゼはヴァルのそれに手を伸ばした。腰布越しに触れると、彼が息を呑む気配がする。
「ヴァル様、これを……わたしの中、に?」
しばらくの沈黙の後。
ローゼの中から、ヴァルの指が引き抜かれた。撫で退(すさ)る感触に肩を震わせると、宥めるように耳朶にキスが落ちる。
掠れた声で囁かれた。
「挿れてみるか?」