「うし、ろ……?」
快楽に侵されてもうろうとしたまま、シュゼットはくるりと体を反転させられる。扉にすがりつくような姿勢にさせられて、彼の大きな手が腰をつかんだ。
「なに、フィン――、ッ!」
蜜に濡れた花びらの上を、熱くやわらかななにかがぬるりと這った。その甘い衝撃に、シュゼットは目を見開く。
肩越しに振り返ると、あまりにもみだらな光景が視界に映り込んだ。
お尻のほうまでドレスをたくし上げられて、両脚のあいだにフィンがくちびるをよせている。絨毯にひざをついているようで、きれいな金色の髪が、窓からさす春の陽光にきらめいている。
二本の指でひらかれた粘膜を、ざらついた舌がぬるりと往復する。下肢が溶け崩れそうな快楽に、シュゼットはがくがくとひざを震わせた。
「あっ、ぁ、ああッ! やぁ、だめ、なめちゃだめっ……!」
「指はいらないと言ったのはシュゼットだろう?」
とろけきった蜜孔に、固くした舌をクチュッとさし込まれた。熱線のような愉悦が背すじを駆け上がってきて、シュゼットは喉を震わせる。
「甘い蜜をしているね。ここの色もかたちも、とても愛らしい」
「や、ぁ、見ないで……!」
「そのお願いだけは聞けないな。ごめん」
どのお願いも、ひとつも聞いてくれていないではないか。
シュゼットが反論しようとしたら、フィンが、舌を深く埋め込んできた。ぬるぬると襞をこすり立ててくる。
「ああぁッ! っねがい、も、やめ……ッ! ぁあ、だめ、イっちゃう……!」
蜜肉が蠢動して、きゅうっとフィンの舌をしめつけるのがわかった。
弱いところばかりをすり立ててくる巧みな舌淫に、凝りきった愉悦が弾ける。シュゼットは、シルクの靴下のなかで足の指を丸めた。
「あ……!!」
びくん、びくんと細腰をはねさせて、シュゼットは絶頂を味わわされる。
高まりきった波が引き始める前に、フィンの指が、蜜に濡れてふくらんだ花芯をなでまわしてきた。
「きゃああっ」
舌が引き抜かれる。ぐちゅぐちゅと陰核をこねまわされる動きはとまらなくて、シュゼットは、ついにひざを折って崩れ落ちそうになった。
直後、フィンが立ち上がって片腕でシュゼットを抱きとめる。その手で、ドレスの上から乳房をつかみ、指の腹で花芯を愛でながら、打ち震える体を真下からズクリとつらぬいた。
「――ッ!!」
背をしならせて、凶悪な快楽に喘ぐシュゼットを、フィンが力強く抱きしめる。
「ひ、っあ、あ、ァああ!」
「っ、シュゼット」
ぐちゅっと奥までねじこんで、フィンは、シュゼットの耳もとで荒く息を吐く。一度引いて、また子宮の底を打ちつけた。
「あ、あ、あっ、フィン、っめ、待っ……!」
「俺は、ッ充分すぎるほど待ったよ、シュゼット」
いまだ初々しさの残る隘路を、あふれる蜜を押しだすようにして、フィンは激しくこすり立ててくる。体内を蹂躙する凶悪な熱塊に、頭がおかしくなりそうなほどの快楽を流し込まれて、シュゼットにはなすすべもない。
絶頂から下ろしてもらえずに、シュゼットは全身を震わせる。
「ッあ、ァ、ああっ! フィン、フィン……ッ!!」
「シュゼット……!」
たぎりきった欲望に犯されつくして、みだらな熱に満ちた膣肉が、フィンの性を食いしめる。
すぐ耳もとで、フィンが息をつめる気配がした。ぐっと腰を押しつけられ、体内の最奥を穿たれて、思考回路が溶かされるほどの快楽にシュゼットの視界が明滅する。
フィンの、熱く濡れた情欲をその場所で受けとめて、シュゼットは声もなく、フィンの腕にぐったりと身をゆだねた。
「っ、は――」
フィンが短く息をつく。両腕で、背中からシュゼットを抱き込みながら、耳のうしろにくちびるを押しあてた。
ゆっくりと抜き差しをくり返し、熱くとろけるシュゼットの体内を味わうようにしたのち、ずるりと自身を引き抜く。
「あ……、っん」
「シュゼット――」
狂おしいほどの恋情のこもったささやきが耳にふれて、それから先、シュゼットの意識は断ちきれた。
あたたかなものにくるまれているような感覚がずっと続いていた。
素肌のふれる感触が心地よくて、体だけでなく心まで、じんわりとあたたかくなってくる。
「んー……」
眠りにたゆたっていた意識がゆっくりと浮き上がって、シュゼットはうっすらと目を開けた。
そして、視界に映り込んだものを見て、頭のなかが真っ白になった。
「……」
いまは夕方あたりだろうか。そしてここは、ベッドの上である。
紫がかった薄闇のなか、ていねいに描き込まれた絵画のようにきれいな顔立ちをした青年が、まぶたを閉ざして眠っている。長く繊細なまつげと、すっと通った鼻すじ。かたちのいいくちびるは、薄くひらいている。
ひどく無防備な、けれどとてもきれいな寝顔に、シュゼットは言葉を忘れた。
やがて、その彼のたくましい両腕が、自分の体にからみついていることに気づく。
両腕だけでなく、彼の脚まで自分の脚にからめられていて、数秒後、シュゼットの頬がかぁっと赤く染まった。
「シュゼット……?」
眠たげな声に呼ばれて、シュゼットの鼓動がはね上がる。
青色の瞳をあけてシュゼットを見つめたのち、フィンは、ひどく甘くほほ笑んだ。
「おはよう、シュゼット」
「お、お、お、おはようございます……」
フィンの大きなてのひらが、シュゼットの頬にふれる。
「体、つらくない?」
「大丈夫、だと、思う……」
「すこし体温が高いみたいだね」
フィンは心配そうに眉をよせた。
「ごめん、さっきは激しくしてしまった。もう少しここで休んでもらいたいところだけど」
フィンは、片腕の力で上体を起こし、壁かけ時計を見た。上掛けがずり落ちて、フィンのたくましい胸筋がさらされたので、シュゼットは慌てて目をそらす。
(イケメン有罪すぎてつらい……!)
「ああ、ずいぶん遅くなってしまったな。つい眠り込んでしまった。ご両親には、夕食前に送り届けると手紙を送っておいたんだ。もうすぐきみを馬車に乗せないといけない」
いつのまに手紙の手配をしたのだろう。あいかわらず、手際がよすぎる。
枕に頭を戻し、フィンは、シュゼットの髪をなでた。とろけるような熱のこもった瞳で見つめられる。
「でも、もう少しだけこうしていてもいいかな。シュゼットが、俺の腕のなかにいるなんて夢みたいだから」
「だ、だから、そういうきざなセリフは、だめだよ……」
きっと耳まで赤くなっている。フィンのくちびるがひたいに押しあてられた。
「本心で言っただけなんだけど、そうだったね。シュゼットは、シンプルな言葉が好きだったね」
ほほ笑みながら、フィンは、シュゼットの髪をなでていたてのひらをするりとすべらせて、小さなあごを持ち上げた。
「愛してるよ、シュゼット」
そのまま淡く口づけられて、きれいな青い瞳で見つめられる。
「結婚しよう」
シュゼットはゆっくりと目を見開いた。
びっくりしすぎて声が出ない。
フィンからのプロポーズは二度目だし、それだけでなく、似たような言葉をたくさんかけられてきた。
でも、自分から「フィンが好き」と告白したあとだと、意識がちがってくる。
自分の好きなひとから、プロポーズされた。
そういう意識に、変わってくる。
「シュゼット?」
言葉の出ないシュゼットを前に、フィンは心配そうな顔つきになる。
「大丈夫か? やっぱりむりをさせすぎたかな……。ごめん、次からはもっと優しくするから――」
フィンの声はそこでとぎれた。
シュゼットの黒瞳(こくとう)から、涙がこぼれたのを見たからだろう。
「フィン……」
シュゼットは、涙にかすれた声でフィンを呼んだ。フィンが、その涙を指の背でそっとぬぐう。
「シュゼット……?」
「わたしも、フィンと結婚したい」
涙があふれて視界がゆがむ。フィンの顔が見えづらくなって、だから、彼の頬に手を伸ばした。ふれたとたん、強い力で抱きしめられて、くちびるがふさがれる。
「ぅん……ッ」
「かならず幸せにする」
深く口づけられ、角度を変えるあいまに、熱くささやかれた。
「愛してるよ、シュゼット。きみを愛してる」